アビスパ福岡、アディショナルタイムに怒涛の2得点。好調京都に執念のドロー
あきらめない気持ちが生んだ試合終了間際の2得点
7月21日(月・祝)、ベスト電器スタジアムで行われた明治安田J1リーグ第24節、アビスパ福岡対京都サンガF.C.の一戦は、9,943人の観衆が見守るなか、後半アディショナルタイム(AT)にアビスパが2点差を追いつき、2-2の引き分けに持ち込む劇的な展開となった。
前半の立ち上がりは福岡ペース。3分に碓井聖生がハーフウェイライン手前からロングシュートを狙うも、GK太田岳志がキャッチ。13分にもコーナーキックから上島がヘディングシュートを放つも再び太田がセーブ。27分には紺野和也と岩崎悠人のホットラインから上がった右サイドからのクロスを藤本一輝が収め、シュートを放つが相手に跳ね返される。しかし、そのこぼれ球をすかさず安藤智哉が拾いミドルシュートを打つが、ここも太田がストップ。福岡は再三チャンスをつくりながらも、決めきれず前半を0-0で折り返す。
後半立ち上がり早々の54分、京都はスローインをつなぎ、平戸太貴がシュートを打つと、福岡の選手2人に当たってコースが変わり、GK小畑裕馬の手をかすめゴールに吸い込まれる。“不運”なゴールからわずか3分後、京都がペナルティーエリア内右サイドからクロスを上げた瞬間、ブロックに入った奈良竜樹の腕にあたり、PKを献上する。それを京都の原大智が落ち着いて決め、0-2となる。
2点差を背負った福岡は、攻撃的布陣にシステムを変え、55分に湯澤聖人とウェリントン、67分に重見柾斗と橋本悠、84分にナッシム・ベン・カリファを投入して点を獲りに行く。
交代でギアを上げた福岡は79分、左サイドで岩崎がトップスピードで競り勝ち、折り返したボールに走りこんだ紺野が決めたかに思えたが、VAR判定の結果、岩崎のハンドでノーゴールとなる。その後も京都ゴールに迫るも、得点は奪えず2点差のままATに突入する。
厳しい状況の福岡だが、奇しくもVAR判定などで要した時間が8分追加され、スタジアムは「まだ時間はある!」という希望をもつことができた。そして90+3分、上島拓巳が入れたクロスボールをウェリントン、重見とつなぎ、再びウェリントンのもとへ。右足で打ったシュートは、ゴールを守る京都の選手の隙間をくぐり、左隅に決まる。さらに勢いそのままに、あきらめない福岡は90+6分に橋本の後方からのクロスボールを複数選手で競り合う中、最後は重見が膝で押し込み同点とした。
MF重見柾斗の積極的プレーが流れを変える

試合終了間際の90+6分、混戦から最後に押し込んだのは入団2年目の重見だった。今季は途中出場が多く、本来の力を出し切っているとは言い難いが、リーグ戦後半に入り徐々に重見らしい積極的なプレーが見られるようになった。京都戦でも、2点差を背負った後半の67分からピッチに入り、相手ゴールに向かって力強くボールを運ぶシーンが多く見られ、重見を起点に得点が生まれる気配を感じることができた。
ATの2得点に絡んだ重見に話を聞くと「1点目は競り合ったときにウェリ(ウェリントン)が見えたんで、ヘッドで落としました。2点目は実はそんなに記憶がないんですが…、ウェリとナッシムは入ってきたので、その折り返しを狙っていました。右膝で押し込みました」と、両得点狙い通りだったようだ。
また、起用について「選手である以上、スタメンで出たいという気持ちは変わらないですが、途中出場でも役割は与えられているので、チームのために役割はまっとうしたい。とくに今回はより攻撃的にという部分は意識をしました」と話した。さらに、リーグ戦でのゴールは昨年6月以来ということについては「自分自身では少ないと思う。もっとゴールだったりアシストだったり、ゴールに結びつくようなプレーを増やしていきたいです」と、劇的ゴールの後も冷静に語った。
博多の森の大声援は魔物か?神か?
『きっと勝ち続ける ここは博多の森 みんな跳び続ける アビスパがある限り』
サポーターが勝ちを信じて歌うチャント(応援歌)に、博多の森(現・ベスト電器スタジアム)が“特別”であるということを歌った曲がある。さかのぼれば98年J1参入決定戦の試合など、博多の森で数々のミラクルを起こしてきた歴史を象徴するチャントだ。
京都戦でも残り10分、博多の森の2点差のままタイムアップの時間が近づいていくなか、徐々に大きくなる拍手と声援。2点差というサッカーでは小さくはない点差にも、ファン・サポーターはあきらめず、選手たちを後押しする。ゴール裏の熱気は、バックスタンドとメインスタンドにも広がり、屋根の反響もあいまって、大歓声がスタジアムを包み込む、まさに異様な雰囲気だ。押せ押せの勢いのままATに突入し、試合終了間際に2得点という劇的な同点弾を生み出した。

この様子に京都の曺貴裁監督は何度も「圧力」という言葉を使った。「なりふり構わず攻めてくる福岡に対してラインが下がり、セカンドボールが拾えなくなってしまった。勝ちたいという気持ちが出た結果、おそらく今季初めてとなる2点差を追いつかれるという展開になってしまった。このスタジアムの後半最後の圧力というものは、これまでの監督人生でも何回か経験をしている。欲をいえばコイントスに勝ってコートを変えたかった。やはり最後の圧力は福岡にあったかなという印象。ここのスタジアムはあまり好きではない」と曺監督。
昨年まで福岡で指揮をとっていた川崎の長谷部茂利監督も、後半に福岡サポーターがいるゴール向かって攻め込む福岡の強さを、身を以て知る1人。対戦時にはコイントスに勝ち、キックオフのボールではなくコートを選んでいることからも、選手を後押しするスタジアムの雰囲気を警戒していることがわかる。
まさに博多の森の大声援は、相手チームには魔物、福岡にとっては神となる。
【川添道子】