NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、5月22日付の記事を紹介する。
日本政府は日本酒の販路拡大に積極的に取り組んでいます。在外公館での様々なイベントの際に、和食とセットで日本酒を大々的にPR。その甲斐あってか、日本と関係がギクシャクしている中国でも日本の寿司や日本酒は大ブームです。最新の貿易統計によると、2025年度の日本酒の対中輸出額は約133億円に達し、3年ぶりにプラス成長へと転じて世界トップの座を死守しています。
「福島の処理水を理由にした水産物の全面禁輸」という非常に強硬なポーズの裏で、中国政府が日本の寿司や日本酒を厳しく取り締まらない、あるいは取り締まれない理由には、「政治的プロパガンダ」と「冷徹な経済的実利」を巧みに使い分ける中国独特のダブルスタンダード構造があります。
まず前提として、2023年8月から始まった日本産水産物の全面禁輸措置は、2025年5月に日中両政府の間で「段階的な輸入再開」の合意に至ったため、福島や東京など10都県産の水産物は引き続き禁止されていますが、それ以外の地域の水産物は、2025年後半から中国への輸出が再開しています。
そのため、現在中国の高級寿司店で出されている一部のネタは、すでに合法的に日本から直輸入されたものです。処理水問題が最も激しかった時期でも、中国国内の何万店舗もの寿司店や日本料理店が営業を続けられたのは、「使っている食材が日本産ではないから」でした。
中国の寿司店(特に低〜中価格帯のチェーン店)のサーモンはノルウェーやチリ産、ウニは中国の遼寧省(大連)産、ウナギは中国の広東省産などが大半を占めています。中国政府としても、国内の日本料理産業(数兆円規模、数十万人の中国人従業員の雇用)を完全に潰してしまえば、失業率悪化や経済不況を更に深刻化させる自爆行為になりかねません。日本産の食材は叩くが、中国人が経営し、他国籍の食材を使う寿司店は不問にするという極めて実利的な線引きを行っているわけです。
中国政府は日本産の水産物を「放射能汚染(トリチウム)の危険」を理由に止めましたが、日本酒やウイスキーなどのアルコール類は一切止めていません。中国の税関当局の受け止めは、汚染の影響を受けるのは「海に住む生物(水産物)」であり、日本の地下水や米を原料とし、厳格な製造工程を経て作られた「加工食品(酒類)」は安全基準を満たしているというもの。これは裏を返せば、中国政府の禁輸措置が「科学的な安全性の問題」ではなく、日本を揺さぶるための「政治的・外交的な嫌がらせ」であることの証明に他なりません。
実は、中国の富裕層や若者の間で、日本の高級日本酒(「獺祭」や「十四代」等)やウイスキー(「山崎」「響」)のステータスは絶大です。習近平政権が国内の公務員や役人に敷いている「厳しい禁酒令(倹約令)」により、これまで特権階級の賄賂や宴会に使われていた中国の最高級白酒(マオタイ酒)の需要が激減し、価格が暴落しています。
思い起こせば、北朝鮮の金正恩氏が訪中した際、習近平氏は1本128万元(約2,100万円)のマオタイを振る舞い、大いに飲み交わしていました。とはいえ、アルコール度数が強すぎる白酒を嫌う一般の中国人消費者が、家飲みやカジュアルなバーで楽しめる洗練された日本酒へシフトしており、これが2025年〜2026年の日本酒輸出のV字回復(前年比25%以上の数量増)を支えている模様です。
一方、台湾でも現在、空前の日本酒ブームが起きており、2026年の最新統計でも中国に並ぶ日本の主要な輸出先として市場が急拡大しています。台湾の消費者の舌に合わせた「独自の人気トレンド」と、現地で絶大な支持を集めているのが、「フルーティーで甘口(芳醇甘口)」の日本酒です。
具体的には、「獺祭」は台湾における「高級日本酒」の代名詞で、百貨店や高級スーパー、飲食店などどこでも見かけるトップブランドになっています。その他、「八海山」や「久保田」も大人気で、「十四代」も日本国内と同様、現地でも「幻の最高峰酒」としてコレクターや富裕層の間で神格化されており、特権階級のステータスシンボルとなっているとのこと。また、高級ホテルのメインダイニングや、予約困難な寿司割烹などとコラボし、現在、台湾のハイエンド層の間で爆発的なブームとなっている高級ブランドが「百光(びゃっこう)」や「鷹ノ目」です。
こうした日本酒は2019年に関税が40%から20%へと引き下げられたことも追い風となり、かつての日本料理店限定の枠を超えて、台湾の洗練された大人のライフスタイルの中に深く溶け込んでいます。中国や台湾に限らず、他のアジア諸国や欧米でも、和食と日本酒は健康志向の消費者の関心と胃袋をしっかり捉えているようです。
最近では、海外からの訪日客をターゲットにした「酒蔵」を訪ねるツアーも人気を博しています。日本酒の穏やかな味わいが世界を席巻しているわけで、今後も大いに期待できそうです。
著者:浜田和幸
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