2024年04月28日( 日 )

ラグビーW杯2023の行方~日本代表、分水嶺となるイングランド戦 (前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

ラグビーW杯開幕戦で史上初の出来事

ラグビー イメージ    第10回目のラグビーワールドカップ(W杯)が9月8日、フランス・パリ近郊のサン=ドニにある多目的スタジアム「スタッド・ド・フランス」で開幕した。第1回開催から数えて36年を迎えたこの大会、フランス開催は2007年第6回以来2度目で参加国は20。4つのプール(A〜D)に5カ国ずつ入り、各代表予選リーグを4試合戦う。同リーグ上位2カ国が、決勝トーナメントへ進出する。

 開幕戦は地元フランスと、“オールブラックス”の名でお馴染みのニュージーランドとのマッチアップ。試合結果は、27-13でフランスが勝利した。なお、オールブラックスの予選プールでの敗戦は、W杯史上初の出来事であった。

 オールブラックスは、W杯前の南半球4カ国対抗戦「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」(ニュージランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン)を全勝し3連覇を達成した。この結果は「オールブラックスはW杯へ向けて上昇気流」という評価をもたらした。しかし、大会直前の南アフリカとのテストマッチで35-7のスコアで大敗し、関係者の間ではオールブラックスのコンディションが不安視されていた。そんななか、W杯開幕戦は上記の通りの結果となった。

 地元フランスは「歴史的勝利!」「自国開催で勝ったことに意味がある」「輝かしい勝利だ!」などと、賞賛の嵐である。当日はスタジアムに78,690人の観衆が詰めかけたが、その90%以上がフランスへ大声援を送る人々だった。加えて気温は30度近く。オールブラックスへ目に見えないプレッシャーがかかったと推察される。

 前半は拮抗した展開だったが、フランスのFBトーマス・ラモは着実にペナルティーキック(PG)を決め、得点を重ねていく。フランスの得点のうち17点をトーマスが決めた。一方のニュージーランドは、ゲインメーター、ボールキャリー、ディフェンス突破の数値はフランスを上回っていたが、試合を通じて規律を欠き、12ペナルティをフランスにプレゼントした。さらに、タックル成功率はフランスより高かったものの、世界一堅守で知られるオールブラックスらしからぬディフェンスでのミスが散見され、55分にフランスCTBダミアン・ペノーがトライし形勢逆転。その後もフランスのトーマスがPGを重ね、終了間際の78分にフランスはダメ押しのトライをあげた。

 オールブラックスのイアン・フォスターヘッドコーチは、試合後に「開幕戦でフランスと対戦するのは特別なことでしたが、彼らはちょっと上手すぎました」とコメント。W杯屈指のカードの1つであった開幕戦は、センセーショナルな結果となった。

順当に勝利の日本代表

 日本代表(プールD)は、9月10日にトゥールーズで初戦を迎えた。対戦チームはチリ代表。

 チリはW杯初出場である。各メディアおよび業界関係者は、揃って「ジャパンが圧倒する」「日本代表はチリには順当に勝利する」と論評。英老舗ブックメーカーWilliam Hill社のオッズは1.04倍であった。試合結果は42-12で順当に勝利。ただし、前半終了後は楽観できる内容ではなかった。

 試合開始早々の6分、チリのSOロドリゴ・フェルナンデスが先制トライ。日本はその直後の8分、LOアマト・ファカタヴァがトライ。その後、互いに譲らず。30分、日本WTBジョネ・ナイカブラがトライ。さらに前半終了直前40分にアマトがトライ。21-7でハーフタイム。46分、日本のCTBディラン・ライリーがイエローカードで一時退場。48分、チリNo8アルフォンソ・エスコバルがトライ。スコアは21-12となり、チリも反撃の機運が高まったかに見えた。だが、チリの反撃もここまで。以降は、日本が53分にリーチ・マイケル、71分に中村亮土、79分にワーナー・ディアンズがトライ。SO松田力也は、トライ後のゴール6本をパーフェクトに決めた。

 後半、チリの選手らは運動量激減が明らかで、48分のトライ以降は“脚が止まって”いた。ディフェンスとワークレートを重要視したセレクションを実施した日本の選手達。今回のチリ戦では、時折ディフェンスの隙が見られたが、すぐさま修正し、粘り強くゲインを許さない堅いディフェンスを組織・個人ともに遂行していた。とくに、アマト・ファカタヴァとサウマキ・アマナキの両LOの献身的なタックル(成功率94%、93%)とブレイクダウンへの激しいアプローチは、チリ戦勝利の大きな要因の1つであろう。アタックでは、SH流大の素早いボール捌きとボックスキックを中心に、相手のスペースを見つけ有利な局面を創造し、高度なスキルのパスを駆使したゲームマネジメントを実行。有効的なキックを織り交ぜながら、全員でボールをつなぎ保持するスタイルが光っていた。ボールボゼッションは44%でチリ代表が上回っていたものの、テリトリーは66%支配していた。つまり、日本がチリの陣地でゲームを進められたことも勝因である。

 日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチは試合後、「初戦のプレッシャーがあるなか、選手たちはいいパフォーマンスを見せてくれたと思いますし、チリにもプレッシャーをかけられました。状況に対応して戦うということで、今日の勝利は自信を得るためにも大事だったと思います。今日は喜んで、この後も1試合1試合が挑戦だと思って、戦っていきたいと思います」とコメント(日本ラグビーフットボール協会)。一方で、「チリ代表のタックルは凄まじかった。“なんとしても日本に勝ちたい”。チリ代表は、日本代表勝利をターゲットにして戦いに挑んできたのであろう」と、関係者へ語った。

 結果は圧勝であったが、メディアの予想よりは厳しい戦いであったことは明らかであった。この一戦は、PR稲垣啓太が50キャップという節目の試合でもあった。これを勝利で飾ることで、すばらしい記念になったことであろう。

(つづく)

【青木 義彦】

関連キーワード

関連記事