2024年02月27日( 火 )

激化する中東情勢 日本の海上輸送への影響は

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国際政治学者 和田 大樹

 昨年10月7日以降、イスラエルとイスラム主義組織ハマスとの間で攻防がエスカレートして以降、中東情勢の緊張が高まっている。攻防の発端はハマスがイスラエル側へ奇襲攻撃を仕掛けたことだったが、イスラエルのネタニヤフ政権は自衛の範囲を大幅に逸脱するかたちでパレスチナ側へ容赦ない攻撃を続け、アラブ諸国だけでなく、最近ではイスラエル支持に徹してきたバイデン政権もイスラエルへの不満を強めている。それはイスラエルへの関わり方次第で、諸外国間で対米不信が広がる恐れがあるからだ。

 しかし、今回の衝突による影響はほかの地域にも拡大し、ハマスとの連帯を表明する親イランのシーア派武装勢力がレバノンやイエメン、シリアやイラクなどで反イスラエル、反米闘争をエスカレートさせている。レバノン南部を拠点とするヒズボラとイスラエルとの間では攻防が激化し、イエメンを拠点とするフーシ派は紅海を航行する民間船舶(イスラエルとその支持国を狙う)への攻撃を強化し、それに対して米英軍はフーシ派の拠点への空爆を開始した。そして、1月下旬、シリア国境に近いヨルダンにある米軍基地へのドローン攻撃で米兵3人が死亡したことを受け、バイデン政権はシリアとイラクにある親イラン勢力の拠点への攻撃を開始した。

 政治的緊張が中東を覆うかたちで拡大するなか、日本の海上輸送も影響を受け始めている。イエメンのフーシ派が紅海を航行する民間船舶への攻撃を強化して以降、日本郵船と商船三井、川崎汽船の海運大手3社は船舶への攻撃リスクを回避するため、全運航船を対象に紅海〜スエズ運河の航行を停止することとなった。代替ルートはアフリカ最南端の喜望峰を経由することになるのだが、輸送コストが大幅に上昇し、輸送にかかる日数が延びるなど大きな影響がすでに出ている。

紅海 スエズ運河橋 イメージ    しかし、今後の情勢の行方次第ではさらに影響が拡大する恐れがある。現時点で、米国もイランも互いに軍事衝突することは望んでいない。米国もイランとの戦争に突入すれば、2003年のイラク戦争以来再び中東のアリ地獄にはまることになり、対中国や対ロシアに加えてイランを含めた3正面に同時に対応できる余裕は現在の米国にはない。一方、イランは中東各地に点在する親イランのシーア派武装勢力が反米、反イスラエル闘争をエスカレートさせ、それによって両国との軍事的緊張が高まることを警戒している。各武装勢力はイランから支援を受けるものの、自らの判断で活動しており、イランが完全にコントロールできているわけではない。

 このような状況で懸念されるのが、ネタニヤフ政権だ。10月以降のネタニヤフ政権の行動姿勢を観れば、自国の安全が脅かされた場合には軍事行動を躊躇しない、軍事的ハードルの低さがうかがわれる。おそらくこれは米国やイラン以上であり、今後もイスラエル、米国とシーア派武装勢力との間で衝突が続けば、たとえばイランが直接関与したという独自の判断でイスラエルがイランを直接攻撃するというシナリオも決して排除できない。仮にそうなれば、米国もそれに関与せざるを得なくなり、中東全体の安全保障が脅かされることになろう。

 国際社会はこのシナリオを絶対に避けなければならない。この紛争の舞台はイエメンや紅海だけでなく、ペルシャ湾が含まれる。要は、日本へ輸送される石油の出発地点が直接巻き込まれることになり、そうなれば日本への海上輸送ルートだけの懸念では済まず、日本経済全体へ大きな影響がおよぶことになろう。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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