
福岡県鉄筋事業(協) 理事
(有)佐藤技建 代表取締役 佐藤智之 氏
建設業界では、人手不足や技能者の高齢化が深刻な課題となっている。多能工の育成と外国人材の活用を通じて、自社で一貫して対応できる施工体制を築いてきた(有)佐藤技建は、現場を支える人たちの働き方や処遇を見直し、より持続可能な業界を目指している。同社の代表取締役・佐藤智之氏に、その取り組みの背景と展望をうかがった。
多能工化と自社施工への転換
──従業員30名のうち半数が外国人材という構成で、どのように現場を回しているのでしょうか。
佐藤 当社では、「鉄筋組立」「土木」「運送」「加工」という4つのセクションで業務を展開しています。ただし、各セクションを固定せず、従業員には「1人2役、3役」を担ってもらう体制を重視しています。たとえば、一級鉄筋技能士が大型トラックを運転し、土木現場では重機も操る。こうした多能工化が、規模の小さい組織でも稼働効率を高め、現場を円滑に動かす原動力になっています。全員が柔軟に動ける強さこそが、持続可能なチームをつくる鍵なのです。
また、これにより急な欠員や工程のずれにも迅速に対応できます。仮に配筋作業が延期になっても、その職人がトラックを運転して別現場の資材運搬を担えるなど、業務の連動性が生まれます。結果として、1日の生産性は飛躍的に高まっています。
──鉄筋工事業を核としながら、土木、解体、さらには別法人で建築や不動産業まで展開されています。
佐藤 もともとは、鉄筋工事の取引先から「型枠や造成工事業者を紹介してほしい」「佐藤技建さんで一括してやってもらえませんか」といったご相談をいただくことが増えてきたのが始まりでした。そうした声にお応えするうちに、自然と業務の幅が広がり、やがて自社で一貫して対応できる体制へと発展していきました。
併せて、「社員に仕事の空白をつくらせない」という課題意識もありました。鉄筋工事は工程の関係上、どうしても閑散期が発生するため、その期間には飯塚市発注の入札に参加し、除草工事や水路の浚渫工事などの小規模な土木工事などを内製化し、別業務を柔軟に割り振ることで、年間を通じた仕事量の平準化を図っています。ほかの工種に取り組む前には、従業員としっかりと話し合いの時間をもちました。そのなかで「できることは自分たちでやりたい」という前向きな声が挙がり、私自身とても嬉しく思いました。それがきっかけとなり、新しい挑戦に対する社内の雰囲気も一気に明るくなりました。
また、建築および不動産を担う別法人をもっているのも強みです。自社で土地を仕入れ、解体し、造成し、建てる。一連の流れを自社完結させることで、外注費を削減しつつ高い利益率を確保できます。元請からも「佐藤技建に頼めば、掘削から鉄筋、型枠、打設まですべて完結する」と重宝されます。これは単なる事業拡大ではなく、リスクを分散しながら「中抜き」を排除し、技能者の処遇に還元するためのレジリエンス(弾力性)なのです。自社で完結できる強みが、外国人材の処遇改善にも直結していると自負しています。
外国人材も「正社員」として
育てる投資
──外国人労働者の給与体系や待遇について、どのような方針をとっていますか。
佐藤 待遇は日本人と完全に同等です。むしろ、管理団体への支払いや寮の整備、免許取得費用などを考慮すれば、実質的なコストは日本人よりも高くなっています。しかし、彼らを一時的な労働力とは見ていません。一人前の「専門技能職」として、将来的に現場を任せられるレベルまで引き上げる。それが経営としての投資判断です。日本語能力の向上支援もその一環です。
今では特定技能2号を取得したスタッフや、工場の管理業務を任せている人材もいます。当社に根を下ろし、地域の仲間として長く働いてもらうための投資と捉えています。
──多国籍化するなかでの教育の工夫と、近年の労働市場の動向をどう見ていますか。
佐藤 当社では専任スタッフが学校や関係機関と連携し、入社前からの日本語学習、入社後の「読み聞かせ」や「生活相談」にも力を入れており、仕事以外の文脈でも信頼関係を築けるようにしています。閑散期などの仕事が比較的落ち着いた時間を活用し、日本人スタッフが本の読み聞かせを行うなど、丁寧で根気強い日本語教育を実施しています。このような取り組みの成果として、日本語能力試験のN2(2級)に合格するほどの優秀な外国人スタッフも育っており、現場作業や工場での業務だけでなく、事務作業まで任されるようになっています。
また、日本語教育にとどまらず、職長教育の実施や各種免許の取得支援、一級技能士資格へのチャレンジも後押しするなど、外国人労働者が日本で長く働き、キャリアを築ける環境づくりに力を入れています。
一方で、懸念すべき動向もあります。最近は、特定技能を取得した外国人が建設以外の業種、とくに工場などに流れていく傾向が強まっています。技能実習から特定技能へ、さらに他業種へという流れが加速しており、建設業が「労働力を輸入する」という視点に固執し、「職業としての魅力」を再構築できていない現状の表れです。
この労働力に対する高い意識は、2月の(一社)建設産業専門団体連合会の海外視察で得た知見とも深く共鳴しています。
職人は“国家の資産”
──オーストラリア視察で感じた「外国人労働者の受入人数の適正化」について、お聞かせください。
