【新社長インタビュー】地域と社員の幸せを追求する新たな挑戦 いつも「誰かのために役に立つ」組織でありたい
(株)へいせい
代表取締役 西原幹登 氏
「誰かの役に立とうとすることが、やがて自分の誇りや喜びになる」──そんな組織づくりを掲げ、新たな経営の舵を取ったのは、7月に(株)へいせいの代表取締役に就任した西原幹登氏だ。心理的安全性の確保を最重要課題に据え、社員の主体性を育む企業文化の構築に挑む。糸島・福岡県西部地区に根差し、建設業を基盤に多角的事業を展開しながら、地域課題の解決とまちづくりに取り組む姿勢は、企業の枠を超えた公共的役割を帯びてきた。「傍楽(はたらく)」というミッションステートメントのもとでどのように企業を舵取りしていくのか、西原氏に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)
共に働く幸せを感じる
新しい組織づくりへ

代表取締役 西原幹登 氏
──7月に代表取締役に就任されたばかりですが、今一番大切にしていることは何ですか。
西原幹登氏(以下、西原) 今は、会社の雰囲気づくりを大切にしています。これから当社が目指すべきは、「社員が幸せを感じる会社」にしていくことです。企業はお客さまがあってこそ成り立ち、顧客満足を重視するのは当然です。しかし、そのためには、社員の幸せのために企業として何ができるのかを考えることが重要だと思います。
具体的には、まず社員の心理的安全性を確立することを重視しています。時代が変われば働き方や働くことに対する考え方も変わります。その時代にはそれが必要だったけど、今はそうはいかないということもあります。世の中全体が大きな転換点にあり、それに応じて新しい組織の在り方を模索していかねばなりません。
たとえば、組織で仕事をしていると、どうしても仕事が一部の人に偏ってしまい、その苦しさを言葉に出していえないこともあります。そんなときに我慢せずに声を挙げることができる、また、声をかけることができる組織にしたい。誰かに評価されることを気にするのではなく、「ありがとう」と喜んでもらうために行動できる組織を目指したいと思っています。
──就任にあたって企業活動の使命(ミッションステートメント)を公表されました。
西原 「(株)へいせいは『傍楽(はたらく)』組織でありたい」という言葉に集約させました。「傍」とは「誰か」のことで、「楽」とは「その人を楽にする」つまり「役に立つ」ということです。当社は「働く」を「傍楽=誰かの役に立つ」ということと定義します。
お互いが誰かの役に立つことで感謝し合える、そのような好循環をつくり出していく組織でありたいと考えています。そのためには1人ひとりが成長せねばならず、1人ひとりの社員が常に挑戦することができる組織にならねばなりません。そうしてこそ「傍楽」を実現できる企業になるでしょう。これを基本方針として、今後、事業展開も新しいことへの挑戦も進めていきたいと考えています。失敗を恐れず、「失敗してもいいんだよ、失敗を励みにしよう」という意識で誰もが挑戦できる組織でありたいと思います。
──しかし、企業に長年にわたって染みついた文化を変えるのは難しいのではないですか。たとえば、トップダウンに慣れた社員のなかには、主体的に動くのが苦手な人もいたりします。
西原 たしかにそれはあるでしょう。先代は今、30年以上にわたる代表取締役から退いて相談役となりました。先代の時代では当然とされたトップダウン型の経営を、いきなり変えるのは難しいかもしれません。社員のなかには明確に指示されたほうがストレスなく仕事ができるという人もいるはずです。管理型から自立型へどう移行していくかが喫緊の課題です。
企業が成⾧していくためには、皆で情報を集め、知恵を出し合ってトライ&エラーを重ねていくことが重要です。社員の主体性を育み、「人の役に立つことに挑戦しよう」という雰囲気が会社のなかで当たり前になるようにしたいですね。
地域で「傍楽」企業
建設を基盤に事業多角化
──建設業界の現状をどのように認識していますか?
