2024年10月04日( 金 )

【マックス経営講座】中小企業の生き残り戦略(3)ROICを活用した企業価値の向上

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はじめに

 今回は、前回、企業の「稼ぐ力」を評価する指標としてご紹介した投下資本利益率(ROIC=Return On Invested Capital)を活用した企業価値向上の考え方について、具体的に説明していきます(ただし、簡略化のために、ここでは税金の概念は外しています)。

ROICの分解

 前回、「稼ぐ力 = 収益性×効率性」という考え方についてお話をしましたが、近年、日本企業の稼ぐ力が弱いといわれる要因として、(1)非正規雇用者の増加により、消費が落ち込み、企業の製品やサービスの需要が伸び悩んでいること(収益性)、(2)長時間労働や効率化の遅れが生産性の低さにつながっていること(効率性)の2つを指摘されることがあります。この収益性と効率性の観点から、私が前回お話した企業価値向上に影響をおよぼす4つのバリュードライバー①売上総利益率、②販管費率、③運転資金回転率、④固定資産回転率とROICの関係について、ROICツリーという図を使って説明します。ROICは式にすると、「ROIC(投下資本利益率)=(営業利益/売上高)×(売上高/投下資本)= 営業利益率×投下資本回転率」と表せます。そして、これは先に説明した4つのバリュードライバーに分解できます。

 ちなみに、ROICの目標値は業種にもよりますが、概ね8%程度に設定されている場合が多いです。

 図のように、ROICを上げるには、営業利益率と投下資本回転率のいずれかまたは両方を上げれば良いのですが、そのためには売上総利益利率の上昇、販管費率の低下、運転資金回転率の上昇、固定資産回転率の上昇のいずれかが必要になります。各バリュードライバーを改善することにより企業価値向上のゴール目標KGI(Key Goal Indicator)であるROICを上昇させるためには、そこに至るプロセス指標としてKPI(Key Performance Indicator)の設定が必要になります。なお、KPIについては、各バリュードライバーの構成要素のなかから、自社にとって最も改善効果が高いと想定される項目を選んで設定します。KPI設定のプロセスでは、各バリュードライバーをさらに分解し、ドライバーごとに自社の改善の必要性について検証します。

 たとえば、ある飲食店の売上総利益率が下がっている要因が原価率の上昇にあるとしたら、その直接的な原因として、食材価格の高騰によるものなのか、食材ロスの過多によるものなのか、などについて把握します。物価高騰という外的要因は自社ではコントロールできませんが、食材ロスの削減については自社の対策として考えられます。仮に、検証の結果、自社の在庫管理に改善課題があると判明した場合、1回あたり発注量、1カ月あたり発注回数を見直し、在庫ロスが最小になる最適な発注量と発注回数を想定してKPIとして設定します。そして、その発注量、発注回数を実現するための具体的施策、たとえば現場の意見を反映した発注マニュアルの作成、不測事態発生時の食材調達の代替手段などを決定し、在庫管理を改善することで原価率の低下を目指します。その原価率の目標値が達成できれば売上総利益率の上昇を通じて営業利益率も上昇し、KGIであるROICの上昇につながります。KGIはあくまでも結果指標なので、そこに至るプロセス指標としてのKPIを設定しないかぎり達成は難しいということになります。

まとめ

 今回は、営業利益率(収益性)の向上について説明しましたが、次回は投下資本回転率(効率性)の向上について説明し、中小企業が企業価値向上のために目指すべき『ROIC経営』の基本についてお話します。


<INFORMATION>
(株)コンシャスマネジメント

所在地:福岡市中央区天神1-4-1
    西日本新聞会館16階
    (天神スカイホール内)
TEL:092-736-7528


<プロフィール>
(株)コンシャスマネジメント代表取締役/中小企業診断士
西岡隆
(にしおか・たかし)
大学卒業後、会計事務所、監査法人などを経て2001年中小企業診断士登録と同時に西岡経営管理事務所を開設。21年、事業拡張にともない(株)コンシャスマネジメントを設立

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