2024年04月29日( 月 )

宗教と政治の“もたれ合い”の構図 ~「統一教会問題」のトホホな実相(中)

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雑誌『宗教問題』編集長
小川 寛大 氏

 昨年7月の安倍元首相の殺害事件は、「宗教と政治」という古典的テーマに対する関心を多くの人々のうちに呼び覚ました。実行犯(とされる人物)が隣国の新興宗教の信者一家の出であり、さらには我が国の政治家がこれと取り結んできた癒着関係が明るみに出たことで、「主権国家・日本」とは虚像であったかと皆が愕然としたからだ。だが、この一件が提起する問題はそこにとどまらない。これが暴露したのは、自身ではもはや人々を惹きつけ世を切り拓く力をもたず、互いが互いの権威を借りることで組織の存続そのものに汲々としている「節操のない」、すなわち、美学を捨てた人間たちの、哀れな姿ではなかったか。『宗教問題』編集長・小川寛大氏が現代日本社会の病理に迫る(文中敬称略)。

宗教に「定年」なし高齢化でも利用価値消えず

 もちろん、宗教団体とて弱体化と無縁であるわけではない。最もわかりやすいバロメータとして、公明党が国政選挙で全国から集める比例票の推移を見ると、同党が衆議院議員選挙の比例代表で集めた票数の最高記録は、05年のいわゆる小泉「郵政選挙」における898万7,620票である。ところが、直近の衆院選である21年に公明党が集めた比例票は711万4,282票。つまり、ここ十数年の間に、公明党の比例票というものは180万あまりも失われているのである。

 ちなみに、直近の国政選挙だった昨年の参議院議員選挙で公明党が獲得した比例票は、618万1,431票だった。これは、参院選が現行制度になって以降の公明党の比例票としては、過去最低の数字である。近年の公明党は国政選挙のたびに、「比例で800万票獲得」ということを1つの目標に動いていた事実がある。もちろん、ここ10年ほどの間の選挙で公明党がその目標をクリアできたことはないのだが、それでも700万台の票は集め、「もう少しだった」「あと一歩、惜しかった」などと内輪で言い合い慰めとするのが、“いつもの光景”として定着していた。しかし、さすがに618万では、もはやそういう言い訳も通用しない。

 この組織の弱体化について、ある創価学会幹部は、「会員(信者)の高齢化が原因」とはっきり言い切る。

 創価学会のカリスマである池田大作名誉会長は現在95歳。その彼は10年以降、公式の場にまったく姿を見せなくなっている。つまり創価学会は現在、十数年にわたって“最高指導者不在”の状況が続いているのである。創価学会のコア的なメンバーはいまなお、池田の肉声に直に触れて入会し池田に心酔する、池田と同じか、やや下の世代の人々だ。池田が公の場に出てこられないほどの高齢になっているということは、そういう熱烈な創価学会員たちもまた、いまどんどん“退場”しているということなのである。そして創価学会は、ポスト池田というべき新世代のカリスマ指導者を生み出すことができておらず、若い世代への訴求力はいまやほとんどない。

 以上が近年の創価学会が弱体化している理由なのだが、ほかの新宗教団体も、現状はどこも似たようなものである。とくに立正佼成会や生長の家、パーフェクトリバティー教団(PL教団)など、少なからぬ新宗教団体は、教祖の息子などが教団トップを引き継ぐ“世襲制”をとっている。その結果、宗教者としての実力を備えているわけでもない“お坊ちゃん”が教団内でおかしな言動におよび、お家騒動を引き起こしてしまったような事例もあって、基本的にいま「のびている新宗教団体」というものは存在しないと言っていい。

旧統一協会(現・世界平和統一家庭連合)の教会
旧統一協会(現・世界平和統一家庭連合)の教会

    旧統一教会は実はその典型で、教祖の文鮮明が12年に死去すると、その妻だった韓鶴子(現・教団総裁)が教団の実権を掌握する。その過程で韓は、文は宗教者として自分より格下だったと言わんばかりの主張を展開するようになり、息子や一部幹部たちが反発して教団を脱退。旧統一教会はまさに四分五裂の状態に陥っている。彼らがいまなお、反社会的な活動を展開しているカルト教団であることは事実なのだが、文が生きていた時代のような勢いはあまりないというのが偽らざる実状なのである。

 しかし、そういう状況でもなお、政治家にとって宗教団体が頼れる存在であるのは、「彼らには定年がないから」(前出のC)だという。

「基本的に、業界団体や労働組合の人たちは、彼らが所属する企業や役所を定年で辞めてしまうと、以後は政治活動をしなくなる。しかし宗教団体の信者さんは、終生信者さん。おっしゃるように、いま宗教団体もそれなりに凋落しているのは事実なんですが、その世界に定年がないおかげで、業界団体や労組よりも“寿命”が伸びている感じがある」(同前)

 宗教団体も凋落していることは事実だが、ほかの組織よりも相対的にまだ“利用価値”が残っている──。これが、政治家の側が宗教団体というものに対して思っていることの現実だとすれば(おそらく現実であろう)、不純な動機で宗教団体に接近する政治家たちが現れてくるのも当然の成り行きである。

(つづく)


<プロフィール>
小川 寛大
(おがわ・かんだい)
雑誌『宗教問題』編集長 小川寛大 氏1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、2014年に宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15年に同誌編集長に就任。著書に『創価学会は復活する!?』(ビジネス社、共著)、『南北戦争―アメリカを二つに裂いた内戦』(中央公論新社)など。 

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