2024年04月29日( 月 )

【トップインタビュー】歴史・伝統を活かした観光振興を 宿泊税をめぐって福岡市に提言

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

福岡市ホテル旅館組合
組合長 友杉 隆志 氏

 福岡市は観光産業を強化し地域の活性化を図ることを目的として宿泊税を導入した。「福岡市ホテル旅館組合」組合長を務める友杉隆志氏((株)プレジデントハカタ代表取締役)は導入税を活用することで、福岡市はより魅力的な都市に成長できると考え、同志とともに福岡市に対して提言するなどの活動を行っている。市内の神社仏閣や元寇防塁など歴史的な史跡に加え、福岡城天守閣の復興による観光産業の活性化などについて話をうかがった。

宿泊税導入に対して
業界として行政に提言

福岡市ホテル旅館組合 組合長 友杉隆志 氏
福岡市ホテル旅館組合
組合長 友杉 隆志 氏

    ──ホテル・宿泊業の団体の現況についてうかがいます。

 友杉隆志氏(以下、友杉) 昨年3月に「福岡市ホテル旅館組合」を発足させました。この組織は上部団体が福岡県旅館ホテル生活衛生同業組合で、その下部組織です。福岡市では現在、福岡市ホテル旅館組合のほか、博多旅館ホテル組合、福岡市中央ホテル旅館組合、志賀観光旅館組合、西福岡旅館料飲組合、南福岡旅館ホテル組合、博多温泉旅館組合、早良旅館組合など8つの組織があります。

 福岡県と福岡市は観光産業を強化し地域の活性化を図るため、2020年4月から福岡県内のホテルや旅館などの宿泊客を対象に、原則として宿泊価格(1人1泊2万円未満か2万円以上)により宿泊税(1人1泊200円または500円)を徴収しています。

 導入をめぐっては県と市の間で綱引きがありましたが、最終的に福岡市内に宿泊した場合は、200円のうち150円が市の税収、50円が県の税収[500円の場合は市が450円、県が50円]というかたちで落ち着きました。導入された当初はコロナ禍に見舞われた時期と重なり、ホテル・旅館など宿泊業界にとっては非常に厳しい時期でした。我々はこうした新たな増税に業界として基本的に反対の立場としながらも、我々の意見も十分に反映させたものにしていただきたいとの要請の上で受け入れさせていただきました。

 宿泊税の導入から3年が経った昨年、宿泊税の在り方について再び検討を行いました。福岡市内の各組合長にご意見をうかがい、宿泊税の活用について要望書をまとめて提言を行うことを確認させていただきました。

 ──同業の皆さんの反応はいかがでしたか。

 友杉 福岡市のホテル・旅館業者には、オーナー企業は少なく、ホテルチェーンによる経営であるところが多いです。そうしたこともあってか、行政が決めたことだから仕方がないという雰囲気があるなか、実際宿泊税の使途内容に関してもあまり周知されていない状況でした。

 もっと多くのホテル・旅館業者からも意見を募り、我々の直面している多くの諸問題を市政へ届けるためにも各議員の皆さまへの働きかけが必要であると考えました。当時、福岡県議会には福岡県観光産業振興議員連盟、いわゆる観議連というものがありましたが、福岡市議会のなかには存在しませんでした。そこで県議会の観議連会長であった樋口明県議(自民党)に相談したところ、前市議会議長の伊藤嘉人市議をご紹介していただき、また福岡市内にある8つの組合長に発起人となっていただき、各地域から選出の市議の皆さま(7名)とともに勉強会および懇談会を昨年11月に開催いたしました。そこで「福岡市観光産業振興議員連盟」を発足させることができました。

 宿泊税導入後は、20年度の福岡市歳入において宿泊税による税収は18億円と見込まれていましたが、コロナ禍の影響で大きく減り、約6億円の税収となりました。21年度は約11億円、22年度は規制緩和によりやや持ち直して約16億円でした。23年度は市の説明によると18億円の見通しとのことです。

 福岡市は宿泊税について「MICE(国際会議や展示会など)の財源として活用する目的税」とし、毎年7億円ほどの予算を充てていますが、用途について多少疑問が残ります。福岡市は「展示会やコンサート、会議など多目的に利用できる『マリンメッセB館』の整備」を挙げていますが、宿泊税は観光目的税であり、観光振興に使われるべきものです。そもそも宿泊税導入前から計画されていたマリンメッセB館の予算に充てるのは拡大解釈ではないかなどというご意見も聞かれました。

 宿泊税は徴収の対象が宿泊者であるため、通常の法定外税に比べて課税しやすい一方で、宿泊者から徴税するフロントなどの現場が矢面に立つことになり、徴収作業を任された宿泊事業者の負担のみが増えています。福岡市は宿泊税のパンフレットを製作し、頒布していますが、お客さまからすれば「それは何ですか」「何に使われているのですか」というものであり、こうした質問にお答えするために1人あたりのチェックイン時に要する時間は増えますし、インバウンド客の増加にともない、さらに説明に時間を要することになります。

