NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
今回は7月9日の記事を紹介する。
BISの国際経済研究で御指導いただいた方で、忘れ得ぬ方に米コロンビア大学教授・故ロバート・マンデル教授がおられる。
筆者は2002~03年の東京経済大学在外研究員として、米コロンビア大学ビジネススクールへの1年間の留学を認められた。当時、コロンビア大学ではノーベル経済学賞受賞学者として有名なマンデル教授とジョセフ・E・スティグリッツ教授が講義をしておられ、筆者も両教授の講義を傍聴した。マンデル教授はMITご出身だけあり、数量経済学がご専門で、講義は数式が多く、なかなか理解が難しかった。スティグリッツ教授の世界経済、貿易論の講義は筆者も元貿易商社勤務で理解しやすく、お互いに意見交換させていただいた。
あるとき、教員専用のカフェテリアでランチをとっていたら、マンデル教授のテーブルに招かれた。近く講演を行うため日本に出張するとのことであった。それならば筆者の所属の東京経済大学学長、日本貿易学会会長にぜひ面談してほしいと依頼した。
マンデル教授はイタリア系でイタリアワインがお好きで、マンハッタンの教授が懇意にしているイタリアレストランに何度か招待された。その御礼に家族でマンデル教授ご家族を日本レストランにご招待。お互いに家族同士でもお付き合いさせていただいたことを感謝している。
貿易学会会長との面談は、筆者の大学の先輩が経営する高田馬場の伝統あるイタリアレストラン「文流」を紹介した。するとマンデル教授は、「文流」の西村会長とは懇意にしており、ノーベル経済学賞受賞を記念してイタリア・シエナのお城を購入したときの不動産業者が同じだったとのことで、ご縁の不思議さに驚いた。
マンデル教授にはシエナのお城に家族ともども招待されていたが、実現しないまま、マンデル教授が急逝されたことは誠に残念であった。
マンデル教授とは生前オリンパスの社外特別委員を2期4年ご一緒した。先般忘れ得ぬ出会いで、ご紹介の豊島格元JETRO理事長も特別委員をされており、お2人に経済やインテリジェンス研究に関してご指導をいただいた。
マンデル教授には東京経済大学100周年記念講演会にも特別にご参加いただき、東京商工会議所国際会議場で500人の聴衆を前に、同教授創設のユーロ通貨システム、アジアにおける経済開発などについて、有益な講演をいただいたことを懐かしく思い出す。
オリンパスの深圳工場見学の帰路、香港のホテルのバーで教授のお好きなイタリアワインをいただきながら、香港の夜景を愛でつつ同教授が、下記のように漏らされたことを今でもありありと覚えている。「将来、世界最大の経済大国になるとみられる中国との関係で、日本は米国に気兼ねし、必ずしも関係は良くないが、一衣帯水の中国と経済・文化面で関係を強化することが望ましい」
このアドバイスは、10年後のいまでもありありと筆者の耳底に残っている。
<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。