5連敗のアビスパに光 アカデミー発ルーキーのサニブラウン・ハナンがデビュー弾
アビスパ福岡はJ1第32節サンフレッチェ広島戦(27日、ベスト電器スタジアム)で1-2と敗れ、リーグ戦5連敗を喫した。終盤にアビスパアカデミー出身のFWサニブラウン・ハナン(19)がプロデビュー弾を決めたが、勝点にはつながらなかった。
ベスト電器スタジアムに沈む空気を、一瞬で切り裂いた。
J1第32節、サンフレッチェ広島戦。0-2と劣勢のまま迎えた後半アディショナルタイム、ピッチに立ったばかりの19歳FWサニブラウン・ハナンが豪快にネットを揺らした。Jリーグデビュー戦、わずか5分足らずでの衝撃弾。5連敗という重苦しい現実のなかにあって、確かな光が差し込んだ瞬間だった。

この日のアビスパは、試合前から苦境に立たされていた。リーグ戦4連敗中で、7試合ぶりの勝利が欲しい状況。FWウェリントンが前節の退場で出場停止、DF志知孝明は契約の関係で広島戦には出られず。怪我人も続出し、控えにはGKを3人並べる異常事態で試合に臨んだ。
一方の広島も過密日程のなかにあった。中2日でACLエリートを控えており、主力を温存して7人を入れ替える大幅なターンオーバー。それでも今季リーグ最少失点を誇る堅守は健在で、難敵との一戦となった。
金明輝監督は試合前に「こういう状況だからこそ、新しいヒーローが出てくることもある」と語っていた。その言葉が、試合終了間際に現実のものとなる。
立ち上がり、最初に決定機をつくったのは広島だった。2分、FWヴァレール・ジェルマンがGK小畑裕馬と1対1になったが、小畑がビッグセーブでしのぐ。しかし17分、こぼれ球を拾われ、ヴァレール・ジェルマンの膝に当たったボールがコースを変えてゴールへ。福岡にとっては痛恨の失点となった。
それでもアビスパは前節までの関東遠征2連戦よりも前向きな姿勢を取り戻していた。前半30分にはFW紺野和也が仕掛け、35分にはMF橋本悠のクロスをMF松岡大起がジャンピングボレーで合わせるなど、攻撃のかたちをつくって広島ゴールに迫った。
キャプテンDF奈良竜樹は振り返る。
「前線の選手がハードにタスクをこなしてくれているなかで、最後に踏ん張り切れていない。自分の力不足を痛感しています。ただ、ボールの循環は試合を重ねるごとにスムーズになってきている感覚もあった」
後半に入ると、アビスパの攻撃はさらに厚みを増した。紺野のクロスからDF安藤智哉が飛び込み、セカンドボールをFW名古新太郎が狙うなど、ゴール前の迫力は増していった。
しかし勝負どころで再び失点が重なる。後半41分、広島の一連の流れ、MF中島洋太朗の浮き球パスからFW木下康介の折り返しをMF田中聡に押し込まれ、0-2。勝点を遠ざける痛烈なカウンターを食らった。
このまま試合が終わるかと思われた後半42分。金監督が切ったカードは、アビスパアカデミー育ちの高卒ルーキー、FWサニブラウン・ハナンだった。陸上日本代表の兄、サニブラウン・ハキーム譲りの身体能力をもつ187㎝のストライカー。長く怪我で出遅れていたが、ついにJの舞台に立った。

そしてアディショナルタイム2分。左サイドを突破した橋本が右足でクロスを供給。ゴール前に走り込んだハナンは、打点の高いヘディングで日本代表GK大迫敬介の手を弾き飛ばした。スタジアムが沸騰した瞬間だった。
ゴール裏へ両手を掲げ、歓喜を爆発させる19歳。だが試合後、口を突いたのは喜びよりも悔しさだった。「ここまで焦りや悔しさのほうが大きかった。1点じゃ足りない。2点、3点取ってチームを勝たせたい」アビスパU-18時代から慣れ親しんだこのスタジアムでの一撃。それでも彼は、スタートラインに立ったばかりだと自覚していた。

そんなニューヒーロー誕生の鮮烈デビューもあったが追加点を奪えず、結果1-2で幕を閉じた。
試合後、奈良竜樹はスタジアムを一周しながらサポーターに頭を下げた。その目には涙がにじんでいた。
「最後で踏ん張り切れない。後ろで耐え抜くのはアビスパの文化であり、これまで積み上げてきたもの。そこに立ち返らなければいけない」
5連敗。結果は重くのしかかる。しかし攻撃の連係にはたしかな進歩があり、新しい力が芽生えた。金監督も試合後の記者会見で「選手たちは勝利に値するゲームをした。結果は残念だが、前向きに次へ進みたい」と語った。
アビスパ福岡は敗れたとはいえ、光は差した。台所事情に苦しむなかで、アカデミー出身の19歳が日本代表GKからゴールを奪った事実は、クラブにとって大きな財産だ。
「粗削りではあるが、サポーターとともに成長すれば底知れない可能性を発揮できる」アカデミー時代のコーチからの評価通り、ハナンの未来は限りなく広がっている。
苦しむ時こそ、アビスパは踏ん張らなければならない。奈良が語った「アビスパの文化」と、ハナンが示した「新しい希望」。その両方を胸に、チームは10月4日(土)、ホーム・横浜FC戦に臨む。
5連敗の先に待つのは、必ず歓喜の勝利だ。

【撮影:@mac / ライター:森田みき】