異業種からの参入も 過熱する福岡ホテル市場
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急回復した観光需要
コロナ禍を経て、福岡市内の観光需要は盛況を博している。天然とんこつラーメン・一蘭本社総本店前にできるお昼時の長蛇の列は、その象徴的な光景だ。福岡市が公表している「福岡市の観光・MICE 2024年版(福岡市観光統計)」によれば、市内における観光消費額は2019年の5,305億円から、20年の1,517億円、21年の2,253億円とコロナ禍で落ち込み、訪日外国人観光客の本格的な受け入れが再開された22年には、4,219億円まで急回復を見せた。入込観光客数と宿泊客数の推移も同様で、コロナ禍後は順調に回復に向かっている様子がうかがい知れる(表①参照)。
表① 円安を後押しとする来福外国人観光客の増加もあり、各数値が上昇しているであろうことは想像に難くない。地域経済の振興に資する滞在型観光を促進するうえでも、宿泊施設の数に過不足がないか気になるところだが、市の観光統計によると、客室数はホテル・旅館が19年の3万2,685室から、23年には3万8,491室まで増加しており、コロナ禍で止まっていた計画が再始動していることがわかる。一方、ゲストハウスなどに代表される簡易宿所は19年の1,188室から、23年には562室まで減少している。
宿泊施設の営業形態がホテル・旅館へと集中していくなか、今年に入って判明した市内における新設ホテルの計画概要をまとめた(4月出稿時点)。異業種からの参入もあり、福岡の宿泊市場は拡大期にあると同時に、熾烈な競争の時代へと突入したといえる。
博多区にホテル続々
福岡市内においてホテル計画が目立つのは、博多区と中央区。とくに博多区ではJR博多駅近隣エリアから、呉服町や綱場町などの博多旧市街エリアまで、幅広く計画が立ち上がっている(表②)。
注目されるのは、JR博多駅・筑紫口至近地で計画されている「HOTEL LA FORESTA ANNEX(ホテル ラ フォレスタ アネックス)」。同駅近隣でプレジデントホテル博多を筆頭に、複数棟のホテル運営を手がける(株)プレジデントハカタの新しいホテルで、計画客室数は100室を超える。宿泊客にとっては交通アクセス・余暇の充実面で利便性の高い立地であり、運営側にとっては、既存の「HOTEL LA FORESTA」とテナントビルを挟んで隣り合うかたちで新設されるため、運営効率に優れた立地となっている。
昭和通り(博多区石堂大橋~中央区荒戸交差点)と大博通り(博多区博多駅交差点~福岡サンパレス前)が交差する蔵本交差点側では、不動産売買・仲介などを手がけるK.ホールディングス(株)を代表社員とする(同)K.H.Sが「綱場町ホテルPJ」を計画。営業予定者は、近年ホテル運営で目立つ(株)BEAD。K.ホールディングスは須崎町でも開発用地を取得(稲田商店跡地)しており、博多旧市街エリアでもその存在感を高めている。
同エリアでは県外企業による開発も散見され、大東建託アセットソリューション(株)(東京都港区)による「上呉服町ホテルPJ」や、(株)スターライズ(東京世田谷区)による「神屋町ホテル」などが計画されている。博多駅周辺エリアにおいても、スマホ向けアプリゲーム「A3!(エースリー)」などで知られる(株)アエリア(東京都港区、東証スタンダード)の関連会社で、不動産投資事業などを手がける(株)トータルマネージメント(東京都港区)が「博多駅東3丁目ホテル」を計画しており、県内外の企業による福岡市内、とくに博多区へのホテル投資が過熱している。
賑わうホテル街・春吉
博多と天神の中間に位置する中央区・春吉は、かつて遊郭があり賑わいを見せていたエリアでもあり、その名残からかいわゆる「青線(非合法売春エリア)」として盛況を博していた歴史がある。今でもホテル街として賑わいを見せているが、近年はビジネスホテルの新設が続き、さまざまなホテルを内包した来福観光客の観光拠点になりつつある。
好調な宿泊需要を受け、今年に入ってからも春吉では個人による「中央区春吉3丁目計画」(営業予定者:Local Design(株))や、福岡都市開発(株)による「春吉3丁目ホテル」(同:(株)ホテリエ)が新たに計画されている。前述の通り福岡市における2大都心、博多・天神の中間点という立地と、新たなホテルの誕生を通じて広がる宿泊施設の選択肢が、観光拠点としての春吉の存在感を高めている。中央区では春吉以外でも、個人による「舞鶴2丁目ホテル」や、(株)堀内電気による「渡辺通り1丁目ホテル」などが計画されている。
堀内電気については、すでにみずほPayPayドーム側で民泊用戸建を開業しており、前述の渡辺通りのほか、博多区東光2丁目でもホテル開発を控えている。昨年12月には総合建設業の中村建設(株)が博多駅南2丁目で旅館「access inn hakata」を計画していることが明らかとなっており、市内における宿泊需要の拡大を受け、両社のように異業種から宿泊事業へ参入するケースが増えてきている。
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コロナ禍以降、急速な回復を見せる福岡市の観光需要。来福観光客の受け皿となる宿泊施設への需要も高まっており、ホテル投資への熱は当面冷めそうにない。市内では海外からの観光客で見ると韓国・中国人が目立つが、経済成長や中間所得層の増加にともない海外旅行需要が高まっているインド人の存在もあり、彼らの興味を引くまちづくりがさらなるインバウンド需要の拡大に向けたカギになるかもしれない。市内においては、午後2時~5時に観光する場所が少ない、いわゆる『2時・5時問題』がある一方で、福岡城跡をはじめ寺社仏閣など、歴史的建造物が少なくない。市は事業者から徴収している宿泊税を活用し、それらの歴史的背景を含め、もっと広く福岡らしさを対外的にPRしていくべきだろう。福岡にしかないモノ、福岡でしか体験できないコトを結び付けることで、回遊性の高い観光ルートを来福観光客に提案できれば、市内での宿泊をともなう滞在型観光を今以上に活性化できるはずだ。
【代源太朗】
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