リニアも小浜ルートも千年の愚行

政治経済学者 植草一秀

 日本の政治は「国民を幸せにしない政治」。政治に関わる者が「国民の幸せ」ではなく「自分の幸せ」しか考えていないからだ。

 自民と自民に同調する政治勢力がこれ。官僚機構も同じ。自分たちの利権、利益しか考えない。だから、国が悪くなる。とても住みにくいのが日本だ。

 治安がいい、平和である、は日本の特性だが、政治が決定的に悪い。「日本を豊かに! 成長する日本!」などというが、実態は「自分を豊かに」しか考えていない。

 「成長」が叫ばれて久しい。「成長戦略」を前面に押し立てたのは2012年12月発足の第二次安倍内閣。14年も経過したが、日本の成長率はまったく高まっていない。高市内閣は「成長投資」を叫ぶが、大企業に利権補助金・投資資金をバラまくだけだ。

 利権補助金のバラマキには必ず「キックバック」がある。キックバック目当てに美辞麗句を並べて利権補助金と投資資金のバラマキを実行する。この利権補助金に財政資金が充当されるから社会保障を切る必要が生じる。完全な本末転倒なのだ。

 静岡県知事がリニア中央新幹線の静岡工区着工許可方針を発表した。与党は北陸新幹線の延伸ルートを「小浜-京都ルート」とした。いずれも「千年の愚行」である。

 京都仏教会の見識は高い。「小浜-京都ルート」について「千年の愚行」と断じている。だが、与党は「小浜-京都ルート」を決めた。その延伸はいつ完成するのか。開業は最速で2053年度以降。常に遅れるから2060年頃と見ておくべきだろう。

 2060年に日本がいまの日本であるわけがない。この選択がなされる理由は一つしかない。工事に膨大な時間と費用がかかること。業者は長期間にわたって利益を生み出す装置を求めている。新幹線が必要なのではない。巨大な工事が必要なだけだ。そして、その工事に要する時間は長ければ長いほどいい。その期間の収入・利益が保証されるからだ。

 国民の幸せなど完全に考慮の外。この基準で動く人々が政治を仕切るのだから「国民を幸せにする政治」が実現するわけがない。

 敦賀と米原を結ぶなら圧倒的に工期を短縮できる。費用も圧倒的に小さい。米原-新大阪間のダイヤが過密化するなら、米原-新大阪間を複々線化すればよい。すでに線路が敷かれているから増設は極めて容易である。

 国民の幸せを基準に考えるなら、答えはこれしかない。リニアは中止。誰でも分かる解答を示すことができない。日本政治の劣化である。

 腐敗臭が立ち込める政治。それを許しているのが日本の主権者であることが根本の根本の問題だ。

 リニア中央新幹線は路線の9割がトンネル。名古屋が開業しても節約できる時間は僅少だ。品川の乗り換えに時間がかかる。名古屋で在来線駅に到達するのに時間がかかる。大阪まで行く人は名古屋で乗り換える方がはるかに不便だ。景観も望めない。1回は乗るかも知れないがリピートする人は少ないだろう。

 在来の東海道新幹線利用者がリニア利用に転じる場合、在来の新幹線の利用者が激減する。JR東海の収支は劇的に悪化するだろう。JR東海がJR倒壊になってしまう。

 笑いごとでない。日本で警戒しなければならない最大の災害は巨大地震。リニア運行時に巨大地震が発生すれば取り返しのつかない事態が発生するだろう。避難経路が確保されるとは考えられない。

 大都市部の大深度工事は難航を極めている。地下40メートルに直径16メートルの穴を開ければ地表に影響しないと考える方がおかしい。現実に道路建設では東京都調布市で大規模な地表の陥没が発生している。同じ問題がリニアと北陸新幹線の京都延伸で発生するだろう。

 地下トンネルの建設は地上の重大な水問題を引き起こす。すでに岐阜県等で重大な問題が表面化している。リニアの場合、9割がトンネルであるため残土処理が極めて難しい。野放図な盛り土を行えば熱海のような大水害を発生させる恐れも生じる。また、掘削する土に放射性物質等の有害物質が含まれている地域が存在する。その適切な処理方法も確立されていない。

 日本はいま急激な人口減少に直面している。人口減少は経済のパイの縮小をもたらす。あらゆる分野で需要量の絶対的な減少が発生する。鉄道輸送の採算を考察する際に最重要のプロセスは需給予測。需要が急激に減少するのに供給を激増させれば稼働率が急低下する。稼働率の急低下は事業の赤字化をもたらす。

 工事や土地売却で利益を得ようとする者には巨大工事は「利益の源泉」だが不要な造作物の建造は国民にとって有害無益の長物である。京都仏教会が提示する「千年の愚行」は適切な表現だ。

 「千年の愚行」を指摘されて、なお愚行に突き進むのは「空前絶後の愚行」である。北陸新幹線の開通が東海道新幹線のバイパスである。東海道新幹線のバイパスを確保するにはリニア新幹線建造よりも北陸新幹線全線開通がはるかに良策だ。その北陸新幹線建設の費用対効果を考察するなら、敦賀-米原か、敦賀-湖西線-京都を選択するしかない。

 鉄道ジャーナリストの北村幸太郎氏が詳細な検証を行い、論考を提供されている。
「不便なのに3兆円もコスト増の「小浜ルート」を選ぶ謎
…政府がゴリ押しする北陸新幹線延伸案への強烈な違和感だけ」
https://x.gd/q4Gu0

 敦賀-米原延伸が最善であることは明白である。すべてが「利権」によって歪められる。「利権」ですべてを歪める政治が日本政治の本質だ。そんな政治の下に置かれる国民は不幸だが、その不幸な政治を生み出しているのが国民自身であるというのはブラックジョークでしかない。

 「国民を幸せにする政治」を考える必要がある。「国民を幸せにする政治」を目指す政治勢力の登場と、「国民を幸せにする政治」実現を求める国民の登場の二つが必要である。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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