2024年06月13日( 木 )

アビスパ5月の戦いで、みえてきたもの

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 アビスパ福岡の5月は、苦闘と快勝という両極端の結果が互い違いに訪れる、振り幅の大きい一ケ月だった。目の覚めるようなスーパーゴールを叩き込んで勝利をつかんだと思いきや、エースFWが退場してズルズルと敗戦を喫する。浮き沈みを繰り返しながら、ようやく「2024年版・アビスパ福岡」のスタイルが確立されてきたようにも思える。

 ここまでのアビスパをポジションごとに振り返っていこう。まずは攻撃陣。今シーズン最大のサプライズは、もちろんFWシャハブ・ザヘディだ。両足はもちろんヘディングでもゴールを奪う類稀な得点能力に加え、柔らかいボールタッチとドリブル技術でペナルティエリア内でもやすやすとボールを運び、アシストでチームに貢献することもできる。まさに世界レベルのストライカーだ。リーグ戦で挙げた6ゴールは、チーム全体のゴール数の4割にあたる。

プレーの安定が課題、FWザヘディ
プレーの安定が課題、FWザヘディ

 その一方で、リーグ戦セレッソ大阪戦とルヴァンカップ柏レイソル戦で2戦連続退場を喫し、メンタル面での安定感に大きな疑問符がついてしまった。そもそもザヘディとは6月末までの短期契約でもあり、過度の依存は禁物だということは肝に銘じておかなければいけない。そういう意味では、ここまでまだ試合出場のないFWナッシム・ベン・カリファへの期待は引き続き大きい。

 ウイング/シャドウの位置では、FW紺野和也が盤石の地位を固めている。左右両足から繰り出す正確なクロスは相手守備陣を常に脅かし続けており、Jリーグでもトップクラスのアタッカーへと成長した。紺野がすばらしいのは、攻撃だけにとどまらないところ。公称161cmという小兵ながら身体を張ったハードな守備を怠らず、相手のサイド攻撃の芽を摘むシーンにはサポーターから大きな歓声が飛ぶ。

Jリーグトップクラスのアタッカーに成長したFW紺野
Jリーグトップクラスのアタッカーに成長したFW紺野

 右サイドの紺野に対し、左サイドのファーストチョイスの座をつかみつつあるのがFW岩崎悠人だ。岩崎は持ち前の快足と無尽蔵の運動量でフィールドを縦横無尽に駆けめぐり、相手ゴール前から味方のディフェンスラインまで、あらゆるエリアでチームへの貢献を続けている。岩崎が繰り返す高速ダッシュが相手DFを引きつけることで生まれた決定機は少なくない。願わくは、このハードワークが岩崎本人のゴールというかたちで報われてほしいものだ。

今シーズンのアビスパをけん引するFW岩崎
今シーズンのアビスパをけん引するFW岩崎

 中盤で大きな存在感を見せているのが、MF松岡大起。松岡は、アビスパの勘どころである「MF前寛之の相棒」というポジションをがっちりとつかんでいる。昨シーズンは元日本代表MF井手口陽介(現・ヴィッセル神戸)が務めたこのポジションだが、松岡は井手口とは違ったアプローチで幅のあるプレーを見せている。中盤での積極的な守備や的確なポジション取りを高いレベルでこなしながら、チャンスがあればドリブルで進出し、シュートを狙うのが松岡の特長。積極的な姿勢が、チームに活力を与えている。

アビスパの中盤にエネルギーを注入するMF松岡
アビスパの中盤にエネルギーを注入するMF松岡

 福岡大から今季加入したMF重見柾斗も、高い実力を存分に発揮している。ポジションは松岡と同じだが、プレーは対照的。松岡が「情熱的」だとすれば、重見は「理性的」とでもいえるだろうか。相手のプレーを先読みしたポジション取りで見事なインターセプトを見せたり、「そこに通すか!」と唸るような鋭いパスを繰り出したりするなど、玄人好みのプレーが光る。今のところ出番の数では松岡に一歩譲るものの、ポテンシャルの高さは十分だ。

 最終ラインのDF陣は、昨シーズンから大きく顔ぶれが変わらなかったポジション。しかし今シーズンは、宮大樹がわずか3試合の出場にとどまり、奈良竜樹が脳震盪疑いで欠場を余儀なくされるなど、なかなかベストメンバーが揃わない状況が続いている。そんななかで気を吐いているのが田代雅也。田代は昨シーズン途中で加入したが、当初は長身を生かしたヘディングで相手ボールを跳ね返す場面ばかりが目立ち、局面を打開するロングパスを繰り出すプレーはほとんど見られなかった。しかし今シーズンは、開幕戦から利き足の右だけではなく左足からも鮮やかなサイドチェンジを見せ、武骨な印象を改めさせられた。ここまでリーグ戦全試合に先発し、DF陣の柱として大活躍を続けている。

 ウイングバックのポジションを争うDF湯澤聖人、DF前嶋洋太、DF小田逸稀、DF亀川諒史も、昨シーズン同様高いレベルで競い合っている。前嶋は負傷のため長期離脱となってしまったのが気がかりだが、昨シーズンの故障から復帰をはたした亀川の奮起に期待したい。

 最後にGK陣。ルヴァン杯優勝の立役者となったGK永石拓海に、J1昇格を支えたGK村上昌謙が挑む、ハイレベルな競争が続いている。この2人がすばらしいのは、自分がベンチに座っているときでも「一緒に戦っている」という姿勢を欠かさないこと。ピッチ内のプレーが途切れればすかさず声をかけ、給水のボトルを渡す。味方の好プレーには声援を送り、勝利すれば心から喜ぶ。永石と村上は1つのポジションを争うライバルでありながら、同じチームで戦う戦友なのだ、と強く感じさせてくれる。

 昨シーズン、アビスパ福岡はまさにクラブ史上に残る歴史的な一年を過ごした。ルヴァンカップのタイトルを勝ち取り、今シーズンのユニフォームには星が輝いている。ルヴァンカップ優勝後、筆者は「優勝おめでとう、次はアジアチャンピオンズリーグだね!」と何度も声をかけられた。おそらく、アビスパサポーターの多くは同じ経験をしたことだろう。そして、筆者と同じく「いや、そう簡単じゃないんだよ」と答えたのではないだろうか。今シーズンのルヴァンカップであえなく敗退した事実が、それを証明している。

アビスパにとっての次のステップは、「J1定着」。来年も再来年もJ1で戦い続ける――口にするのは簡単だが、毎年3つのクラブが降格するレギュレーションにおいて、これがどれだけ難しいことか。そのために何が必要なのか、川森敬史会長をはじめとしたフロント陣は真摯なチャレンジを続けている。目先の試合の勝敗に一喜一憂しながらも、長いスパンでの成功を目指す戦いは、まだ始まったばかりだ。

【深水央】

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