2024年4月、建設業界にも時間外労働の上限規制が本格適用された。5年間の猶予期間を経て制度が定着するなか、建設現場では「週休二日制」の導入や、専門工事業者の適正な評価をめぐる課題が浮き彫りになっている。
「工期確保できない」週休2日制導入の壁
(一社)建設産業専門団体連合会(以下、建専連/岩田正吾会長)が実施した「働き方改革における週休二日制、専門工事業の適正な評価に関する調査」(2024年度)によると、処遇改善が進まないことが、依然として職人不足の大きな要因とされている。現場では依然として“工期最優先”の慣習が根強く、労働環境の改善が遅れている状況だ。
建専連会員34団体に調査協力を依頼し、834社からの回答を受けた今回の調査によれば、週休二日制が進まない主な理由として、最も多かったのが「適切な工期が確保できない」(62.5%)だった。次いで「元請企業が休ませてくれないため」(41.3%)、「日給制労働者の収入減少」(39.0%)などが挙げられている。自由意見でも、「請負単価の低さでは給与水準を維持したまま週休二日制は困難」「休みが増えると手取りが減るため職人自ら望まないケースもある」といった実情が寄せられている。
また、元請企業との調整も障壁の1つだ。元請が週休二日制を想定した工期を設定せず、工事後半の専門工事業者にしわ寄せが発生する現場も多い。すべての元請が一斉に週休二日制へ移行しない限り、制度の実現は困難だという意見もある。
制度設計と現実との大きなギャップ
2024年11月~12月時点で、4週8休以上を「就業規則などで規定している」と回答した企業は27.5%と、年々増加傾向にある。一方で、実際に4週8休を達成した企業は10.3%にとどまり、前年(10.2%)とほぼ変わらない水準となった。制度設計と実態との間に、大きな乖離がある実情が浮き彫りとなっている。
とくに工事の種類によって、状況に差がある。公共工事が主体の企業では、4週8休以上を取得できた割合が24.1%と、前年から9.4ポイント改善。一方で、民間工事が中心の企業ではわずか6.7%で、前年よりも2.2ポイント悪化した。また、「4週8休をほとんどの現場で確保できていない」と回答した割合は、全体で24.9%。内訳を見ると、公共工事主体の企業では8.4%になるのに対し、民間工事主体の企業では30.6%となっており、現場の実態の違いが顕著だ。
このような結果を踏まえ、調査主体の「建設技能労働者の働き方改革検討委員会」で委員長を務める芝浦工業大学・蟹澤宏剛教授は、「下請企業単独での努力には限界がある。元請も含めた業界全体の意識改革と、週休二日を前提とした工期設定、設計変更時の工期延長などを徹底すべき」と警鐘を鳴らしている。
約1割が規定超過 一方で改善の兆しも
働き方改革のもう1つの柱である時間外労働の上限規制についても、課題が残っている。年360時間という原則規定を技能者の平均で超過した企業は8.3%に上り、前年よりは改善されたものの、依然として約1割の企業が上限を越えている現実がある。これは、休日取得が思うように進まない現場の実態とも密接に関係しており、業界全体での長時間労働体質の是正が引き続き求められる。
一方で、働き方改革がもたらす前向きな変化もある。たとえば、スケジュール管理が徹底されたことで、無駄な残業や休日出勤が減少。それにより、「若手の採用件数が増加した」「休むことへの意識改革が進んだ」といったポジティブな声も報告されている。とくに新規技能者にとって、労働条件の改善は業界に入る決め手となっているようだ。
賃金の適正化に期待も評価制度の整備が課題
専門工事業者に対する適正な評価も課題だ。現在は労務費などの「見える化」が進んでおらず、付加価値のある技術が“サービス扱い”される構造にある。こうしたなか、25年度以降は改正建設業法により「標準労務費」の遵守が勧告される見通しだ。これにより、下請を含む業者に対する労務費のダンピングが禁止され、賃金の適正化が期待されている。
さらに、建設キャリアアップシステム(以下、CCUS)や登録基幹技能者制度といった評価制度の整備も課題だ。CCUSは登録率こそ高まりつつあるが、能力評価に活用している企業は依然として少ない。
制度の認知度不足と評価の低さも、浮き彫りになっている。今回の調査では、「基幹技能者の資格を理解していない元請が多い」「取得しても単価面での優遇がない」といった声が多数を占めた。資格更新の費用負担や更新基準の不合理性を指摘する意見もあり、制度の見直しが求められている。
技能者に対する適正評価が賃金に結びつかなければ、若手の定着は望めない、というのが業界の本音である。
週休二日制以外にも山積する業界課題
働き方改革と並行して、建設業界が直面する課題は多岐にわたる。
<人手不足>
若手の入職が進まず、外国人労働者の活用にも限界がある。
<時間外労働の上限規制>
法規制により人員確保や工期延長、賃金設計に新たな難題が生まれている。
<経済的負担>
規制対応によるコスト増が、とくに日給月給制の作業員の処遇に重くのしかかっている。
<元請との関係性>
請負単価や現場管理の煩雑さ、安全衛生書類の書式不統一など、元請間の差が専門業者を悩ませている。
<現場までの移動時間>
現場への移動時間を労働時間に含めるか否かが明確でなく、現場運営や労務管理に影響している。
<女性技能者の活躍推進>
設備環境は整ってきたが、職場の文化や意識改革が追いついていないとの声もある。
法令改正や制度整備が進むなか、元請・下請・技能者の三者がそれぞれの立場で役割をはたしていくことが、建設産業の将来を支える原動力となるだろう。今後は、国・自治体・業界団体が一体となって制度の普及と定着を進め、若手技能者が誇りをもって働ける職場環境を構築していくことが求められている。
【内山義之】

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