福岡歴史観光市民大学で学ぶ、都市福岡の多面的理解

5カ月の講座で見えた
「福岡」という都市の構造

 NPO法人福岡城・鴻臚館市民の会が主催する「福岡歴史観光市民大学」。全18回・5カ月の内容を振り返ると、福岡の成り立ちや文化の蓄積、そしてこれからの方向性まで、都市の“構造”が一通り見えてくる講座だった。

三地域の関係がかたちづくった
都市の骨格

 序盤では、福岡・北九州・筑豊という3つの地域がどのように役割を分担し、互いを補いながら発展してきたのかが語られた。政治・文化の中心だった福岡、工業と物流を担った北九州、エネルギー供給地として日本の成長を支えた筑豊。それぞれが対立ではなく、機能の違いによって地域全体の力を底上げしてきたという視点だ。

 安川敬一郎のように地域をまたいで活動した人物や、戦時中に九州地方総監府が福岡に置かれた意味など、現在の都市構造へつながるエピソードも多く紹介され、福岡が“九州の中心”として位置付けられてきた理由が整理されていった。

国際市場とつながる
工芸と文化の奥行き

 文化史では、有田焼が17世紀の国際市場で重要な存在になった背景や、柿右衛門様式がヨーロッパで広く評価され、マイセン窯にまで影響を与えた話が取り上げられた。九州が早い段階から国際的なものづくりの拠点になっていたことが実感できる内容だった。

 個人的に印象に残っているのは、中村人形の中村弘峰氏による講義である。「第70回日本伝統工芸展 大阪展」で、中村氏の「陶彫彩色『霧笛』」を見た経験もあり、内容への理解が一層深まるものだった。制作背景を作家本人から聞くことで、伝統的な人形表現に現代的な要素を取り入れる中村氏ならではの作風がより明確に捉えられた。

 また、大濠公園能楽堂が福岡城内という稀有な立地にあり、能そのものが「物語を読む」のではなく、観る人の心の状態で意味が変わる芸術だという説明も、文化に対する見方を新しくしてくれた。

これからの福岡
──物流・観光・建築の視点

 終盤では、福岡が今後向き合うテーマが中心となった。鉄道の回では、旅客が少ない深夜帯の新幹線を物流に活用するという新しい提案が紹介され、トラック不足が深刻化するなかで鉄道が再び物流の要になる可能性が示された。

 観光分野では、インバウンド増による混雑をICTで緩和する「スマート観光」や、地域に利益を還元する仕組みの検討など、量より質を重視する方向性が共有された。

 建築の講義では、大規模木造を都市レベルで活かす「ループ50」という構想が語られ、木材の寿命と都市の更新サイクルを合わせることで、福岡だけでなく周辺地域の再生にもつながり得るという視点が示された。

福岡をとらえ直す学び

 5カ月にわたる講座を通じて、福岡という都市の成り立ちや背景が多面的に見えてくる内容だった。これまで何気なく見ていた場所や風景にも歴史的な文脈があることが理解でき、都市の見え方を更新してくれる機会となった。

 “専門知識を得る”というより、「福岡はこんな背景を持つ街なんだ」と、誰かに伝えたくなるような、そんな手触りの学びが得られる講座だった。来年度以降も新たな知識や発見を求める人にとって、有益なきっかけになるだろう。

福岡歴史観光市民大学
主 催:NPO法人福岡城・鴻臚館市民の会 
後 援:福岡市・福岡市教育委員会・福岡商工会議所
TEL:092-716-8238
    (月・水・金 午前10時~午後3時)

【和田佳子】

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