現場の声を代弁する存在に 建専連九州が新体制

建設産業専門団体九州地区連合会
会長 宮村博良 氏

建設産業専門団体九州地区連合会 会長 宮村博良 氏

 22年振りに新体制となった建設産業専門団体九州地区連合会(以下、建専連九州)。建設業界では、働き方改革や後継者不足、資材高騰など、依然としてさまざまな課題が山積している。7月14日に開催された「第22回(令和7年度)定期総会」で2代目の会長に就任した宮村博良氏に、課題解決に向けた今後の取り組みなどについて話を聞いた。

「次世代へバトンを」
宮村新体制が始動

 ──建専連九州の新会長に就任されました。

 宮村 7月14日の定期総会で、建専連九州の会長を拝命いたしました。上部組織である(一社)建設産業専門団体連合会(以下、建専連)は、岩田正吾会長の下、全国8つの地域団体で構成されており、建専連九州は2003年10月に発足しました。

 杉山秀彦前会長は、その発足当初から22年間にわたり、会の発展に尽力されてきました。その後を引き継ぐこととなり、大きな責任を感じています。「次期会長に」とお話をいただいた際は、正直なところ「はたして自分に務まるのか」という迷いもありましたが、その後も多くの方々から後押しをいただき、覚悟を決めてお引き受けすることにしました。

 今回の体制変更にともない、横山忠則副会長(アオケン(株)・会長)と徳永一郎副会長(栄進工業(株)・会長)が退任され、新たに木下顕氏((株)静岡塗装組・代表)、中村隆元氏(中村工業(株)・代表)が副会長に就任されました。

 新体制を組むにあたって、私が何より重視したのは「次の世代へしっかりとバトンをわたすこと」です。とくに副会長に就任された中村氏は、50歳という若さながら、業界の将来を背負って立つことができる人物です。中村工業は県内でもトップクラスのサブコンであり、業界の中心的な役割をはたす存在です。そうした企業が業界のリーダーシップを担うことで、業界全体の変革も進んでいくと考えています。

 ──建専連では、全国的にも鉄筋工事業界が中心的な役割を担っていると聞いています。

 宮村 はい、その通りです。建専連の岩田正吾会長も鉄筋工事業界の出身で、現在、全国8つの地域団体のうち、関東・中部・中国・四国・九州の5つの地域で、鉄筋工事出身者が会長を務めています。これは過去に例のないことで、業界としても非常にやりやすい流れができていると感じています。

 岩田会長とは、私も35年の付き合いがあります。若いころから一緒に活動してきた仲ですので、意思疎通も非常にスムーズです。こうしたタイミングで会長という立場をいただき、動けることは、本当にありがたいと思っています。

組織力の強化で発信力を高める

 ──これからの取り組みについて、お聞かせください。

 宮村 建専連九州は、私が会長を務める「九州鉄筋工事業団体連合会(以下、九鉄連)」をはじめ、「九州鳶土工工事業連合会」「(一社)全国建設室内工事業協会九州支部」「西日本圧接業協同組合」など、14職種の専門工事団体で構成されています。

 しかし、全国の建専連には専門工事団体34団体が加盟しており、建設業全体から見れば、九州の加盟数はまだまだ少ない状況です。まずは、1つでも多くの団体に加盟していただくことが重要だと考えています。

 とくに、左官や造園、タイル・レンガといった、職人の減少が著しい業種にも参加してもらい、業界全体を巻き込んだ団体へと成長させていきたいと思っています。

 2025年度の事業計画では、九州地方整備局(以下、九地整)との意見交換会や、業種別の意見交換会、そして学校への「出前授業(キャラバン)」などを引き続き実施する予定です。さらに、新たな取り組みとして、建設専門工事業の紹介DVDに新たに5業種を追加して全13業種に拡大することで、業界のPRをより一層強化していきたいと考えています。

 ──建専連九州に加盟するメリットは、どのような点にあるとお考えですか。

 宮村 加盟することで、地域の行政とのつながりが生まれ、より強い発言力をもつことができます。

 たとえば、私たち九鉄連も、建専連九州に加盟する以前は、単独で九地整に話をもちかけても、なかなか話が進みませんでした。しかし、建専連九州を通すことで、話がスムーズに通るようになった例も多くあります。

 やはり、団体として「一緒に動く」という意識が大切です。地域ごとに事情は異なりますが、九州全体が団結して全国に対して声を挙げていく。そのためには、多様な意見が集まる場をつくることが必要です。そして、そのなかで職人の待遇改善や労働環境の整備、賃金の底上げを図っていく。鉄筋だけでなく、すべての専門工事業の声を社会に届けていくことが、私たちの目指すところです。

 そのためにも、情報共有をはじめ、各団体との連携を強めることが重要だと考えています。現在も、事務局と連携しながら、1つひとつの団体に直接話をして、加盟の呼びかけを行っているところです。

 私は「職人の代弁者」でありたいと思っています。現場で働く職人の給料が上がらない限り、この業界に未来はありません。だからこそ、団体の活動を通じて職人の収入を引き上げ、業界の持続的な発展につなげていきたいと考えています。

 そのためにも、適正な単価の確保は非常に重要な課題です。たとえ経営者が「職人にもっと給料を払いたい」と思っても、適正な粗利がなければ、それは実現できません。

 私はこれまでにも会合などで「お金の話ばかりしている」といわれることがありましたが、現場にとっては、それが最も大事なことなんです。職人にきちんとした給料を払う。それがすべての出発点です。どんなに理想を語っても、お金がなければ人は集まりません。