佐藤 オーストラリアの凄みは、移民政策と労働価値の維持が密接にリンクしている点です。彼らは、労働力を受け入れる数を政府が厳格に管理しており、需給バランスを調整することで賃金水準を維持しています。日本は「人手不足」と叫びつつ、実際には業界によっては人が余っていることが多く、それが単価下落の原因になっていると思います。受け入れ人数と処遇を両輪で設計しなければ、結局、誰の賃金も上がりません。
──米国(ラスベガス)や欧州の訓練施設と比較して、日本に欠けているものは。
佐藤 投資の規模感と「職人への敬意」です。昨年視察に訪れたラスベガスでは600億円規模の職業訓練施設が稼働しており、工場内で実物大の橋梁や建物を「組み立てては解体する」の反復練習が行われていました。宿泊施設、食堂、教室すべてがプロフェッショナルの空間で、まるで大学のような環境です。対する日本では、いまだに民間企業の自助努力、あるいは「見て覚えろ」という前近代的な教育に頼っています。グローバルで見れば、職人は「国家レベルの投資対象」なのです。ここを直視しない限り、日本の建設業界が抱える「根深い病理」は治癒しません。
職場環境整備は企業の責任
──「高い山の峰に掲げた一本の旗」という言葉に込めた思いを聞かせてください。
佐藤 昨年12月に改正建設業法が全面施行され、建設工事の請負契約において最低限確保すべき労務費を示す標準労務費は「絵に描いた餅」であってはなりません。官民一体となって、何が何でも到達すべき目標であり、業界全体の誇りを守るための指標です。かつての建設業界が「儲かっていた」のは、単に社会保険や税金を適切に支払わず、不健全なコストカットをしていたに過ぎません。すべての公的コストを適正に支払い、そのうえで高収益を実現する「真の経営」の旗印として、この標準労務費を死守すべきです。
──工場に屋根を設けることについて、社長は一貫して強くこだわっていらっしゃいます。
佐藤 工場の屋根の話をすると、「鉄筋は錆びても強度に影響はない」とか「コストがかかる」といわれることがあります。でも、私からすれば、それは材料の話であって、人の話ではありません。大切なのは、そこにいる“人間がどう感じるか”です。
私自身、かつて屋根のない工場で雨に打たれながら作業していました。あの環境で若者が長く働こうと思えるでしょうか。屋根は単なる設備ではなく、「あなたの働く場所は整っています」という経営側からの“敬意”の表れです。
ただ残念ながら、現状では屋根の有無が加工賃や工賃に反映されることはほとんどありません。設備投資をしても、価格に評価として跳ね返ってはこない。「屋根があってもなくても、もらえる金額は同じ」というのが今の業界の現実です。そうなると、コストをかけずに利益を出す側が有利になり、環境整備に取り組む企業が割を食う。これでは誰も前向きに投資しようとは思いません。
「屋根なんかいらない」という声もありますが、それは最初から屋根のない環境に慣れてしまった人の論理です。そもそも「屋根がないほうが良い理由」なんて、何1つもありません。だから私は、屋根のある工場が標準であるべきだと訴えたいんです。
職人の処遇を改善しよう、労務単価を上げようという議論の前に、まずは「人が働く環境」にもっと光を当ててほしい。屋根はその象徴のようなものです。そして、その努力が正しく評価される業界になってほしい。そう願っています。
若者と職人に選ばれる現場づくりへ
──若年層の入職促進に向け、どのように取り組まれているのでしょうか?
佐藤 建設産業専門団体九州地区連合会と連携して出前授業を行っていますが、今年から自社単独でも始めました。現場で活躍する職人のなかから担当者を1人決め、その者が中心となって高校を訪問し、職業理解の授業を行っています。実際には、県内の高校へうかがい、学校の敷地をお借りして授業を実施しました。
こうした活動の目的は明確で、日本人の若い世代に「この会社で働いてみたい」と思ってもらえるような企業づくりを進めることにあります。建設業の魅力ややりがいを、現場の職人自身が直接伝えることで、業界全体のイメージを少しでも良くしていきたいと考えています。
──多能工化や内製化を通じて、これからの建設業にどんな未来を描いていますか。
佐藤 ものづくりは本来、創造的で楽しい仕事です。指示された作業をこなす受動的な労働ではなく、自らの技能で実体のあるかたちを刻む喜び。その魅力を伝えるには、感情論ではなく「待遇」という数字で示さねばなりません。年収800万円~1,000万円を稼げる職人が当たり前になり、週末はしっかり休める。自らの技能に誇りをもって家族を養える環境を整えることが、次の世代に技術をつなぐ唯一の方法です。
私はその環境づくりを「多能工化」「自社施工」というかたちで実行しています。建設業界には“変える余地”がまだ山ほどある。今こそ経営者が覚悟をもって動くときだと考えています。
【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:佐藤智之
所在地:福岡県飯塚市赤坂841-22
設 立:2002年7月
資本金:500万円
URL:https://satougiken.jp
<プロフィール>
佐藤智之(さとう・ともゆき)
1976年10月生まれ、福岡県飯塚市出身。94年、19歳で鉄筋工事業界に入職し、2002年7月に(有)佐藤技建を設立。代表取締役に就任。21年7月から福岡県鉄筋事業(協)の理事も務める。趣味は読書、将棋。

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