西原 なかなか厳しい状況です。建設業界自体が縮小している一方で膨大な工事需要があるためアンバランスが発生しています。報道によると、建設会社が手元に抱えて未完了となっている工事が約15兆円もあります。金額としては建築のほうがやや多いようですが、物量でいえば土木のほうが多いでしょう。要するに公共工事が進んでいない。背景にあるのは圧倒的な人材不足です。仕事が多いのは良いことですが、とにかく人が足りない。加えて建材価格も上がっています。
──建設業以外にも、グループ会社を通じて介護施設や環境事業、給食事業なども多角的に展開していますね。
西原 へいせいは土木事業からスタートし、時代の変化に合わせて建築・住宅・リフォーム・不動産へと事業領域を広げてきました。
さらに、グループ会社にて環境事業(一般ゴミの収集運搬・下水道の維持管理)、スポーツジム、介護施設、給食事業、人材紹介などを展開し、これらを統括する(株)へいせいグループホールディングスを設立しました。
私たちは、地域の皆さまと一緒に元気なまちをつくることが大きな役割の1つと考えています。そのため、ハード面の整備だけでなく、人と人とのつながりを育む活動にも注力してきました。たとえば、我々が「お出かけ隊」と呼んでいる地域清掃活動や毎年恒例のラブアース・クリーンアップ、献血活動など、地域に根差した取り組みを積極的に行っています。
人々の会話や笑顔があふれ、住民の想いから新たな文化や取り組みが生まれる。そんな活気あるまちづくりを目指し、建設分野にとどまらず、地域のつながりや経済循環を育む活動を進めていきます。こうした取り組みを糸島・福岡県西部地区から発信したいと考えています。
ベトナムで人材育成
現地大学内にラボ開設
──ベトナムでの人材事業について聞かせてください。
西原 現在はベトナム中部の都市ダナンにて、人材交流事業を行っています。ベトナムには優秀な人材が多いため、当社の海外人材のエンジニアはベトナム人が中心です。ベトナムには日本文化を学べる環境があり、日本語教育も盛んですし、大学では専門スキルをしっかり学んでおり、建設について知識をもった優秀な若者も多くいます。彼らの優秀さを例に挙げると、一級建築施工管理技士の場合、2年目で2級合格、3年目には1級一次試験に合格、4年目に二次試験に挑戦する人がいます。言葉の壁もあって本来、海外人材が建設業の資格を取得することはかなり難しいことですが、ハングリー精神といいますか、「気持ち」が違いますね。
また、2024年9月にダナンのズイタン大学構内に『へいせい建設スキルアップラボ』を開設しました。建設業界の未来を担う国際人材の育成に注力しています。現地にはハイスペックPCを寄贈し、学生たちが日本の建設現場で求められるレベルのCGパースやデジタル表現を学べる環境を整えました。スキルアップラボの成績優秀者は、来日して当社で1年間インターンを行います。1期生はインターンを昨年終了し、ズイタン大学に復学後、卒業を経て26年度には正社員として当社に入社予定です。
現在は2期インターン生2名が現場で活躍しています。彼ら(1・2期のインターン生)は、CGパースや施工図の作成に取り組んでおり、ラボの学生たちはまだCGパースの習得を進めている段階です。今後はBIM/CIMなどの最新デジタル技術を学べる環境を拡充して、来日前から即戦力スキルを身につけられる体制を整えていきます。さらに彼らの施工図作成スキルも高めて、将来的には建設業界の人手不足解消に貢献できる支援策として展開する構想もあります。先進技術と国際連携を組み合わせ、地域や建設業界の発展に寄与していきたいと考えています。

使用して作成した施工図と3Dモデル
──何名ぐらいの海外人材が働いていますか。
西原 現在、海外人材はへいせいで25名(うち2名はインターン生)在籍しており、グループ全体では81名となります。これはグループ従業員比率の約15%を占めており、多国籍の仲間が互いに刺激し合い、組織に新しい価値をもたらしています。
エンジニアとしては土木で6人、建築で2人です。他方、技能実習生はやはり円安の影響で来日者数が減り、韓国、オーストラリア、アメリカに行く人が多くなりました。しかし、それでも私たちは以前からベトナムで事業を行っているため、今でもベトナムから技能実習生がきてくれています。
