NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は「国民民主党は労働者のために〈良い仕事〉をまったくしていない」と批判する6月2日付の記事を紹介する。
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昨年来、〈103万円の壁〉、〈106万円の壁〉、〈130万円の壁〉などの言葉が飛びかってきた。〈103万円〉は所得税に関するもの。〈106万円〉は健康保険、厚生年金等の社会保険に関するもの。
103万円はいわゆる〈課税最低限〉を象徴する言葉。年収がこの水準に達するまでは所得税負担が発生しないが、この水準に到達すると所得税負担が発生する。ただし、逆転現象は生じない。他方、〈106万円〉と〈130万円〉は社会保険料負担が発生する境界線で、こちらは、この水準を超えるといきなり多額の社会保険料負担が発生するために、より多く働いたのに、逆に手取りが減少するという〈逆転現象〉が発生する。
〈働き控え〉が問題だとされてきたが、〈働き控え〉を引き超こすのは主として〈106万円〉と〈130万円〉。岸博幸氏というコメンテーターがいるが、昨年11月10日のTBS番組で、「106万円の壁」撤廃の流れが浮上したことを、「この問題、マジで怒ったほうがいい」「収入を増やすという減税の効果は完全に消えます。本当にみんな怒るべきです」と述べた。この指摘は正しい。問題は岸氏がその後もこの主張を貫いているのかどうかだ。
年金改革法制定が強行されようとしている。自公に加えて立憲民主が賛成に回っている。就職氷河期世代の年金受給額が将来減るから、その金額をかさ上げするために厚生年金の積立金を流用する対応を含んでいる。年金制度の根幹を破壊する〈世紀の悪政〉である。
この法律の中に〈106万円の壁〉、〈130万円の壁〉撤廃が含まれている。106万円と130万円は企業規模による相違で、従業員51人以上の企業では106万円が、従業員5人以上の企業では130万円が、社会保険料負担が発生する境界になる。
多く働いたら社会保険料をごっそり取られて手取りが大きく減少する。したがって、労働者はこの境界を超えないように細心の注意を払ってきた。当たり前のことだ。多く働いたら手取りが大幅に減ってしまうのだから、これに近づけば働き控えの対応が取られることは必然だ。
私は〈106万円の壁〉、〈130万円の壁〉と言わずに〈106万円の沼〉、〈130万円の沼〉を表現してきた。この水準を超えると〈沼に嵌(はま)る〉。自公立による法改定は〈すべての労働者が沼に嵌る〉ようにするもの。すべての労働者に〈沼に嵌ってもらいます〉という法改定なのだ。
これをメディアがどう表現しているのだろうか。「パートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう「年収106万円の壁」と呼ばれる賃金要件を撤廃する法案」としている。労働者が選択して厚生年金に加入するのかどうかを決めるのではない。労働者が選択して加入するのかを決める制度なら、「パートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう」と表現してもよいだろう。
※続きは6月2日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「国民民主はザイム真理教か」で。
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植草一秀の『知られざる真実』
【6/20要申込】
植草一秀プレミアムセミナー&出版記念パーティー開催
6月に新刊『財務省と日本銀行-日本をダメにするカルトの正体-』を上梓する植草一秀氏を講師に迎えて、日本の財政政策の実態を読み解き、経営者が今後の経済環境にどう向き合うべきかを考えるセミナーを開催します。植草氏と直接意見交換ができる貴重な機会です。ぜひご参加ください。
<INFORMATION>
〔日時〕
2025年6月20日(金)午後3時~6時
〔場所〕
福岡市民ホール(小ホール)
〔プログラム詳細〕
講演『財務省の正体とビジネス防衛論』 午後3時~4時半
質疑応答 午後4時半~5時15分
出版記念パーティー(軽飲食付き) 午後5時15分~6時
〔講師〕
植草一秀氏(政治経済学者)
〔参加費〕
1万円(飲食、新刊書籍、書下ろし資料代含む)※要申込
〔お申し込み先〕
専用フォームあるいはTEL、FAXにて
▶ 専用フォーム
TEL:092-262-3388
FAX:092-262-3389
主 催:(株)データ・マックス
※当セミナーの詳細な内容は告知記事にてご確認ください。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。