USJをV字回復させた立役者 森岡氏がハウステンボス再建へ（後）

沖縄でテーマパーク事業を準備

　17年、森岡氏はマーケティング支援会社の刀を設立して最高経営責任者（CEO）に就いた。「刀」という風変わりな社名には、日本企業の国際戦略上の「1つの武器」になりたいという意味を込めた。古くは日本の侍にとっての武器は刀、現代の日本企業の武器はマーケティング、つまりマーケティングを武器として使ってくれという意味だ。刀に馳せ参じたメンバーはかつてP&Gに勤務し、USJをV字回復させた立役者たち。

　18年8月、沖縄県でテーマパーク事業の展開に向けた準備会社（株）ジャパンエンターテイメント（那覇市）を立ち上げた。テーマパークは沖縄の自然や文化をテーマにした内容。本島北部に集客力のあるテーマパークを建設することで、観光客を誘致して消費を喚起し、雇用創出や周辺地域のインフラ整備につなげる方針だ。

　森岡氏は、「沖縄に建てるプロトタイプ（原型）のテーマパークを成功させ、（需要が見込める）世界の何百カ所とあるエリアに展開させたい。世界中でしっかりと中長期で（ライセンス料）を稼げる日本発の構造をつくりたい」と話し、USJ時代に断念したテーマパーク構想を進める意義を強調した。USJを去る際、「これだけはやりたかった」と吐露したのが沖縄進出であり、沖縄テーマパーク構想だ。

　「沖縄にはハワイを超えるポテンシャルがある。」沖縄の青い海など美しい自然を観光資源にする戦略でパークをつくれば、日本のみならず中国や台湾などアジアから多くの観光客を呼び寄せることができる。マーケターとしてテーマパークを一から立ち上げたいという悲願に一歩近づいた。沖縄テーマパーク事業に向けた準備を進めている。

丸亀製麺、西武園ゆうえんちなどを再生

　「刀」の初仕事は、（株）トリドールホールディングスが運営する、うどんチェーン丸亀製麺の復活。丸亀製麺のブランド力や集客策のテコ入れに乗り出し、客足を戻した。

　かつて1980年代に厚生省の旗振りのもと、保険者・年金受給者のための保養施設として巨額な年金資金を投じて建設されながら経営破綻した大規模保養施設グリーンピア三木（現・ネスタリゾート神戸）を再生させた。

　（株）西武ホールディングスが運営する西武園ゆうえんち（埼玉県所沢市）は21年5月に大規模改修を経て開園した。園には1960年代の昭和の商店街が出現。アトラクションでは「ゴジラ」をテーマにした乗り物も導入し、若者から家族まで幅広い来園者の取り込みを目指す。

　かつて人気施設だった西武園ゆうえんちを蘇らせたいと、後藤高志（株）西武HD社長は、USJ再建の立役者として脚光を浴びた森岡氏に声をかけた。とはいえ衰退したレジャー施設を蘇らせることは至難の業で、さすがに森岡氏も躊躇したが、「2年間じっくり研究し、勝ち筋が見えた」として、再生を引き受けたという。

　西武園ゆうえんちの再生のコンセプトは、「心あたたまる幸福感に包まれる世界」だ。自ら再建を手がけたUSJが「興奮」、オリエンタルランドの東京ディズニーリゾートが「ディズニー映画の世界観」を売りにするなか、古い設備を生かしながら少ない投資額で集客力を高める最適解が「幸せ」だという。60年代の日本をイメージした昭和レトロの街並みを再現する。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に代表される60年代の温かな世界観は、幸せの原体験として日本人の共通の価値観として根付いている。

　森岡氏は2020年1月の会見で、「最新テクノロジーからはほど遠いが、古さという良さを逆手にとろうと考えた。デジタルの刺激に慣れた若者は非日常体験を求めている。昭和の人間同士の温かい交流は面白がられる」と話した。

　ただ、昭和レトロな遊園地になると報じられると、ネット上では「若者は昭和レトロなんてそんなに興味はない」など厳しい意見が相次いだ。おじさん世代の勝手な思い込みなのかはどうか、今後明らかになるだろう。

　このように数々の再生を手がけてきた森岡毅氏が、今後、ハウステンボス（HTB）の運営を支援することになる。HTBの来場数は300万人で頭打ち。再生請負人の森岡毅氏は、USJのように、HTBの来場者数を劇的に引き上げることができるか。

　ディズニーという成功体験をもつ米国と比べて日本のパークビジネスのすそ野は狭いが、政府が注力する観光産業の中核となる分野だ。コロナ後のパークビジネスの行方を占ううえで、HTB再建は重要な意味をもっている。

（了）

【森村　和男】