2024年05月17日( 金 )

税制から見る各政権の経済運営 変化した安倍政権、課税強化の岸田政権(前)

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税理士法人アップパートナーズ
代表社員税理士 菅 拓摩 氏

税理士法人アップパートナーズ 代表社員税理士 菅拓摩 氏

 九州最大規模の税理士事務所である税理士法人アップパートナーズ。その代表社員税理士である菅拓摩氏は、税制に関する国の政策や動向を踏まえながら企業にアドバイスを行うなかで、この十数年の民主党政権から自公連立政権に至る政策の継続性や長期にわたった第2次安倍政権時代の変化を実感している。税制を通して見ると、民主党政権が企業に厳しかったということはなく、また第2次安倍政権が行った政策は比較的リベラルであり、それぞれ世間でもたれているイメージとは異なっていたという。また、現政権では高額所得者に対する課税強化が目立つという。

民主党政権を振り返って 法人税引き下げなどを実施

 民主党が与党になり、税制改正大綱の策定に携わったのは2009年と10年、11年の3回。企業にとって強く関係するものとして、菅氏がまず挙げたのが法人税の実効税率を30%から25.5%に引き下げたことだ。とくに中小企業にとっては大きな意義をもった。後の安倍政権時代に最終的に23%まで下がるが、民主党政権時代にまず下げたことを評価する。とくに中小企業で法人課税所得800万円以下の企業に対しては2段階税率のところで18%から思い切って15%まで下げた点が評価できるという。

 次に例として挙げるのが、グループ法人税制の改正だ。当時、企業は収益の低い事業を売却し、良い事業を自社に残そうという動きを活発に行っていた時代であり、企業は含み益をもつ資産をもっているケースにおいて、親会社と子会社の間で資産の移転などを積極的に行おうとしていた。しかし、リーマン・ショックと東日本大震災の発生後、本社の建物をフレキシブルに子会社に移すといったことを行いたくても、税制上の理由から実施できないということが多く見られた。そこで、グループ法人税制を導入することにより、グループ内でそのように資産を移動させる際には損益を認識しないということに変更した。これにより、税金を気にせず資産の移転・整理ができるようになり、良い事業と悪い事業を明確にし、悪い事業は潰しやすくなった。グループ経営の自由度が上がったことで、不良債権の処理がやりやすくなったと菅氏は評価する。

 雇用促進税制も当時関係者からの評判が非常によかったものの1つだという。1人雇用すると税金を20万円安くするというものだ。とくに評価が高いのは非常にわかりやすかったことだといい、この後、自民党が同様に税金を安くすることを狙いとして所得拡大促進税制を導入したが、こちらは制度がわかりにくいという印象があった。当時税理士の間では、まず雇用促進税制の活用を検討し、条件が当てはまらないなら所得拡大促進税制を使おうというのが共通認識であったという。

 東日本大震災で原発事故が生じたことを受け、民主党政権は再生可能エネルギーの買取制度「FIT制度」を制定したほか、太陽光発電を推進するためにグリーン投資減税を導入した。これは太陽光発電設備を導入すれば、それを全額その会計年度の経費に組み込んで償却できるというもので、企業側からすれば、設備を導入して早期に回収ができてしまうというもの。それで非常に多く活用された。この政策は太陽光発電普及の起爆剤になり、日本各地で太陽光発電設備が大量につくられることとなった。

    当時、企業は太陽光発電設備をオフィスや工場の屋上につくっていた。このグリーン投資減税では、10kW以上の太陽光発電設備であれば、企業は(後に個人も利用可能に)それを全部経費として償却できるということで、相当に収益を上げている企業でも、太陽光発電設備を導入すれば、その分税金を払わなくてよいという状況さえも生じていた。加えて買取価格も高く設定されたことから、相当数の企業が太陽光発電設備を購入したという。

