2024年05月17日( 金 )

坐して自滅を待つのではなく~反撃能力保有を閣議決定(前)

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DEVNET JAPAN顧問
前駐ノルウェー日本国大使
田内 正宏 氏

 Net I・B-Newsでは、ニュースサイト「OTHER NEWS」に掲載されたDEVNET INTERNATIONALのニュースを紹介している。DEVNET(本部:日本)はECOSOC(国連経済社会理事会)認証カテゴリー1に位置付けられている(一社)。「OTHER NEWS」(本部:イタリア)は世界の有識者約1万4,000名に英語など10言語でニュースを配信している。今回は2月24日掲載の記事を紹介する。

1:厳しく複雑な安全保障環境

国連 イメージ    昨年2月のロシアのウクライナ侵攻によりロシアが自国の安全保障上の目的達成のため軍事力に訴え他国を侵略することを辞さないことが明らかとなった。その過程でプーチン大統領は核兵器による威嚇ととれる言動を繰り返した。ロシアは我が国周辺における軍事活動を活発化させ我が国固有の領土である北方領土でも軍備を強化している。

 ロシアは中国との間で戦略的な連携を強化し、特に近年は、我が国周辺での中露両国の艦艇による共同航行や爆撃機による共同飛行等の共同演習・訓練を継続的に実施するなど、軍事面での連携を強化している。ロシアの軍事活動は、国際秩序の根幹を揺るがし、欧州においては最も重大かつ直接の脅威と受け止められ、我が国を含むインド太平洋地域においてもロシアの軍事動向、対外的活動等は、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念である。

 中国は東シナ海、南シナ海において、力による一方的な現状変更を推し進めている。沖縄県の尖閣諸島周辺では中国公船の領海侵入が常態化している。台湾について中国は、平和的統一の方針は堅持しつつ、武力行使の可能性を否定していない。さらに、中国は我が国近海への弾道ミサイル発射を含め台湾周辺空域において軍事活動を活発化させており、台湾海峡の平和と安定については、インド太平洋のみならず、国際社会全体において急速に懸念が高まっている。

 北朝鮮はかつてない高い頻度で弾道ミサイルを発射し昨年はその回数が過去最多の37回に及び急速にその軍事能力を増強している。特に米国本土を射程に含む大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルの発射、変速軌道で飛翔するミサイルを含む新たな態様での発射、発射台付き車両・潜水艦・鉄道といった様々なプラットフォームからの発射等により、ミサイル関連技術及び運用能力は急速に進展し、我が国の安全保障にとって、一層重大かつ差し迫った脅威となっている 。

 ロシアのウクライナ侵攻により、NATOへの加盟を申請している国(ウクライナ、ジョージア等)でも正式な加盟国とならない限りロシアの侵攻に対してNATOの軍事的な介入による支援が得られないことが周辺のNATO非加盟国に強い危機感を与えた。長らく中立・非同盟の政策をとってきたフィンランドとスウェーデンも防衛政策を転換させてNATO加盟申請に至った。NATOは国連憲章に定められた自衛権を行使しているウクライナを兵器の供与で支援しているが、ロシアを過度に刺激しないようにするため、供与する兵器の質や量は制限されたものであり、ウクライナのゼレンスキー大統領が常に強力な最新鋭兵器の供与を要請してもその思いどおりには供与されてこなかった。そのため、ロシアとウクライナの戦争は長引き、ウクライナが甚大な損害を被ることになるが、戦いを続けるか否かは当のウクライナが決めることであり、戦い続けなければ独立国家が一つ消えてしまという難しい状況に置かれ苦しい戦いを続けている。

 「国際の平和と安全」を担うはずの国連安保理では、2022年2月、ロシアに対してウクライナからの軍の即時撤退などを求めた決議案がロシア自身の拒否権によって否決されたほか、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対して制裁を強化する決議案が中国とロシアの拒否権によって否決されるなど、安保理が機能不全に陥っていることが明らかになっている。

 かくしてどの国も自衛の方策を自ら講じることが必要であるが、一国では自国の安全を守ることはできない時代となっている。戦後の国際秩序への挑戦が続く中、我が国は普遍的価値と戦略的利益を共有する同盟国・同志国等と協力・連携を深めていくことが不可欠である。同盟国・同志国との同盟関係や協力関係を日ごろから構築・強化し、我が国の存立と国民の保護の目的を果たすとともに平和構築にふさわしい役割を果たしていかなければならない。

(つづく)

(後)

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