──早くから海外人材の採用に取り組んでいましたね。
西原 当社の海外人材受け入れは、33年前に先代が中国から約10名を採用したことから始まりました。現在では、当時の海外人材が役員として活躍するまでに成長しています。国籍を問わず、努力すれば上を目指せるという風土が根付いています。
近年では、介護施設において、日本語も介護も未経験だった留学生が5年目で施設長に就任し、マスメディアにも取り上げられるなど、福祉業界で注目される事例も生まれています。海外人材にとっても働きがいのある企業であり続けることは、当社の重要な目標の1つです。
DX、新技術の積極導入
働きがいのある会社へ
──働き方改革として、政府はライフワークバランスなどを推奨しますが、これについてどう思いますか。
西原 ライフワークバランスをとることには大いに賛成です。しかしながら今、国は政策として労働時間ばかりを「働き方」として問題視していますが、それには疑問があります。日本の実質GDPが停滞し、相対的に国力が低下しているなか、単に労働時間を削る「働き方改革」だけでは本質的な解決にはつながらないと考えています。
私たちは、先進的な技術を積極的に導入し、限られた人員でも生産性と効率性を高めることで、人材不足の解消や地域活性化といった社会課題の解決にも貢献したいと考えています。こうした取り組みによって、「やりがい」を感じられる職場環境を整えていきたいですね。そのために必要なことは最初にもお話した主体性や自立性を重視した職場環境をつくることだと考えています。
──DXや先端技術の導入・研究についてはどうですか。
西原 BIM/CIM導入や海外エンジニアの積極採用、タブレットやDXアプリを使った建設現場業務の効率化、AIを活用した時間短縮による生産性向上に努めています。仕事の効率化ばかりでなく、新技術の導入として今私たちが考えているのは3Dプリンタです。来年5月ごろには機械を導入し、運用を開始する予定です。コンクリート構造物の型枠づくりなど、これまで50~60年変わらなかった作業を、今後は3Dプリンタを使い、30分ほどで造形し現場で取り付けるという方法も取り入れます。
これにより、技術者不足の解消、工期短縮、安全性の確保も期待できます。スピードばかりでなく強度面でも優れているため、地域防災の観点からも、3Dプリンタには将来的に大きな可能性があると考えています。現状、当社が導入する3Dプリンタは住宅を直接つくるものではありませんが、将来的にはこの技術を磨き、災害復興のための住宅や部材製作などに活用できるようにしたいと考えています。建築基準法など課題はありますが、先駆的に基礎技術から取り組むことで、将来性のある分野を切り拓いていく方針です。
地域での取り組みの1つに、20年にスタートした「オリーブガーデン糸島」があります。これは、九州大学の学生と共同で進めている55区画の分譲住宅プロジェクトで、フェンスを設けず、防災・防犯に配慮しながら「共育」のあるまちづくりを一緒に進めています。今後は、さらに九州大学の学生にインターンとして参加してもらい、糸島の商店街の活性化や地域課題の解決に向けたアイデアづくりを共に進めていきたいと考えています。
冒頭でもお話したように、当社がこれから力を入れたいのは「地域づくり」「まちづくり」です。糸島・福岡県西部地区はポテンシャルが高く、これからさらに発展していく地域だと感じています。その発展に、当社も少しでも貢献していきたいと考えています。そして、地域の魅力向上につながるように、私たちは困りごとの解決や活性化に携わりながら、それによって社員も自分の仕事を誇りに思える、そんな企業になりたいと思っています。
【文・構成:寺村朋輝】
代 表:西原幹登
所在地:福岡県糸島市前原西5-1-31
設 立:1970年1月
資本金:1億円
売上高:(25/6)67億円
<プロフィール>
西原幹登(にしはら・かんとう)
1977年福岡県糸島市生まれ。(株)へいせい入社後、土木・建築で現場施工管理、営業を経験し、専務取締役時代には建設DX推進や海外事業を立ち上げる。2025年、代表取締役に就任。「傍楽(はたらく)=傍を楽にする」をミッションステートメントに掲げ、まちづくり事業や先進的な技術導入を進め、地域活性化を牽引する。