 こうした事情から、宿泊税を最初から宿泊代金に含めて提示する施設が多く存在します。実際のところ、宿泊客は観光客だけでなく、ビジネス利用も少なくありませんので、宿泊料金の支払いがクレジットカード決済の場合は施設側がカード会社に約3%の手数料を支払いますし、じゃらんや楽天トラベルなどの予約サイトを経由して予約を受け付けた場合は、各サイト事業者に7~8%の手数料を支払うことになります。宿泊税を宿泊料金に合算した場合、宿泊施設の金銭的負担はその分大きくなります。自分たちの金銭的負担が増えるのですが、各施設での現場の効率を考えると致し方ないところがあります。

 また、特別徴収義務者(地方税法に定められた給与の支払者)である宿泊事業者に対する報償金として、各宿泊事業者に原則として納期限までに申告納入された宿泊税額の3%(25年度からは2.5%に減額)が決められています。このような事情から、我々として、むしろ引き上げてほしいと要望しています。

日中に観光できる名所を

 ──宿泊税はどのように使われるべきとお考えですか。

 友杉 我々は先ほど述べたように宿泊税には反対の立場ですが、一方で観光振興に有効活用されるのであれば協力したいとも考えております。現在、福岡市内では午後2時~5時の間に観光する場所があまりなく、我々の業界では「2時・5時問題」と呼んでいます。お客さまに喜んでいただける観光名所がもっとできれば良いと考えています。

 新たな観光名所について、福岡市内には歴史ある神社仏閣などが各所にあり、活用すべきだと思っています。更地から新しいものをつくる必要はなく、もっているポテンシャルを生かせば、大宰府に負けないほど多くの集客は十分可能だと思うのです。しかし、残念なことにそれぞれが点でしかPRできておらず、認知度が低いままで集客につながっていないのが現状です。

 その歴史的神社仏閣の1つに中央区西公園の高台にある光雲神社があります。黒田官兵衛、黒田長政の両公をお祀りしており、当初は福岡城内本丸天守台の下につくられ、1871年の廃藩置県により黒田家が東京に移転した際、現在の警固神社近くに移転し、その後、西公園山頂へと移されました。近くの展望台からは博多湾を一望することができます。

 歴史を学べる博物館などを整備することで修学旅行の名所にもなり得ると思いますし、舞鶴公園から光雲神社と能古島、志賀海神社や福岡市の旧市街地等の名所を周遊できるコースをつくることで、歴史的観光ルートも増えると思います。舞鶴公園は福岡城の本丸址を中心とする公園であり、福岡商工会議所などが提言している福岡城天守閣の復興を実施することの意義はとても大きいと思います。そうした観光名所の整備事業にこそ宿泊税を投入すべきであり、宿泊客からもご理解をいただけるものと考えます。

 行政の予算は単年度主義ですが、宿泊税は新たな観光資源のための観光基金であるならば、それなりのものを建てる原資としても活用可能であると思います。福岡市のより魅力ある街づくりのためということに関しては、我々も行政も共通の思いをもっていると思います。みんながワクワクするようなものに取り組んでいただければという思いをもっています。

 ──福岡商工会議所が提言した「『福岡・博多の歴史・文化を活かしたまちづくり』に関する15の提言」にあるようなまちづくりを行っていけたらよいですね。

 友杉 まさにこの提言にある通りだと思います。先ほどあげた以外にも、スポットを当てることで観光名所となり得る場所は元寇防塁をはじめとしてたくさんあります。飲食文化に関しても、日本のうどんの発祥地は博多だと言われています。日本に製麺技術をもたらしたとされる聖一国師は中国から帰国して博多に2年間とどまり、承天寺を開いて布教活動を行った際に麺や饅頭といった料理を博多にもたらしたといわれています。

 東公園の亀山上皇像の台座には「敵国降伏」の文字が刻まれています。同じ言葉が筥崎宮楼門にも掲げられています。これは元寇に際して亀山上皇が納められた御宸筆(天皇の自筆)であり、大変由緒あるものです。しかし、福岡市民でもこのことを知らない方が少なくありません。歴史をより深く学んでいけば、魅力あるものを県外、海外に発信していけるのではないかと思います。

【近藤 将勝】


<COMPANY INFORMATION>
組合長:友杉 隆志
所在地:福岡市博多区博多駅前1-14-7
    (プレジデントハカタ内)
設 立:2023年3月


<プロフィール>
友杉 隆志
(ともすぎ・たかし)
1971年1月生まれ。福岡市出身。福岡大学附属大濠高等学校、福岡大学法学部卒。2000年、(有)友杉商事(04年に(株)プレジデントハカタに社名変更)に入社、常務就任。06年、代表取締役社長に就任。23年、福岡市ホテル旅館組合を設立、組合長に就任。趣味は魚釣り、キャンプ、映画鑑賞。

関連記事