2022年01月20日( 木 )
by データ・マックス

TPP大筋合意アトランタ現地報告(2)~山田正彦元農水相

安倍政権は、公約も国会決議も反故にした

 ――農林水産分野の395品目で関税撤廃になる。自民党が公約した「TPP断固反対」や、国会が決議した「重要品目は除外」は反故にされた。

 山田 僕が現地に到着したのは9月30日だけど、カナダの農業団体の代表に会った時に最初、こう言われた。「日本は、メリットがある自動車まで譲ってしまって、何のメリットがあるんだ。カナダは農業問題で譲らない」と。ハワイの交渉の時も、「カナダの交渉団と毎晩、夜遅くまで話し合いをやっているので、夜は会う時間がない」と話していた。アトランタでも、カナダだけでなく、各国の交渉団は、現地入りした利害関係団体と夜遅くまで協議を繰り返していた。日本は農業団体だけで100人くらいアトランタに行っているけど、政府の交渉団は農業団体と何の協議もしていない。
 日本政府は、実際には、オバマ大統領が去年(2014年)4月に日本に来た時に、安倍首相が寿司屋で“握って”しまった。あの後、牛肉の関税9%とか、牛肉や豚肉の関税合意内容を読売新聞がすっぱ抜いた通りになっている。ところが、政府は「あれは誤報だ」「聖域は絶対守る」と言い続けて、自民党は「国会決議を守る」と農民をだましていた。
 ブルネイの閣僚会議で、ニュージーランドのジェーン・ケルシー教授と、米国のNPO「パブリックシチズン」のローリー・ワラック氏と会った。その時に「日本は、牛肉、豚肉を譲ってしまったけど、今交渉しているのは砂糖だと聞いている」と言っていた。

食料自給と食の安全を捨てた~砂糖も果汁も譲っていた

 ――ブルネイの時には、もう砂糖に移ってしまっていたとは驚きです。

山田 正彦 氏<

山田 正彦 氏

 山田 ところが政府も自民党も「砂糖は絶対に守った」と言っていた。だから、アトランタの会議が終わるまで、日本が砂糖で譲っているとは誰も思っていなかった。誰もが砂糖は例外だと思っていた。しかし、ブルネイの時に今交渉しているのは砂糖だと聞いた通りになった。ひどい話だ。
 今回初めて明らかになったのは砂糖だけではない。果汁の関税撤廃が明らかになった。たとえばミカン農家は、生果の生産は84万トン。ところがオレンジとか果物は商品に出せる期間は限られているから、果汁に10万トンくらい回している。オレンジ果汁の関税が、何年間かかけて撤廃され、ブドウ果汁は即時撤廃される。果汁が競争で太刀打ちできなくなったら、その分、生果実を高く売れないと採算がとれなくなる。今でもミカンは採算がとれないと言われている。果汁だけではなく、関税が下がり撤廃されれば生果もどんどん入ってくる。オレンジは、生果を2割くらい高く売らなければ、採算がとれなくなる。
 ハムソーセージもそうだ。僕は牧場を経営し牛豚を飼っていたからわかるが、豚肉も、端肉が出る。国内生産者は、端肉を利用したソーセージなど加工品用に出荷しないと採算がとれない。

 ――枝肉だけで採算がとれるのではなく、端肉も含めてトータルで経営が成り立っているわけですね。

 山田 その通りだ。加工業者は関税がなくなるから喜んでいるが、生産者が大変だ。
 コメでもミニマムアクセスで今77万トン輸入している。今回、米豪に7.84万トンの輸入枠を設定する。それを政府が買い入れると言っている。それは、米国から入ってくる単粒種のカリフォルニア米を買って備蓄用に回すのではなく、国産のコメを備蓄用に買って回す。何を考えているか。今でも、入ってきたカリフォルニア米は業務用でどんどん使われているが、米国のコメを使わせて、国産の一生懸命作ったコメを備蓄して飼料用にして2年後に手放すと言っている。2年後は大暴落する。「早く農家はつぶれろ、コメはすべて米国やカナダやオーストラリアに頼ろう」だ。日本政府は、食料の自給と、食の安全を捨てた。

米国は農業へ1兆2,000億円の補助金

 ――自給と安全をともに捨ててしまったら、大変な事態だ。

 山田 日本の伝統的な稲作文化も全部消える。コメを作る農家がいなくなってコメを買うようになる。ずいぶん前から米国の農業を視察してきたが、米国は、日本円に換算して毎年1兆2,000億円から2兆円の補助金を出している。たとえば、トウモロコシだったら1エーカーあたり28ドルの補助金を出している。コメだったら、コメをタイやマレーシア、ベトナムに輸出しているが、目標価格を1トン当たり240ドルに設定して、国際市場価格が安くなると、たとえば74ドルになれば、標準価格との差額166ドルを米作農家へ補助金を出している。そうした補助金が、全部で1兆2,000億円から2兆円ある。日本は、その事実を知らない。ヨーロッパは農家収入の8割は所得保障だ。それで、食の安全や環境を守ってきた。

 ――日本でも、棚田をはじめ、国土保全機能を経済的価値に換算して、国土保全機能があるという動きがあったのに、なぜこんな事態になったのか。

 山田 安倍首相だ。アメリカの言いなりになっている安倍首相と、安倍首相や官邸の言いなりにしかならないだらしない自民党だ。

(つづく)
【取材・文:山本 弘之】

▼関連リンク
・TPP交渉差止・違憲訴訟の会

<プロフィール>
yamada_pr山田 正彦(やまだ・まさひこ)
元農林水産大臣。弁護士。TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長。1942年、長崎県五島生まれ。早稲田大学卒業。牧場経営などを経て、1993年の初当選以来衆院議員5期。農業者戸別所得補償制度実現に尽力。『輸入食品に日本は潰される』(青萠堂)、『小説 日米食糧戦争 日本が飢える日』(講談社)、『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)など著書多数。

 
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