安倍元首相の事件へとつながる統一教会との関係(中)~日本を取り戻すはどこへ?

 2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から3年が経った。25年10月28日に始まった山上徹也被告の裁判員裁判では、山上被告の母親や妹の証言を通じて、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との出会いや高額献金による家庭崩壊が明るみになった。日本を愛する保守政治家・安倍晋三元首相は日本を取り戻すことや家族の絆を強調していたが、日本は韓国に償いを行う必要があるとする統一教会と近しい間柄であった。改めて安倍元首相ら保守政治家と教団の関係を考える。

安倍元首相のメッセージに危機感

 安倍元首相銃撃事件の第11回目の公判が25日、奈良地裁で開かれ、被告人質問が行われた。山上徹也被告は安倍元首相を狙った理由に関し、同氏が旧統一教会の関連団体にビデオメッセージを寄せたことで、教団が「社会的に認められてしまうと思った」と説明し「絶望と危機感かと思います」と当時の心情を語った。

「朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」

 山上被告が言及した安倍元首相が寄せたビデオメッセージの内容にはこのような一節があった。安倍元首相のメッセージが寄せられた集会は2021年9月、旧統一教会の関連団体・UPF(天宙平和連合)などが主催した「神統―韓国のためのTHINK TANK 2022希望前進大会」である。

安倍氏のビデオメッセージ
安倍氏のビデオメッセージ

 前編で教団関連団体に祝電を送った秘書を安倍元首相が叱責したエピソードを紹介した。06年時点では、安倍元首相は教団と積極的にかかわりをもつことを警戒していた。山上被告も裁判での証言からもわかるように世間は教団の反社会性を認識していたとみていた。では、なぜ安倍元首相は十数年の間に教団に接近するようになったのか。

公安当局は教団を警戒

 安倍元首相は第1次・第2次政権の官邸人事で、公安人脈を重用したことで知られる。霊感商法や高額献金などでトラブルが相次ぐ教団を長年にわたって公安警察や公安調査庁は調査し、北朝鮮との関係などから警戒にあたっていた。

 公安調査庁が毎年発行する「内外情勢の回顧と展望」で、05年・06年の「特異集団」という項目において具体名は明記されなかったが、05年版では「我が国で在日韓国・朝鮮人の糾合を目的とする新組織を設立し、在日関係者を取り込んで勢力拡大を図る動きをみせた集団」と記載した。06年版でも「新組織への結集を目指し、在日関係者を韓国の大会に参加させるなどして、在日組織との間であつれきを生じさせる集団」として、「危機感や不安感をあおって勢力拡大を図り、不法事案を引き起こすことも懸念される」と指摘した。

 後に「特異集団」とは、旧統一教会の関連団体「平和統一連合」であることが判明している。政府は安倍元首相の事件後、立憲民主党の辻元清美参議院議員の質問主意書に対する答弁書で、旧統一教会だと認めたうえで「公安調査庁がいずれの団体を調査の対象とするかについては、その時々の公安情勢や団体の活動実態などに応じて判断する」と回答している。

 公安調査庁長官は定期的に政府官邸に国内外の治安情報を報告しており、安倍元首相は政府のなかで教団関連団体の情報に直に接する立場にいた。同時期は警察当局による捜査が強化された時期でもある。

 07年8月に安倍元首相が退陣し、同年10月から12月にかけて沖縄の統一教会信徒が経営する販売会社の代表者・店長・従業員計6名が特定商取引法違反で逮捕されたことを皮切りに、長野、埼玉、大阪、新潟、福岡で次々と教団関連企業が摘発された。

 霊感商法の被害は福岡でも多く報告され、1994年5月の福岡地裁判決において献金・勧誘の違法性が全国で初めて認められた。

 2009年には、福岡県警公安1課が、当時博多駅近くにあった旧統一教会系の販売事業会社の販売員を逮捕し、旧統一教会の福岡教会などを家宅捜索している。

 09年6月には、警視庁公安部が、統一教会の信者らが販売員として印鑑などを違法に売り付けていた印鑑販売会社『新世』を特定商取引法違反で強制捜査に踏み切り、同社社長や販売部長、販売員ら7人を逮捕。東京地裁の判決文において「統一教会の信者を増やすことを目的」として行われたものであり、「相当高度な組織性が認められる継続的犯行」だと認定した。

 教団が繰り返し強調する「コンプライアンス宣言」は、新世事件や福岡などでの警察の捜査を受けて出されたもので、勧誘目的の明示などが謳われた。現在、東京高裁で進められている解散命令の審理では、宣言の実効性が焦点となっている。

複数のルートから安倍元首相に接近

 2000年代初頭においては警察当局の動きもあり、多くの自民党議員も距離を置いており、安倍元首相も教団と接点をもたないようにしていたが、09年の民主党政権誕生で状況が変化していった。自民党にとって政権を失った衝撃は大きく、保守勢力の糾合を求める声が高まった。ジャーナリストの鈴木エイト氏によると10年8月、教団幹部が海外の教団関係者とともに議員会館で安倍元首相と面会している。

 教団本体と別のルートもあった。古参信徒である阿部正寿氏が創設した「世界戦略総合研究所」(世界総研)という保守的な政治団体で安倍元首相は講演を行っている。阿部氏は著書のなかで「何とか保守政権を樹立すべく努力してきた」と述べ、安倍元首相を首相にすべく行動してきたことを公言していた。

 なお阿部氏は国際勝共連合の事務総長も務めた人物だが、「世界総研は教団の関連団体ではなく、日韓関係などで相違点も多い」としている。

 なお、阿部氏は安倍元首相の事件後、TBSのインタビューに応じ、文鮮明氏を尊敬しているとしながらも「日本人が金を出して、それを使うのは韓国人。自分たちがつくったお金ではないから、湯水のように使うんです。本当に日本人をコケにしている。私は許せない」などと教団の姿勢を厳しく批判していた。

 2000年代初頭には距離があった安倍元首相と教団だが、10年代に入って思想的に徐々に近づいていった12年12月の衆院選で自民党が政権復帰を果たして以降、安倍氏をはじめ自民党と教団の関係はより強固なものになっていった。

【近藤将勝】

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