2024年05月06日( 月 )

技能実習制度および特定技能制度の在り方 新制度への移行を検討

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技能実習生 イメージ    法務省はこのほど、外国人人材の受け入れと共生に関する閣僚会議の下に設置した、「技能実習制度および特定技能制度の在り方」に関する有識者会議が取りまとめた中間報告書のたたき台を公表した。

 技能実習制度は、この制度上で外国人を雇用した企業が、働きながら日本の技術を学べるように技能実習計画に従って育成し、途上国への技術移転をする国際貢献を掲げ1993年にスタートした。耕種農業や機械加工など87職種の企業が、海外からの外国人労働者を雇用できる制度になっている。

 2022年12月時点では約32万5,000人が雇用されており、最長で5年間、技能実習計画に従って同業務内で働ける制度である。しかし制度がスタートしてから約30年間で、企業は本来の目的から人手不足を補う労働力確保の対応策と同等の運用が行われる傾向になっていた。

目的と実態の乖離

 このように技能実習生を雇用する企業は本来の国際貢献という目的から離れ、多くの問題が浮上するなか、制度の趣旨との乖離に気付き始めた今、ようやくこの制度を見直す時期にきたとの判断をくだすことになったのであろう。

 まず技能実習制度について整理すると、技能実習には1号から3号までの種類がある。来日して企業に雇用されてからの1年間が1号、次の2年間が2号、さらに最終の2年間が3号と、最長で5年間、技能実習計画に従って専門の技能や知識を学び育成されていくことで、習熟度が向上するステップを進んで習得していく仕組みになっている。

 最長5年間の技能実習を修了した後は、原則として母国に帰国する必要があるのが、この制度のルールとなっている。その理由は、技能実習制度の趣旨である「技能実習で修得した技能を母国に移転し開発途上地域等の発展に貢献する」ことが制度の目的であるためだ。

 もし、この5年間の実習期間が終了後に帰国せず、在留したままで他の就労ビザに変更できてしまえば、継続的に日本に定住したまま本来の目的である母国に技能の移転ができなくなるので、制度上、原則的に帰国しなければならないというルールを設けている。

 この新設された特定技能制度には、特定技能1号と2号があり、それぞれに在留する際の条件や制限が決められている。現在の制度上、介護や農業などの12分野で働くことができる。

 技能実習制度の趣旨である目的とは異なり、技能実習制度がスタートした後から新設された特定技能制度の趣旨は「国内で人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性や技術を有する外国人を受入れることができる」、つまり労働力となる人材を確保できることを目的とした制度が、2019年4月から開始された。

 そして技能実習制度だけでは実習期間の5年間が経過した後も、継続して日本で働ける在留手段がないことから、特定技能制度を創設して、技能実習期間が終了後も在留して働くことができるようにした制度といえる。

技能実習から特定技能への移行

 技能実習から特定技能へ移行する方法には、原則と例外措置がある。特定技能には例外措置として、技能実習1号の1年間が終了し、次の技能実習2号の2年間が終了した合計3年間が終了する時期の技能実習生は、いったん、母国に帰国することなく、特定技能1号へ移行することが例外措置として認められる制度となっている。

 特定技能に移行するには、実務上、技能実習計画が2年10カ月以上の期間を終了していることが必要である。そのうえで「技能検定3級」実技試験と学科試験の2種類を含む「技能実習評価試験(専門級)」を受験し合格することが必要となる。

 これらの試験合格証明書の写しと、技能実習制度実施者である実習生の雇用企業が作成する「技能実習生に関する評価調書」をそろえることで、技能実習生が特定技能へ移行する手続きができるようになる。

 ただし、特定技能1号の外国人を受入れる事業者が(特定技能所属機関)当該外国人を技能実習生として受入れたことがある場合で、かつ、特定技能所属機関が過去1年以内に技能実習法の「改善命令」や旧制度の「改善指導」を受けていないこと、現在の技能実習生を引き続き同じ企業が受け入れる場合で、その企業が違法行為などで行政から改善命令などを受けていない場合は、当該企業からの前記3種類の資料の提出は不要となっている。

 有識者会議が示した制度の変更点を要約すると

■現在の技能実習制度
<趣旨>
人材育成を通して技術移転による国際貢献が目的
<転職>
原則的に転職できない
<日本語能力>
原則的に定めがない
<職種>
87職種に切り分けている
<協同組合(監理団体)>
監理が不十分な企業との癒着した組合が存在した
<受入上限>
なし

■たたき台の新制度改善案
<趣旨>
人手不足の労働人材確保と人材育成
<転職>
一定の制限をして緩和
<日本語能力>
就労開始前に日本語能力の担保方策を検討
<職種>
現在の特定技能12分野に準ずる
<協同組合(監理団体)>
要件の厳格化と不適切組合の認可取り消し排除
<受入上限>
特定技能に準じて透明性を確保する方策を検討

転籍が容易になどことで予想される検討課題

 これまで技能実習制度で働く技能実習生が、原則的にできなかった転籍が、新制度になって容易化する場合、賃金格差による好条件の都市部へ人材流入が増加すれば、地方の働き手の人材確保が困難になるため、この予想される偏りをなくす方策が早急な課題となるであろう。

 併せて、転籍する際に必要な事務手続きや移動などにかかる多様な経費などを、誰が、またはどこが負担すべきなのか、あるいは誰かが、またはどこかが負担せざるを得なくなるものなのか、といった課題もある。

 そのほかにも予想される課題は山積しており、現場で働く実習生たちや受入企業、協同組合(監理団体)や送り出し機関などからの聴き取りに基づき、現場第一の目線で、漏れなく課題が解消できる解決方策を、有識者会議では、引き続きしっかりと討議してもらいたい。

【岡本 弘一】

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