2024年12月11日( 水 )

回想「失われた30年」のMade in Japan 船井電機が破産(前)

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 「失われた30年」の代表的な消費財は「メイドインジャパンのテレビ」。日本のテレビは2008年に世界シェアトップの43.4%を占めるなど世界を席巻していたが、13年までに中国・韓国勢に相次いで敗れた。その後、「FUNAI」ブランドで低価格帯のテレビを供給していた船井電機は破産に追い込まれることとなる。(文中・敬称略)

300億円の資金流出がトドメ

イメージ    「船井電機(大阪府大東市)が10月24日に東京地裁から破産手続き開始決定を受けた」と報道各社が破産開始申立書に基づき一斉に報じた。

 報道によると、原因は資金流出だ。21年5月に出版を手掛ける秀和システム(東京・江東区)系企業に買収されて以降、関係会社などに「貸付金」として約300億円が流出。現預金がほぼ底をついた。

 船井電機には帳簿上、9月末時点で約474億円の負債と、負債を上回る約643億円の資産があった。ただ、資産のうち約253億円は資力のない持ち株会社「船井電機ホールディングス(HD)」への貸し付けで、実質は無価値。

 このほか、HDが買収した脱毛サロンチェーン「ミュゼプラチナム」グループ(東京・港区)の借金約33億円への保証も簿外債務として存在し、117億円の債務超過だった。

 本業のテレビ事業の不振も影響した。ネット時代の到来で、テレビはオワコン(時代に合わなくなったコンテンツ)の代名詞となった。スマホは必需品だが、テレビを買わない若い世代は少なくない。彼らにとって「世界のFUNAI」と聞いても??だろう。

 船井電機の歴史を辿ってみよう。

ウォルマートの店頭にFUNAIのテレビが並んだ

 船井電機の創業者、(故)船井哲良(17年7月、90歳で死去)は1927年1月24日、神戸市でミシン業を営む家に生まれた。太平洋戦争が終戦した45年、徳島に疎開していた船井は「40歳までに5つの会社の社長になる」と決心。大阪にある東洋ミシン商会に4年間勤めた後、51年、船井ミシン商会を立ち上げた。24歳の時だ。61年に船井電機を設立。多様な家電製品を安価で大量に生産し、輸出を中心に発展を続けた。

 船井電機が飛躍するきっかけになったのは、90年代に始めた米小売り大手のウォルマートとの提携だ。2000年代前半に、自社ブランドにこだわらず、低コストでテレビのOEM(相手先ブランドによる生産)を請け負うビジネスモデルを完成させ、米ウォルマートなどと強い関係を築き、全米に広がる店頭に船井電機製のテレビが並んだ。

 船井電機は、タイや中国の工場でテレビを安く生産し、それを家電メーカーから買い取ったブランドで、米小売り大手ウォルマートで販売するビジネスモデルを確立した。00年代には高収益モデルとして注目を集め、04年3月期には263億円の最高純利益を出した。「世界のFUNAI」の黄金時代だ。

オランダのフィリップスと訴訟合戦

 船井電機が迷走する転換点は07年である。北米向けにオランダのフィリップスブランドの液晶テレビを量産し、純利益200億円以上をコンスタントにあげていたが、07年3月期は赤字に転落。激安の薄型テレビを販売する中国製新興ブランドが相次ぎ、低価格を武器にしてきた船井電機は北米市場で苦戦に陥った。

 08年6月、創業社長の船井哲良が会長に退いた。トップ交代は61年の設立以来、初めて。生え抜きの林朝則が社長に就任した。最終赤字が続き、経営の立て直しのため脱テレビ依存に舵を切った。13年1月、収益拡大を狙ってフィリップスのオーディオ機器事業を買い取ることで合意。ところが、同年10月、フィリップスは船井電機に契約違反があったとして売却を中止。賠償を求めて国際仲裁裁判所(ICC、パリ)に仲裁を申し立てた。

 14年1月、林が退き上村義一が後を継いだ。14年10月、船井電機はフィリップスに431億円の損害賠償を求める書面をICCに提出したと発表。その数時間後、社長交代がホームページで公表された。上村義一は9カ月で社長を退任、林朝則が社長に復帰。創業者の船井哲良会長が代表権を回復した。フィリップス強硬派の上村を更迭し、フィリップスとの和解に転換したと受け止められた。

 15年4月、米国やメキシコ、南米の液晶テレビとビデオ機器事業でフィリップスブランドを使う契約を3年間延長。当初は15年12月末までだったが18年12月までに延ばす。16年4月26日、国際仲裁裁判所は、船井電機がフィリップスに損害賠償金や仲裁費用など計175億円を支払う仲裁判断を示した。船井電機がフィリップスに損害賠償を要求していた反対請求は棄却された。船井電機は16年3月期の連結決算で賠償金などを特別損失として計上、最終損益は338億円の赤字となった。

(つづく)

【森村和男】

(中)

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