「バモー!」37歳の一撃が福岡を変える、ウェリントン弾で広島に先勝~ルヴァン杯POラウンド第1戦

ウェリントン、魂のゴールと最年長記録

「バモー!」

 試合後、ゴール裏のサポーターの前でのマイクパフォーマンス。魂の叫びが響いた。拡声器を握ったのは37歳のFWウェリントン。どんな時も変わらず支え続けてくれたアビスパサポーターへ向けて、その感情を直接ぶつけた。

 6月4日、ベスト電器スタジアムで行われたYBCルヴァンカップ・プレーオフラウンド第1戦。アビスパ福岡がサンフレッチェ広島を1-0で下し、ベスト8進出に向けて大きなアドバンテージを手にした。

 リーグ戦では9試合白星から遠ざかっていた福岡。勝利を渇望するなかで迎えた一戦の立ち上がりは、慎重だった。最終ラインから丁寧に組み立てようとしたが、前進できず、逆に広島にボールをもたれる時間が続いた。だが、福岡はボール保持にこだわらない。カウンターやセットプレーでの一瞬の隙を狙い、虎視眈々(たんたん)とゴールに迫る。

 MF藤本一輝、MF松岡大起がゴール前でシュートを放つ場面もあったが、広島の堅守を破れず前半はスコアレスで折り返す。

 「決定機もいくつかあったなかで、決定力不足やリード後のコントロールには伸びしろがある。でも、ネガティブには捉えていない。前半は得点前にいいかたちを多くつくれていた」と、金明輝監督は前半の戦いを振り返る。

 そして後半、ついに試合が動く。

 後半10分、右サイドからFW紺野和也が運んだボールを、FW名古新太郎が中央で受け、左へ展開。わずかにバウンドしたボールを、FWウェリントンが左足で冷静に流し込み、ゴールネットを揺らした。「今季初ゴール。まずは得点を取れたのは素直に嬉しい。もう少し早く取りたかったけど、こういう大事な試合で取れたのは嬉しい」。

 試合後、ウェリントンは安堵(あんど)の表情を浮かべた。この一撃は彼自身の今季初得点であり、37歳3カ月24日でのゴールは、クラブのJリーグ公式戦最年長記録を更新する歴史的な一発だった。

 「名古の素晴らしいアシスト。少しバウンドしていたけど、落ち着いて決められた。本当に最高の気分です。そして、90分ピッチで戦い切れたことも嬉しい」と、最後まで攻守にわたり存在感を放ったことに自らも充実感をにじませた。

 指揮官も手放しで称える。「怪我人など色々なチーム事情もあり、ウェリントンには90分出てもらった。酷な起用法だったと思うが、広島相手に高さで脅威となり、ターゲットとしてチームのよりどころになった。現状、ウェリントンを生かすかたちは我々の強みであり、チームの今のかたちでもある」と話した。

 「アビスパ福岡にはとても愛着もあり、選手、サポーターのことをリスペクトしている。自分にとって特別なチーム。だからこそ、貢献できて嬉しい」笑みを見せながら語ったウェリントン。2015年に福岡に入団し、18年にはチームを離れるが、23年には復帰。福岡の歴史には欠かせないベテラン選手の一人である。

小畑裕馬、守護神としての存在感

 そのウェリントンがゴール裏で放った「バモー!」という叫びの直後、マイクは23歳のGK小畑裕馬へ手渡された。

 「点を取った自分が目立ちがちだけど、広島相手に無失点に抑えるのは本当に難しい。だからこそ、最後のマイクは“チームを勝たせた守護神”に託したかった」

 ウェリントンの言葉に偽りはなかった。この日、小畑は前半22分、42分の難しいシュートをいずれもファインセーブ。予測困難な変化球にも体を投げ出し、勝利の立役者となった。

 金監督も「足元の技術が高く、自分たちで時間をつくれる選手。相手のプレッシャーに対して“ジャブを打つような”関与ができた」と評価。「単に攻撃の停滞を前線だけの責任にしない。全体の関わりが大事なんだ」と、彼の役割を明確に位置づけた。

 この試合ではFW名古新太郎も復調を印象づけた。中盤のフリーマンとしてボールに絡み、アシストというかたちで結果を残す。

 「名古は気持ちも入っていた。本来の姿を見せてくれた」と、指揮官は信頼をにじませる。

若手の台頭と未来への布石

 そして終盤には、アカデミー出身の18歳・FW前田一翔が途中出場。FW前田陽輝とともにベンチ入りし、未来へ向かうチームの姿もこの試合には刻まれた。

 試合終盤は押し込まれる時間が続いた。広島はMF川辺駿を中盤1枚にして前がかりに猛攻を仕掛ける。それでも福岡はコンパクトな守備ブロックを敷き、最後まで集中を切らさず、虎の子の1点を守り切った。

 「今日は平日にも関わらず多くのサポーターがきてくれた。笑って帰ってもらえることが、何よりほっとする。ここ最近それができなかったことに責任も感じている」と金監督。

 勝利の後、ピッチに響いた博多手一本。その音が、長かったトンネルに一筋の光を差した。第2戦は8日にエディオンピースウイング広島で行われる。

 「今日は勝利したが、我々は前半が終わっただけだという認識でいる。アウェーで広島に勝つというのは難しい戦いであることは間違いない。気を引き締めて次に挑みたい」と指揮官は、視線を次戦に向けた。

 アビスパ福岡は2シーズンぶりのルヴァン・カップ王者奪還のために大きな1勝をもって、広島に乗り込む。

【森田みき】

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