2024年03月05日( 火 )

(株)アダル、武野重美会長が見た上海の「いま」(3)

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ハングリー精神の喪失

 都市の成熟だけではない。上海人そのものの意識が、相対的に成熟してきたと感じた。
 劉氏の話に移ろう。同氏は妻と共稼ぎして月収35万円を得ていた。事務所から4kmのところにマンションを購入したのが、99年のことである(意外と中心部に近いところに買えたものだ)。現在の価格評価は、購入時よりも3倍に上がっているという。劉氏は今年60歳になる。定年の歳になるわけだ。

 「我々世代は、ただ一所懸命に働ければ、給料もアップし続けてきた。たまたま購入していたマンションが3倍値上がりする運もあった。定年後は夫婦年金生活で楽しもうというプランも練っていた」と振り返る。何か一昔前の日本で、定年前の男がのどかに老後を語る風景に似ているようだ。

 ところが、だ。「息子の代は大変だ。一定の生活水準を保つ生活維持は可能だ。だが、マンションが値上がりし過ぎて、彼の給料では買えなくなった。気の毒な世代だ」と嘆く。

 彼の1人息子が結婚した。新郎側は、自前の自宅を持っていないと恰好がつかない。親父としても世間体が悪いとして、息子に買ってやった。夫婦で貯めた老後資金を吐き出して、購入資金に充てたのだ。「『最後は、(息子に)面倒を看てもらおう』という魂胆もあった」と、劉氏が正直に打ち明けてくれたので、議論の材料を投げかけてみた。

 「息子さんが、あなた方夫婦の老後に対して、責任をもって介護してくれるか、疑問だ」と、意地悪な発言をしてみたものだ。驚いたことに彼は、反論1つせずに「おそらく期待はできないであろう」と認めたのだ。日本も中国も、親子関係は同様の環境になっている。「我が夫婦と1人っ子の家族こそが大事」という風潮が蔓延しているのだ。親から受けた恩を忘れる家族の絆の希薄さは、日本も中国も同じということだ。

 また、今の上海の若者が結婚しなくなったことは、日本とも相通じる。「種の保存」意識が希薄になったのである。生物としての本能を忘却するようであれば、ハングリー精神が喪失したも同然だ。

老人大国へ その負担は!

 女性の平均寿命は84歳、男性は80歳である。女性の定年を55歳とし、平均寿命を84歳、いや85歳として計算すると、国は定年後に30年間の面倒を看る責任が発生することになる。男性の定年は60歳だから、平均寿命を80歳とすれば、25年間の年金生活となる。面倒を看てくれる世代(年金を積み立ててくれる、原資を納めてくれる世代)が増えていけば、問題の一端は解決できるのだが……。

 73年から導入した「1人っ子政策」の影響で、中国の現役労働人口は急激に少なくなっている。1人っ子政策を解除したからといって、今のところ子どもを産む数が増加したという傾向にはなっていない。年金積立世代が増えないとなれば、政府は定年を延長するしかない。いかに財政力がある中国政府・上海政府といえども、財政負担が足掛けになってくる。こういう現実に接すると、日本こそがトップランナーであることを痛感する。

6億円の家を建てた

 昨年11月のことだ。上海で20年会社を経営している尊敬する経営者・武野会長が「6億円の家を建てた」と漏らした。「それならば年明けに視察に行こう」と話が進んだ。彼の新居は、上海市南部の松江地区にある。厳密に説明すると、中国では日本の一戸建てのことを別荘と呼び、建売住宅として売り出される。建売であるから、家族総出でリニューアルに時間と金をかけたのである。練りに練った住宅に仕上げることができた。

 と同時に、「工場の移転建設も進んでいる」と聞いたので、「ぜひ、現場を見たい」という思いが募った。武野会長が上海で工場経営を始めて、20年になる。過去には、地獄の瀬戸際に立たされるほどの辛酸を舐めたこともあった。その事実に立ち会ってきた筆者は、同氏の成功が自分のことのように嬉しかった。日本人の経営者の大半は、中国進出で失敗し、逃げ帰ってきた。中国での成功率は1%に満たなかったのではないか。この友人は危機をどうにか乗り切って、次への躍進への基礎固めをしているのだ。

(つづく)

(株)データ・マックスが主催する「MAX倶楽部NEXT」では5月8日(火)午後5時から、データ・マックスセミナー室(福岡市博多区中洲中島町2-3福岡フジランドビル8F)にて(株)アダルの武野重美代表取締役会長の特別講演会を開催。
中国進出から20年、集大成として新たに開設する新工場への想いを語ってもらう。

参加申し込みはこちらをダウンロードしてプリントアウト、必要事項をご記入の上
FAX:092‐262‐3389
までお送りください。

 
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