 だから私は、これからも「単価を上げよう」「生活を守ろう」と、正面から言い続けていきます。それが、建設業界の未来を切り拓くと信じているからです。

 職人自身が声を挙げるのは、簡単ではありません。だからこそ、団体がその声を代弁し、行政に届けていくことが必要です。組織の発言力を強め、職人の声を社会に反映させていく。それが、団体の本来あるべき姿だと考えています。

職人の暮らしを守る
会長としての覚悟

 ──九鉄連の会長も2019年から務められています。

 宮村 九鉄連の会長に就任してからこれまで、労務単価の引き上げや社会保険加入の推進などに取り組んできました。もちろん、反対の声もありましたが、それでも私は、業界全体の利益を最優先に考えて行動してきました。

 会長に就任した当初、作業協力単価はおよそ1万3,000円でしたが、現在では2万2,000円まで引き上げ、標準労務単価も2万5,000円に届く水準にまで改善しました。単価が上がることで、職人の暮らしも確実に向上します。

 また、私は「職人も社会保険に入って当然だ」と常々言ってきました。しかし、現実には未加入の企業がまだまだ多い。そこで、社会保険への加入・未加入で作業協力単価に差をつける仕組みを導入しました。未加入企業には1万4,000円、加入企業には2万2,000円。この8,000円の差が、「加入しようか」という動機につながります。仕組みとして“入ったほうが得”と感じてもらえることが、最も効果的なのです。

 実際、こうした取り組みを通じて、鉄筋業界では社会保険への加入が徐々に進み、結果的に「業界が良くなった」と言ってくださる声も増えてきました。職人が少しずつ現場に戻ってきていることが、私にとって何よりの喜びです。

 さらに、九鉄連の下部組織である福岡県鉄筋事業協同組合では、ゼネコンに対して陳情書を提出しました。現在、私たちが出している見積もり単価はトンあたり10~11万円ほどで、これでもギリギリのラインです。それでも現場では、今なお5~7万円台で請け負わされるケースが多く、これでは若い人たちが職を続けられず、業界全体が衰退してしまいます。

 今年12月には担い手3法が施行され、単価水準が大きく見直されます。今のような安値では、もう仕事は受けられなくなります。ですから私は、ゼネコン各社に対して「これからはこうなります」と、一社一社に説明して回っているところです。

法令を遵守し適正な価格へ

 ──九地整が設置する「建設業法令遵守推進本部」による24年度の活動結果が発表されました。どのように受け止めておられますか。

 宮村 報告によると、最も多かったのは「建設業の許可や技術者制度など、制度や法令に関する問い合わせ」でした。続いて、「下請への請負代金の不払い」や「法令違反の疑い」「社会保険未加入に関する相談」などが多かったようです。

 こうした通報や相談が多い一方で、現場では職人不足が深刻化しており、今後は下請業者が「仕事を選ぶ」時代になっていくと思います。発注側がこれまでのように一方的な条件を押し付けるやり方は、もう通用しなくなるでしょう。

 国の資料では「社会保険加入率9割」とされていますが、アンケートの回答者が、自社の正社員だけを対象に記載しているケースが多く、実際には下請や一人親方など、半分も加入していないのではないかと思っています。

 たとえ従業員が3~4人であっても、500万円以上の工事を行う場合は建設業許可が必要ですし、4人を超えれば社会保険への加入も義務です。しかし、こうした基本的なルールを守っていない会社が、今なお多数存在しています。そして、それをゼネコンが“見て見ぬふり”しているのが現実です。

 まずは業界全体として、「最低限、法律は守ろう」という意識を広げることが大切です。それが信頼につながり、業界の健全化にも結びついていきます。

 加えて、いまだに日給月給で働く職人が非常に多いという問題もあります。なぜなら、現在の単価水準では、会社が職人に対して安定した月給を支払うのが難しいのです。

 だからこそ、まずは「適正な単価を得ること」。そこがすべての出発点です。単価を上げなければ、何も変わりません。職人の生活を守り、業界全体を持続可能にするには、そこから始めるべきだと思っています。

“3K”から“かっこいい”に
誇りをもてる建設業に

 ──建設業界はいまだに「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが根強いと言われています。

 宮村 たしかに今の若い人たちからすると、建設業はあまり人気のある業種ではないようです。「3K」といわれることも多いですが、私は「きつい」「汚い」、でも「かっこいい」でいいと思っています。重要なのは、仕事に見合うだけの給料がきちんと支払われることです。

 正直にいえば、建設業がきつくて汚れるのは当たり前です。たとえば、「この暑さでは外出を控えてください」とニュースでいわれるような日でも、職人たちは炎天下の現場で汗を流しています。そうした姿は大変だけど、同時に誇り高く、かっこいいと思うんです。

 私は、「汗をかいて働く人がかっこいい」といわれるような業界にしていきたい。そして、「お父さんがやっている仕事、すごいね」と子どもに言ってもらえるような、さらには若い方々から「給料が高くて、誇りをもてる仕事だからやりたい」と、夢を見せられる職業にしたいと考えています。

 そういえる環境を業界全体でつくっていくこと。それが私たち団体の大きな役割です。給料が高ければ、それだけで若者がこの仕事を選ぶ理由になりますし、職人の社会的な地位も自然と上がっていくと思います。

【内山義之】


<プロフィール>
宮村博良
(みやむら・ひろよし)
1960年6月熊本県生まれ。19歳で鉄筋工業界に入職し、84年6月、鉄筋工事の請負施工を目的に創業。87年2月、(有)宮村鉄筋工業(現・(株)宮村鉄筋工業)を設立。19年12月に九州鉄筋工事業団体連合会会長に、23年6月には全国鉄筋工事業協会の副会長に就任。25年7月に建設産業専門団体九州地区連合会会長に就任。

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