前半、後半で大きく変わる第2次安倍政権の税制

 12年に成立した第2次安倍政権の税制に関する政策は、政権の前半と後半とでは大きく異なっているという。安倍晋三元首相は就任後にアベノミクスを掲げ、与党が変わるのにともない政策面で大きな転換を図ることをアピールしていたが、税制に着目すると、企業から税を取ることよりも、税制面での優遇措置を導入し、企業活動の活発化、投資を促しており、少なからず民主党政権時代からの継続性が見られるという。たとえば、先述した太陽光発電設備に関する優遇政策、グリーン投資減税を継続した。

 投資をより行いやすい税制として菅氏が挙げたのが生産性向上設備促進税制の導入だ。これは設備投資減税と呼ばれたもので、14年にスタートし17年3月まで実施された。太陽光に関しては、16年3月までに導入すれば全額経費扱いとした。16年4月からは半額を経費扱いと変更したが17年3月までは継続した。この生産性向上設備促進税制の対象は太陽光発電設備だけではなかったのがポイントで、機械、工具、器具、備品はもちろん、支店や工場など本社以外の建物も含んでいた。

 たとえば保険代理店の来店スペースなど、建物で120万円以上のものをつくれば、全額経費として償却できるということで、相当数の企業が建物づくりに走ったという。医療機器も対象であり、病院や医療機器をつくることで、経費として償却できる。当時は量的緩和で金利も下がっていたことも企業の積極姿勢につながった。企業がこれらを活用することで、その年度の利益を抑え、事業承継対策もこれでほぼ終わりという状況だったという。

 ある企業から法人税の節税の相談を受けたケースでは、ちょうどその年度に支店を設立していたので、急ぎ申請をしてもらい、利益をゼロにしたということがあったという。

 菅氏はこうした税制が安倍政権時代の不動産バブルに一役買ったとしている。安倍政権時代を振り返って、菅氏は矢継ぎ早にいろいろな改正を行っていた印象があるという。同じく不動産の購入を促したものとして、15年に実施した相続税の基礎控除額を縮小したことを挙げる。

 当時、その情報が事前に出されたことで、相続税が増えるのに備えて先に何か建設しよう、不動産を買おうという動きが起きた。不動産の購入に関して、企業が購入する場合、評価替えは3年後に行われるが、個人が購入した場合は、その瞬間に評価が6割ほど下がってしまう。そこで、相続税対策に最適と考えられた。ちょうど日本銀行の量的緩和の拡大により金利が下がったことから、銀行も積極的に貸し出した。当時は中洲でジャンパーやブルゾンを着た人を見ることが増え、建設業の景気がとてもよかったことを実感したという。実際に業績もよくなった。

 実際のところ、先述した相続税に関しては、行われた主な改正は基礎控除に関するものにとどまり、税額への影響はさほど大きくなかった。相続によって破産したという人の話は聞かれず、相続の申告をすべき対象の人が従来の倍に増えた程度であったという。

 菅氏はこの時期の安倍政権を振り返って、税制がうまく機能していたと評価する。消費税をめぐっても安倍首相は14年に8%に上げて以降、10%に上げるのを拒んでいた。企業側では消費税が上がる前に建物・設備をつくろうという心理が働き、一種の駆け込み需要が長く発生していた。そうした事情から15~16年はとくに企業の活動に勢いがあり、大手を中心に業績が改善され、株価も上がった。

(つづく)

【茅野 雅弘】


<COMPANY INFORMATION> 
代 表:菅 拓摩
所在地:福岡市博多区博多駅東2-6-1
    九勧筑紫通ビル9F
設 立:2008年9月
資本金:6,600万円
TEL:092-403-5544
URL:https://www.upp.or.jp


<プロフィール>
菅 拓摩
(すが・たくま)
1973年4月生まれ、福岡県出身。立命館大学大学院経営学研究科修了。2001年に父の事務所を承継した後、2006年に税理士法人アップパートナーズを設立。代表社員税理士に就任。

(後)

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