支店移転を契機に、九州エリアも加速 地主リートとともに日本の「大地主」に
地主(株)
九州営業本部長 樋口尚也 氏
定期借地権を活用し、自ら建物を建てずに土地のみに投資して“地主”に徹するという独自のビジネスモデルを展開する地主(株)。北海道から沖縄まで全国の土地を対象とする同社だが、2022年12月に九州支店を設置し、今年6月にワンビル内に移転するなど、九州エリアでの攻勢を強めている。同社九州営業本部長の樋口尚也氏に聞いた。
(聞き手:永上隼人)
土地のみを取り扱う不動産金融商品メーカー
──御社のビジネスモデルについてお聞かせください。
樋口 当社は、「土地を買い。土地を貸す。貸している土地を売る。そして投資家の資金を運用する」──という流れで、建物を所有せず、土地のみに投資をする定期借地権を活用した独自の不動産投資手法「JINUSHIビジネス」を手がけています。このビジネスモデルは、借地権の付いた土地、いわゆる「底地(そこち)」を開発し、テナントからいただく借地料を長期安定の金融商品として投資家に提供するものです。そのため、当社は自らを不動産会社ではなく「不動産金融のメーカー」と位置づけています。
また、当社グループでは、日本で唯一の底地特化型の私募リートである「地主プライベートリート投資法人(地主リート)」を通じて、年金や生損保、事業会社等の機関投資家の資金を運用しています。この地主リートで、テナントに貸している土地を長期に持ち続けることができるため、テナントの皆さまに「安定地主」としての安心感を提供しています。
──御社のビジネスモデルの強みは。
樋口 まず、土地のみに投資し、建物をもたないことで、建物にかかる保守・修繕・改装などの追加投資が一切不要なことが挙げられます。建築費の上昇や修繕費、光熱費などの増加といった影響も受けません。そのため長期に安定した収益が見込めるほか、さらには土地なので資産価値が下がりにくいという特徴があります。また、土地を仕入れるときには、基本的にテナントと事前に契約を結んでいるため、仕入れた土地が貸せないといった“在庫リスク”もありません。
一方で、テナントさまにとっても土地を所有する必要がないため、出店にかかる初期投資を抑え、資産を軽くしてその分を事業に集中できる、アセットライト経営につながるメリットがあります。
──どのようなテナント業種の土地を取り扱い、そして求めていらっしゃるのでしょうか。
樋口 もともと当社は、日本商業開発(株)という社名で、当初はスーパーやホームセンター、ドラッグストア、家電量販店などの商業施設を中心としたテナント業種を主としていました。ですが、22年1月に現在の「地主(株)」へと社名変更したことを契機として、テナント業種の多様化を進め、現在は社会インフラを担うホスピスや老人ホーム、物流施設のほか、工場、ホテル、オフィスなど、多種多様なテナント業種と取引するようになりました。取引するテナント企業は社名変更以後で1.6倍に増加しています。
──どのようにして土地を仕入れるのでしょうか。
樋口 一般的な不動産会社と同じように、不動産仲介業者や信託銀行などから土地の情報を得て、テナントに出店をもちかけることもありますが、テナントさま自ら「ここに出店したいから土地を地主株式会社で買って貸してくれないか」と、当社に土地情報を持ち込まれるケースも多いです。
また最近では、「土地のセール&リースバック」にも力を入れています。こちらは企業がすでに所有している不動産の「土地」のみを当社に売却いただくと同時に、その企業と当社とで土地の賃貸借契約(定期借地権設定契約)を結ぶものです。企業側にとっては、借地料をご負担いただくことにはなりますが、建物を引き続き所有・活用できることで、売却前と変わらない環境での事業運営が可能です。さらに、土地売却によってまとまった資金を確保し、事業の運転資金や設備投資に充てるほか、売却益の計上や借入金の返済などによって財務面の改善を図ることも可能となります。これまでは土地・建物をセットにしたセール&リースバックが一般的でしたが、これからは土地のセール&リースバックが主流になっていくでしょう。
ワンビル内に移転 目標の年間200億円へ
──22年12月に九州支店を設置されましたが、九州エリアのポテンシャルをどう見られていますか。
樋口 大きな市場潜在力をもっているエリアと認識しています。なかでも福岡は、九州における「人材のダム効果」を有し、水や電力供給の安定性や、アジアへの近さなども含めて、非常に大きなポテンシャルをもった都市です。GDP比率から見ても当社の仕入の10%ほどを占める可能性を感じていましたが、以前は九州の案件は出張ベースの対応であったため、全体の4~5%程度しかありませんでした。この九州・福岡のポテンシャルを最大限に生かすために、支店開設が決定された次第です。
福岡の不動産市場については、地元企業や個人が土地を大切に保有しているため流動性が低く、いわゆる「売り物が少ない」傾向にあります。一方で、福岡は「人を受け入れてくれる」すばらしいまちであり、我々として仕事のしやすさも感じています。おかげさまで九州支店開設後は、九州支店ですでに28件の物件(九州エリア外含む)を購入し、総投資額は282億円に上るなど、目覚ましい支店開設効果が出ています。
──6月26日に、ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)内に九州支店を移転されました。
樋口 今回、西日本鉄道(株)さまとのご縁もあってワンビル内に入居させていただきましたが、高い天井高やダブルスキンの窓など、大変すばらしい仕様のオフィスとなりました。当社ではお客さまをお迎えする場所として、また従業員の働く環境を整える意味でも「地域の一番良いビルで仕事をしたい」という想いがあり、他拠点も各地のランドマーク的なビルに入居させていただくケースが多いですが、この新オフィスは、まさに天神ビッグバンの目玉であり、将来的にも福岡における象徴的な存在になると思います。

塗った木綿を挟み込んだガラスで囲まれた、
独特の重厚感ある空間を形成
──九州支店での今後の目標などは。
樋口 九州支店では支店開設以後、順調に案件数を伸ばしてきました。今期は九州支店だけで200億円規模を仕入れられるよう、積極的に案件を獲得していく方針です。新オフィスの立地や知名度も生かし、優秀な人材を採用して人員も増やしていきます。九州支店が勢いに乗ることで、会社全体の成長を牽引していくとともに、当社のJINUSHIビジネスによって、今後も不動産市場の新たな価値を創造していきたいと思います。
【文・構成:坂田憲治】
<COMPANY INFORMATION>
代 表 :西羅曜旦
所在地 :東京都千代田区丸の内1-5-1
新丸の内ビルディング 13F
九州支店:福岡市中央区天神1-11-1
ONE FUKUOKA BLDG. 12F
設 立 :2000年4月
資本金 :64億6,100万円
URL :https://www.jinushi-jp.com/
<プロフィール>
樋口尚也(ひぐち・なおや)
PROFILE 1971年4月、福岡県柳川市出身。創価大学法学部を卒業後、清水建設(株)に入社。2012年12月から衆議院議員に初当選し、2期務める。17年9月に衆議院議員を引退。18年1月に日本商業開発(株)(現・地主(株))に入社。大阪営業本部副本部長、東京営業本部副本部長を経て、22年12月から九州営業本部本部長を務める。

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