2022年01月22日( 土 )
by データ・マックス

目的の実現に最良の方法をAIが教えてくれる!(後)

東京大学大学院 工学系研究科 准教授 松尾 豊 氏

AIは道具なので良くも悪くも使われる

 ――コンピュータが自分で特徴量を見つけ出せるとはすごいことです。現実の社会にもどんどん応用できそうですね。
 松尾 そうです。社会のあらゆる分野の活動に応用していくことができます。たとえば、経済学の分野で「需給曲線」というのがあります。「供給量よりも需要量が少ないと,商品が売れ残るので市場価格は下がり、反対に供給量が少ないと,商品が足りなくなるので市場価格は上がる」というものです。そこで、この点を留意して商売を行えば、効率が良く儲かるなどと言われています。しかし、たくさんある経済現象のなかで、どうして需要と供給だけを特徴量として取り上げるのでしょうか。買い手の心理を分析し、より効率的に商売をするためには、もっと良い特徴量があるかも知れません。
 このように社会現象、経済現象のなかには、人間の気づかない特徴量がいっぱい埋もれています。それらの特徴量を使うと、景気の予測も格段と正確になり、天気予報の精度も格段と向上すると言われています。今、「ディープラーニング」技術の発達によって、これまで人間が考えもしなかった、埋もれていた特徴量を発掘することが可能になったのです。

 ――少し、話題を転じます。このような素晴らしくも、凄まじくもある「AIの進化」に対して、ときにはSF的、ときには倫理的に警鐘を鳴らす有識者もいます。先生は、人工知能学会の初代倫理委員長です。この点をどう思われていますか。

東京大学大学院 工学系研究科 准教授 松尾 豊 氏<

東京大学大学院 工学系研究科 准教授 松尾 豊 氏

 松尾 「Future of Life Institute」(FLI)というボランティア運営の研究支援団体があります。ボストンに拠点を構え、人類の存続を脅かす危機を緩和するために活動を行っています。この組織は、MITの宇宙学者マックス・テグマークやSkypeの共同創業者Jaan Tallinnらによって創設され、諮問委員会にはイーロン・マスク、理論物理学者のスティーブン・ホーキング、ハーバード大学の遺伝学者ジョージ・チャーチや俳優のモーガン・フリーマンなどが名を連ねています。
 その目的は、オープンレターに書かれてあり、要約すると、人工知能の潜在的な利益が巨大であることを前提にしながら、そのうえで、「潜在的な落とし穴を避けつつ、人類がその利益を刈り取るためにはどうしたらよいのか」を研究することは重要であるとしています。
 アメリカにおけるAI研究は、日本と比べると圧倒的に進んでいます。アクセルを踏み続けるばかりでなく、このようなブレーキをかける役割の人は一定数必要だと私も思っています。逆に日本は、まだアクセルを踏むレベルにまで到達していません。私は、AIの技術が進展することによって、産業競争力が強まり、日本経済を復活させることができると思っています。

 以上のことを考慮したうえで、「AIと倫理」の問題について、私は2つの点に留意して考えています。
 1つはSF的な側面です。私は人工知能が人類を征服したり、人工知能をつくり出したりする可能性は、現時点ではあり得ないと思っています。この考え方には、自己保存や種を増やしたいという欲求を持つ「生命」と、目的を与えられれば非常に賢い振る舞いをする「知能」の混同がみられます。人類が知能をつくれたとしても、生命をつくることは難しいと思うからです。まして、「生命」と「知能」の2つが両立して増殖していくことを恐れるのは、滑稽であると考えています。
 2つ目ですが、この点こそ私が倫理委員長として、1番大事にしなければならないと思っていることです。「ディープラーニング」技術の発達によって、目的の実現に最良の方法を、人間よりも正確にAIが教えてくれることが可能となりました。今後はAIが良い目的のために使われるだけでなく、「オレオレ詐欺」のような悪い目的のために使われる可能性も出てきました。その場合、AIは人間が考えもつかないような特徴量を抽出し、高度な犯罪を成功させてしまいます。つまり、AIはあくまでも道具なので、良くも悪くも使われてしまうのです。それを防ぐために、私たちは「どういう社会を実現していきたいのか」を考え、そのなかでAIはどのような役割を担えるのかを、真剣に議論する時期に来ています。
 人工知能学会の倫理委員会としては、「悪い目的のために、AIをつくったり、使ったりするのは止めましょう」と提唱しています。

人間が人間らしい仕事に特化することが可能に

 ――最後になりました。読者にメッセージをいただけますか。
 松尾 AI研究については、今「50年来のブレイクスルー」が起こっています。コンピュータは、自動で特徴量の抽出が可能となりました。地球上の膨大なデータのなかには、生身の人間には見えませんが、コンピュータだけに見える何らかの相関性や規則性、あるいは法則性などパターンがたくさん眠っています。その結果、社会のさまざまな領域で大きな変化が起こりつつあります。
 昨年、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授の発表した論文「雇用の未来」が、社会に大きな衝撃を与えました。そこには、「現存する職種の47%がAIに奪われる」という表現があります。近い将来、現在人間がやっている「機械的な仕事」は、機械にとって代わられることになります。しかし、これは決して悪いことではないと私は考えています。「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべき」であると考えるからです。AIの研究が進めば進むほど、人間は人間らしい仕事に特化することが可能になります。
 これからは、本当にありとあらゆる分野で、AIが役に立つ日がやって来ます。読者で学生や若い技術者の方は、ぜひ積極的にこの分野に取り組んでいただきたいと思っています。実はこの分野は、とても日本人のメンタリティに合っているのです。

 ――本日は、ありがとうございました。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
matuo_pr松尾 豊(まつお・ゆたか)
1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より産業技術総合研究所研究員。05年10月よりスタンフォード大学客員研究員。07年10月より東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻准教授。シンガポール国立大学客員准教授、(株)経営共創基盤(IGPI)顧問。02年人工知能学会論文賞、07年情報処理学会長尾真記念特別賞受賞。人工知能学会編集委員長、第1回ウェブ学会シンポジウム代表。専門はWebマイニング、人工知能、ビッグデータ分析。著書として『人工知能は人間を超えるか』、共著として『人工知能って、そんなことまでできるんですか?』など。

 
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