2024年10月15日( 火 )

世界のEV市場「成長の壁」に直面(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

EVシフトの減速が相次ぐ

電気自動車(EV) イメージ    気候変動をなんとしてでも食い止めないと、世界は大変なことになるというコンセンサスが先進国を中心に形成され、脱炭素社会実現のため、自動車会社はガソリンエンジンから電気自動車(EV)へのシフトを進めた。

 欧州を中心とした世界各地では、排ガスなどに対して厳しい環境規制が導入され、それが徐々に強化されている。そうした状況下、自動車業界は環境規制をクリアするためにEVへのシフトが不可欠だと認識し、排ガスゼロのEVシフトに注力してきた。

 ところが、次世代自動車の本命だと予想されていたEV市場に異変が生じている。市場を牽引してきたテスラの業績は大幅に落ち込み、4年ぶりの減収減益、ゼネラル・モーターズは販売台数の減少、フォード・モーターは発売の先送り、またメルセデス・ベンツは2030年に予定していた全車EVを断念など、暗いニュースばかりである。中国でも販売台数の増加率が大幅に縮小しており、大量のEVが放置される状況となった。なお、日本のEV市場もどういうわけか期待通りには普及していない。

 まず欧州EV市場の成長に急ブレーキがかかっている。欧州自動車工業会によると、1〜6月のEV販売は前年同期に比べ1.6%増で、伸び率はその前の年(45.0%増)から大幅に鈍化。EV購入時の補助金を廃止したスウェーデンやドイツでは販売数がマイナスに転じた。

 とくに、ドイツのフォルクスワーゲン社は21年に向こう5年間の総投資額の6割に当たる14兆円超(890億ユーロ)をEV関連領域に振り向ける方針を打ち出し、EVシフトに積極的であった。しかし、巨額投資に見合うだけの販売実績を挙げられず、最近工場の閉鎖を発表し、業界に衝撃が走った。中国市場での激しい価格競争に巻き込まれ、比亜迪(BYD)など新興の中国勢に押され、販売台数を減少させたことが収益に影響を与えたようだ。

 米国でも、ゼネラル・モーターズはEVの生産開始時期を延期し、フォード・モーターは新車投入計画を撤回した。日本国内でも今月、トヨタ自動車が26年のEVの世界生産台数を100万台弱に縮小することが明らかになった。掲げていた26年のEV販売目標150万台は事実上困難になった。好調だった米EV大手のテスラの24年上半期の販売台数も、前年同期比6.5%減と、マイナスに転じ、減速傾向が鮮明になってきた。

 EV減速の原因としては、新しいものに飛びつく顧客層が一巡したという見方と、経済の下振れの兆候、高金利による自動車ローン金利の上昇などが挙げられている。

EVシフトで分かった「不都合な真実」

 電気自動車はガソリンエンジンの代わりに、バッテリーとモーターで構成される。ガソリンエンジンに比べて部品数も少なくなり、電気自動車の製造に、さまざまな業種から参入が相次いでいる。

 ガソリンエンジン自動車の製造において、既存の先進国に太刀打ちできなかった中国は、電気自動車に力を入れ、中国企業が電気自動車の製造では世界トップレベルの競争力をもつようになっている。日本のハイブリッドには勝てない欧米自動車企業は、戦略としてEVシフトを進めてきたが、結果的には世界の自動車市場を中国に抑えられようとしている。中国メーカーは低価格を武器に、ヨーロッパ市場の浸食はいうまでもなく、東南アジア、アフリカなどで急速にシェアを伸ばしつつある。

(つづく)

(後)

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