2024年05月07日( 火 )

ついに博多駅まで延伸開業 地下鉄七隈線のこれまでとこれから(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

地下鉄・第3の路線

新車両「3000A系」(福岡市交通局提供)
新車両「3000A系」(福岡市交通局提供)

    2005年2月に開業した七隈線は、西区の橋本駅から早良区および城南区を通り、中央区の天神南駅までの約12.0km・16駅を結ぶ鉄道路線で、「福岡市交通事業の設置等に関する条例」による路線名は「3号線」。福岡市地下鉄では、1号線「空港線」(1993年3月全通)および2号線「箱崎線」(86年11月全通)に続く第3の路線となっている。使用されている車両は、急曲線・急勾配に対応した鉄輪式リニアモーター。福岡市地下鉄の空港線および箱崎線よりも車両およびトンネル径が小さい「ミニ地下鉄」となっており、規格が違うため相互乗り入れを行うことはできない。

 七隈線が通る市の西南部地域は、1970年ごろから住宅地を中心として急速に開発が進んできた比較的新しい市街地である。福岡大学をはじめとした教育機関が立地し、都市化が進行しているにもかかわらず、鉄軌道がないために通勤・通学などの移動はバスや自動車に頼らざるを得ず、各所で交通渋滞が慢性化していた。効率的で利便性の高い公共交通体系の確立を図ることで、そうした交通渋滞を緩和し、均衡あるまちづくりを推進するために計画されたのが、地下鉄七隈線だ。

 71年3月に都市交通審議会において「高速鉄道路線の新設」が答申され、86年3月の第2回北部九州圏パーソントリップ調査で「西南部公共交通施設」の提案が行われた。その後、88年4月に策定された福岡市総合計画のなかで「都心部と西南部を結ぶ新しい交通機関の早期導入を図る」旨が記載され、89年10月の九州地方交通審議会で「西南部中央部と都心部を結ぶ都心放射状の鉄軌道系輸送機関の導入について、地元自治体を含め検討を図る」との答申がなされ、92年4月の第14回福岡都市圏交通対策協議会において、地下鉄3号線(七隈線)計画の福岡市案が基本的に了承されたことで、実現に向けて動き出した。

 その後、導入計画調査の実施や関係機関などとの協議・調整、国の予算案決定などを経て、95年6月に運輸省(現・国土交通省)から鉄道事業免許が下り、事業が本格的にスタート。97年1月に地下鉄3号線の起工式が行われて工事がスタートし、05年2月に開業を迎えた。

 こうして開業した七隈線だったが、開業当初から都心部区間が未整備で残されており、鉄道ネットワークとしては不十分な状態が続いていた。そこで、2007年度から10年度にかけて延伸区間の検討が行われ、11年度に天神南~博多の延伸についての事業化に向けた検討を開始。12年6月に鉄道事業の許可を取得したことで、七隈線延伸事業がスタートした。13年度には土木本体工事に着手。14年2月に起工式を行い、以降は20年度の延伸開業に向けて工事が着々と進んでいった。

大規模な陥没事故発生

大きく陥没したはかた駅前通り(2016年11月8日撮影)
大きく陥没したはかた駅前通り
(2016年11月8日撮影)

    ところが16年11月8日未明、福岡市博多区の博多駅前2丁目交差点付近で、片側2車線の道路が大きく陥没する事故が発生した。七隈線延伸工事でのトンネル工事において、現場作業員が掘削作業をしていた午前4時25分ごろにトンネル上部が一部崩壊。その後、異常出水が発生して水や土砂がトンネル内に流れ込み、午前5時15分ごろには道路が陥没。陥没は最大で幅約27m、長さ約30m、深さ約15mにまで拡大した。

 この事故の影響で、博多駅周辺では停電や断水が相次ぎ、ガスの供給も止まり、ライフラインは一時ストップ。前代未聞の大規模な陥没事故だったが、発生時刻が人通りの少ない時間帯だったため、奇跡的にケガ人はいなかったのが不幸中の幸いだった。

 この事故を受けて、福岡市は早急に埋戻し作業を指示し、同日午後2時30分ごろには道路仮復旧作業を開始。事故から約1週間後の11月15日に道路仮復旧は完了し、交通規制は解除された。ライフライン等の被害もすべて復旧・解除され、博多駅前は日常を取り戻したかに見え、早急な対応と仮復旧までの早さに、国内外から称賛の声が挙がった。

 その後、陥没事故の原因究明や、工事再開に向けた調査工事の実施、坑内に流れ込んだ土砂の撤去などを経て19年7月、事故の発生から約2年8カ月ぶりに陥没箇所のトンネル掘削工事を再開。陥没事故を教訓として、計測の確認頻度の見直しや安全パトロールの体制強化などの安全に関する取り組みを強化しながら、工事区間によって4つの工法(シールド工法、開削工法、ナトム工法、アンダーピニング工法)を使い分けて工事を進めてきた。

 なお、陥没事故の影響で、当初20年度の予定だった開業時期は22年度(23年3月)に見直された。また、当初450億円を見込んでいた事業費は、陥没事故の影響に加えて、鉄道事業許可取得後の物価上昇などの社会情勢の変化などによる影響で、約587億円となる見通しとなっている。

空港国際線に延伸か!?

 3月27日の延伸開業をもって、12年6月にスタートした七隈線延伸事業もいったん終了となるが、今後、七隈線がさらに延伸される可能性もある。

 22年11月、4選を決めた福岡市の高島宗一郎市長は、七隈線のさらなる延伸について言及した。その延伸先は、福岡空港国際線ターミナルである。想定されるルートは、今回の延伸ルートを延長するかたちで博多駅から筑紫通りを進み、山王地区に設置された中間駅を経由してきよみ通りに入って国際線ターミナルに接続するもの。博多駅から国際線ターミナルまでを約5分程度で結ぶことが想定される。

七隈線のさらなる延伸も検討される
七隈線のさらなる延伸も検討される

    現状、地下鉄空港線が福岡空港まで乗り入れているものの、福岡空港駅が位置するのは国内線ターミナルであり、国際線ターミナルまでは直線距離で約1.3km離れている。無料シャトルバスで連絡しているが、移動には約10~15分程度かかり、決してアクセスが良い状況ではない。七隈線がさらなる延伸によって国際線ターミナルに接続すれば、国際線ターミナルの利便性が向上して福岡市の都心部と海外とがよりシームレスにつながり、今後の都市・福岡の発展に寄与していくことが期待される。ただし、七隈線の国際線ターミナルまでの再延伸は、まだあくまで検討段階。14年5月に改訂を行った「福岡市都市計画マスタープラン」の目標年次が今年3月末までとなっており、まもなく更新時期を迎えることになるが、同マスタープランの更新時に七隈線の再延伸について言及される可能性はある。

(了)

【坂田 憲治】

(前)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事