2024年04月29日( 月 )

日本が世界半導体産業ではたすべき役割とは 日本の製造装置のシェア低下が止まらない(後)

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微細加工研究所
所長 湯之上 隆 氏

ラピダスが2nmを量産できない理由

 第1に、2nmの開発にはとびきり優秀な技術者が500人程度必要である。また、2nmの量産には熟練の生産技術者が1,000人ほど必要である。これら1,500人の超優秀な技術者は日本におらず、ラピダスが集められるとは思えない。

 第2に、2nmの開発と量産にはオランダのASMLだけが供給できる最先端露光装置のEUVが必要となる。しかし、ラピダスがEUVを導入するのは24年末になるうえに、EUVを使いこなすことができないだろう。その根拠は次の通りである(【図3)】。

 最先端を独走するTSMCは、18年の1年間で約100万回のEUV(極端紫外線)露光の練習を行ったうえで、初めて19年にEUVを量産に適用した。TSMCに追いつこうとしているサムスン電子は、巨大なDRAMラインを間借りして30万回程度EUVの露光の練習を行ったが、練習不足のために歩留りが上がらない。さらに言うと、米インテルは21年にEUVを導入したが、23年時点でいまだにEUVを使いこなすことができていない。

 このように、先端半導体メーカーが軒並みEUVを使いこなすことに苦労をしていることを考えると、ラピダスがEUVを使いこなすのは困難だろう。

 第3に、ファウンドリのラピダスに生産委託するファブレスが存在しない。ファウンドリとは、先に生産委託ありきのビジネスである。たとえば、TSMCは毎年米アップルから、新型iPhone用のプロセッサを1個100ドルで2億個以上の生産委託を受けている。ここでTSMCは、開発投資と設備投資を行って利益を出せるかとソロバンをはじいたうえで、受託契約を結んでいる。

 ところが、ラピダスは「27年に2nmのロジック半導体」を標榜しているが、どこからも、何も、受託していない。つまり、ラピダスはファウンドリの本質を理解できていないと言わざるを得ない。

 以上の理由から、ラピダスは2nmのロジック半導体を量産することができない。よって、日本のロジック半導体の新たな挑戦は失敗に終わるだろう。では、日本は何をすべきなのか?

世界半導体産業における日本の役割

 筆者は21年6月1日に衆議院の意見陳述で、「強いものをより強くする」ことを第1の政策に掲げるべきと論じた。その「強いもの」とは、製造装置と材料である。

 半導体材料では、日本は、半導体チップをつくる材料基板のシリコンウエハ、感光材料のレジスト、研磨剤の各種CMPスラリ、各種薬液などで非常に高いシェアを有している(【図4】)。また装置は、すべてではないが、レジストの塗布現像装置のコータ・デベロッパ、熱処理装置、枚葉式洗浄装置、バッチ式洗浄装置、測長電子顕微鏡(CD-SEM)で日本のシェアが高い(【図5】)。

 このように、装置や材料で高いシェアを有する日本は、世界半導体産業のなかで極めて重要な役割を担っている(【図6】)。

 サムスン電子とSKハイニックスを擁する韓国は、半導体メモリ大国となった。ファウンドリ分野で世界シェア約60%を占めるTSMCが存在する台湾は、ロジック半導体において世界のインフラとなった。そして、中国が世界の3分の1以上の半導体を吸収し、ホンハイの大工場群がPC、スマホと各種家電品を組み立てている。

 そのようななかで、日本は装置と材料を、韓国、台湾、中国、そして欧米へ輸出している。つまり、世界の半導体産業は日本の装置と材料なくして成り立たないのである。

 ところが、その日本の装置産業が危機的事態に直面している。

日本の装置産業の危機

 【図7】に地域別装置のシェアを示す。日本は、10年頃までは、米国とトップシェアを争っていた。ところが12年以降、日本のシェアは急降下し22年には米国の半分以下の24%に低下した。

 この原因を分析してみると、12年からの10年間で、ほぼすべての装置のシェアが低下していることが判明した。これは非常にたちが悪いものであり、容易に解決することができないと思われる。

 この状態では、もはや、「日本の製造装置は強い」とはいえない。そして、今後もシェアの低下が続くようなら、日本が世界に装置を供給することも難しくなるだろう。

 事態は非常に危機的である。今ここで手を打たなければ、日本の装置産業は半導体デバイス産業と同じ道を歩んでしまう可能性が高い。成果が見込めないラピダスに巨額の補助金を出している場合ではないのである。

(つづく) 


<プロフィール>
湯之上 隆
(ゆのがみ・たかし)
1961年生まれ、静岡県出身。ジャーナリスト、コンサルタント。87年京都大学大学院工学研究科修士課程(原子核工学専攻)修了。京都大学工学博士。日立製作所で半導体の微細化に携わる。エルピーダメモリ出向などを経て、2010年、微細加工研究所を設立、CEO兼所長に就任。著書に『日本型モノづくりの敗北――零戦・半導体・テレビ』、『半導体有事』(文春新書)など。

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