2024年04月29日( 月 )

デフレ脱却へ期待されるのは、失敗を恐れないリーダーシップ(前)

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経済アナリスト
(株)マネネ代表取締役社長CEO
森永 康平 氏

 長く続くデフレによりただでさえ経済が停滞していたなか、物価高や人手不足により業績が悪化している中小企業が増えるなど、社会や経済の先行きをより不安視するムードが強まっている。このような停滞した経済状況から脱却するにはどうすべきなのか。新進気鋭の若手経済アナリストである森永康平氏に、今後、日本が取るべき是正策などについて話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方 克美)

企業淘汰は自然の流れ

経済アナリスト
(株)マネネ代表取締役社長CEO
森永 康平 氏

    ──中小企業を取り巻く環境が厳しさを増しています。

 森永康平氏(以下、森永) エネルギーや物資の高騰、円安の影響などが大きく、それを価格転嫁できない企業が多いことが要因となっています。そんななか、価格転嫁をうまく行えた大手のなかには史上最高の業績を達成できた企業もあります。彼らはその収益を原資に人件費を引き上げていますが、一方で多くの中小企業にはそんな余力はありません。コロナ禍によるゼロゼロ融資の返済が本格化するなかで、今後は中小を取り巻く環境はさらに厳しいものになることが予想されます。

 ただ、政府はこうした中小企業が置かれる状況を深刻に捉えていない印象をもちます。今後の社会構造の変化を考慮すれば、各産業が大手に集約化された方が効率的と考えているのでしょう。それはたとえば、各地に大型ショッピングモールやフランチャイズ店、チェーン店が続々と出店し、その一方で昔ながらの商店街が寂れてしまうといった、都市の空洞化現象に象徴されます。ですので、同様に中小企業が大企業に吸収されるといった産業の集約化の動きについても、政府は半ば容認して動向を見守っているのではないかと感じます。

 日本では今後、人口減少は避けられませんから、政府にはそのような方向性、淘汰はやむを得ないとの発想があるのです。このことについて、私もある程度は仕方がないと見ています。ただ政府が誘導する必要はないと考えています。中小には競争力低下のほかに、事業継承という問題を抱える企業もあります。政府が介入せずとも、自然の流れで企業淘汰は起こり得るのです。ただ、意図しているかは別として、倒産させなくてもよい企業を倒産させる政策を行っているようにも見えます。そこは徹底的に問題視すべきでしょう。

肉食系と草食系に二極化した社会

 ──それが本当なら忌むべきことです。具体的にはどのような事例があるのでしょうか。

 森永 ゼロゼロ融資がまさにそうですね。こんなかたちでの融資をするのではなく、コロナ禍で生じた事業損失を補償するという、シンプルな経済対策を実行すれば良かったのです。現在、コロナ前の業績水準に戻っていないなかで返済を求められているため、中小のなかには事業資金に余裕がない企業が数多く、それによる倒産件数が増えています。ですので、この状況は国による人災といえるのではないでしょうか。

 人災的といえば、数十年にわたりデフレ経済を放置していたことがさらに大きな問題です。付加価値を付けて高く売るのではなく、できるだけ安く売買することを重視する価値観が大勢を占めるようになったなかで、日本企業の収益力が低下し、活力を失ってしまいました。アップル社の10万円以上するiPhoneを多くの人が購入するほど、日本人はもともと、付加価値が高い物にはお金を出すのにも関わらずです。

 当然、その間、従業員の所得は上がりませんでしたから、国民も低賃金に慣れてしまい、同時に疲弊してしまいました。とくに、デフレの時代に社会に進出した20代など若い世代はその状態が当たり前になっていますから、初めからあきらめてしまっており、上昇志向が失われているように感じられます。

 そうして生み出されたのが、アメリカのようなわかりやすい富裕層と貧困層という極端な二極化ではなく、肉食系と草食系のような新たな二極化。もちろん上昇志向が強いギラギラとした人たちも一部にはいるわけで、そうした人たちとマッタリとしたマインドを持つ人たちが、違う生物として共存する世の中が全国レベルで広がりつつあります。経済が好調だったら、この30年の間にもっとリスクを取って大きなことをしてやろうなどという人たちがより多く出てきていたはずなのですが、日本ではそうしたエネルギーをもつ人は少なくなっています。

デフレマインドが定着した要因

 ──この数十年、政府は経済政策について失敗を繰り返してきた影響ですね。

 森永 この間、唯一上昇したといえるのが何かご存じでしょうか。それは株主への配当金です。従業員の給与は上昇していませんし、役員報酬もそれほど上がっていません。ここでその仕組みを紹介しますと、まずバブル期に金融機関が企業へ積極的に融資をし、企業は主に土地を購入しました。バブル崩壊後、不動産価格が大きく下がったわけですが、そこで金融機関は融資先の貸しはがしを行い、多くの企業が経営危機に陥りました。その様子をつぶささに見ていた企業経営者は、金融機関の動きやそれを容認する国に対して疑心を抱き、結果的に利益を内部留保として現預金を貯め込むことに躍起になりました。

 一方で、そのころから外国人投資家が株主になり始め、日本企業が大量に抱える内部留保に注目するようになり、もっと投資し利益を拡大するよう圧力を強めることになりました。日本の経営者には、留保した現預金は「イザというときの備え」という認識があり、そのため現預金を取り崩す投資に慎重になりがちでした。そこで選択されたのが配当金の増額。それにより投資家に報いるという手法だったわけです。

 配当金を増やすと同時に、従業員への還元も積極的に行うようでしたら良かったのですが、そうはなりませんでした。また、なぜか終身雇用や年功序列に代表される日本型経営を否定することで、人材の流動性が高まりました。バブル崩壊以前の1985年では、日本において非正規雇用は15%程度でしたが、今では4割弱にまで高まっています。これでは実体経済はなかなか改善しません。加えて、国は経済状況が改善しそうになると消費税率のアップといった増税を行い、改善ムードに水を差してきました。

 こうして形成されたデフレマインドによって、企業が投資をしない、人を育てない、研究開発も縮小するといったロクでもない状況を生み出しました。このあたりのメカニズムについて政府の中枢にいる人たちが理解していないのはとても残念なことですね。

(つづく)

【文・構成:田中 直輝】


<プロフィール>
森永 康平
(もりなが・こうへい)
1985年生まれ、埼玉県出身。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして活躍後、インドネシアや台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。2018年6月に金融教育ベンチャーの(株)マネネを創業。現在は国内外のベンチャー企業の経営にも参画している。著書に『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や、父で経済アナリストの森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)などがある。23年9月よりアマチュアでキックボクシングやMMAの試合に出場。

(後)

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