2024年05月17日( 金 )

終わりに近づく意義不明の金融引き締め(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は3月13日発刊の第328号「終わりに近づく意義不明の金融引き締め~SVB破綻が米国株高の起点になる可能性~」を紹介する。

(2)実は意義不明の金融引き締め(つづき)

 利上げの効果がしり抜けなのは、労働市場も同じである。利上げによる景気減速、労働需給緩和というプロセスは起きていないのに、賃金上昇率ははっきりピークアウトしている。結果オーライではあるが、なぜだろうか。2023年2月の雇用統計では、雇用増加数は31.1万人、失業率3.6%と絶好調なのに、平均時給は2022年1月の0.7%、3月0.6%をピークに、8月(0.3%)、9月(0.3%)、10月(0.4%)、11月(0.3%)、12月(0.3%)、2023年1月(0.3%)、2月(0.2%)と確実に鈍化してきた。

 また平均失業期間は2019年9.3週から2021年16.1週、2022年8.7週の後、2023年2月には8.3週へと短期化している。

 その分析は前々回レポートしたが (ストラテジーブレティン325号、2月14日)、労働市場が弾力的に動き、資源配分を采配していると考えられる。より具体的には、NAIRU(インフレを加速させない失業率)が低下している可能性である。労働市場ではインターネットによって求人と求職のマッチングが瞬時にできるようになった。

 またよりフェアな労働賃金決定が可能になっている。スキルアップによるジョブシフトが給与増+生産性上昇を引き起こしているかもしれない。NAIRUが低下しているとすれば、それは労働力供給余力を意味し、生産増加の一方で賃金が抑制される環境にあるのかもしれない。

 つまり利上げで景気を減速させる必要がもはやないのではないか。

図表7: ピークアウトした平均時給/図表8: 失業率と求人未充足率

図表9: 53年ぶりの低失業率とNAIRU

(3)今何が起きているのか、NAIRUの低下、自然利子率の低下、いずれも株高要因

 このように、利上げ⇒総需要抑制・景気減速⇒求人減・資金需要減⇒賃金上昇率下落⇒金利下落という、FRBの想定したマクロ経済のトランスミッションメカニズムが働かないまま、政策のゴールが実現できている、という「不思議」が起きている。ならば、何のための利上げなのだろうか。

 利上げの副作用が顕在化し、政策の目標が利上げ以外の経路で実現されているとすれば、もはや利上げは必要ない、ということになる。結論は、一時的供給制約の下で起きたインフレは、供給サイドの改善で沈静化しつつあり、総需要の抑制は必要なかった、といえるのである。

 この「不思議」の背景には、自然失業率(≒NAIRU)の低下と自然利子率の低下、というコロナ禍前からの長期トレンドが持続していると考えるほかないのではないだろうか。自然失業率、自然利子率の低下は技術進化(=供給力の上昇)によってもたらされており、放置されればデフレと成長率の低下を引き起こす、と考えられる。これは日本病(Japanification)そのものであり、米国経済は依然としてデフレのリスクをはらんでいる、とも考えられる。

 その関係を図表10で考えていただきたい。よって余剰(Slack)を稼働させる適切な需要創造政策の対応が望まれ、その下ではリスク資産の上昇が期待できる、と考えられる。

図表10: 新産業革命=生産性・供給力上昇がデフレと低金利の根本原因

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開催概要

<日時>
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午後6時開演(午後5時30分受付開始)~午後8時50分
<会場>
ニューオータニガーデンコート1F
紀尾井フォーラム
<参加費>
2万円(税込)受付にて現金のみ
<定員>
40名

プログラム概要

司会:岸田恵美子氏

講演(1)
『賃金上昇と格差縮小が日本の成長をもたらす~鍵を握る高圧経済政策~』
 (株)武者リサーチ 代表 武者 陵司

講演(2)
『日本株は「異次元の強気相場」へ!~長期デフレを超えて~』エリオット波動からみた相場展望
 (株)マネースクエア チーフテクニカルアナリスト 宮田 直彦 氏

質疑応答と参加者によるディスカッション

(了)

(前)

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