港湾至近モデルの構造的限界
博多港周辺のアイランドシティ・箱崎エリアは長年、九州物流の中核を担ってきた。しかし従来モデルには構造的な非効率が潜んでいる。
港湾でのショートドレージ(港内短距離輸送)や荷役作業は高コスト構造の温床だ。ゲート混雑やヤード滞留も待機時間を生み、運転時間規制下では一層のボトルネックとなる。鳥栖を拠点とする(株)宮﨑商事の事例では、港湾での一連の作業に要するコストを鳥栖直送で大幅圧縮できるという。港湾労働の高単価、都市部の交通渋滞、さらに2024年問題による長時間労働規制の強化が、港湾至近立地の相対的優位性を低下させている。

鳥栖地区の戦略的台頭
鳥栖地区の物流拠点化は2010年代前半から本格化した。九州新幹線全線開業(11年)や高速道路網整備を背景に、九州中央部の交通結節点としての価値が再評価されたのだ。ジャンクション近接により幹線・二次の乗り継ぎ損失が小さく、ドライバーの稼働を最大化できる。
決定的な転機は大手企業の相次ぐ進出だった。アマゾン、イオン、ローソン、東洋新薬、トヨタなどが鳥栖・基山エリアを選択し、「鳥栖モデル」の有効性を市場で実証した。
鳥栖の真の優位性は「回転効率」にある。博多港から約1時間の立地ながら、九州・長崎・大分の三高速道路結節点という地の利により、九州各地への配送効率で博多発を上回るケースが多い。博多港から鹿児島への直送では1日1往復が限界でも、鳥栖ハブ経由なら同一車両で複数配送サイクルを実現できる。運賃水準は博多発とほぼ同等でも、この回転効率の差が総合物流コストを削減する。
新たな競争軸の確立
現在、鳥栖地区の倉庫賃料は博多港周辺と同水準(4,000円/坪前後)まで上昇している。それでも企業が鳥栖を選ぶのは、賃料以外の総合優位性があるためだ。幹線・二次・庫内作業を一体で設計でき、待機・付帯作業の削減効果が大きい。
革新的な地場物流企業は「根元から入る」戦略で差別化を図る。港湾通関から店舗配送まで従来の分業体制を統合最適化し、大型フォークリフトなど戦略的設備投資により、港湾専用とされた重量物処理も内陸で実現する。
課題は土地供給の限界だ。鳥栖市内の適地不足から小郡・久留米方面への展開も進むが、交通渋滞等の制約で鳥栖ほどの効率性は期待できない。
物流業界の競争軸は「港に近い」から「回転効率が高い」へと移行している。鳥栖地区の台頭は、立地の物理的優位性よりもオペレーション設計力が勝敗を決する新時代の到来を告げている。
【児玉崇】