デルパラ事件、モリナガ元取締役インタビュー「社員を犯罪者にした責任は重い」

 2025年7月の参議院選挙をめぐる買収事件で、鹿児島市のパチンコ店「モリナガ」の幹部・店長ら10人が公職選挙法違反で略式起訴された。親会社「デルパラ」(東京)を含め摘発された人数は230人を超え、平成以降の国政選挙で最大規模の買収事件に発展した。

 「モリナガ」は、もともと城山観光(株)の子会社として経営されていたが、25年1月に一部株主の懸念を押し切り、複数の株主に事前伝達せず「デルパラ」へ売却された経緯がある。

 そのわずか半年後、デルパラ傘下となったモリナガが平成以降最大規模の選挙買収事件の当事者となった。

 今回の事件を受けて、データ・マックスはかつてモリナガの経営を担っていた元代表取締役専務にインタビューを行った。同氏は事件の背景にあった“不可解な売却劇”と、銀行主導とされる構造的な問題について語った

インタビュー内容

Q:今回の事件について、どのように受け止めていますか?
A:率直にいえば、「社員を犯罪者にしてしまった」という後悔が強いです。私が役員だったころのモリナガの社員は、城山ホテルを支えているというプライドをもって働いていました。売却がなければ、選挙に関与させられるような状況もなかったはずです。

Q:売却話はいつ、どのように伝えられたのでしょうか?
A:2024年2月、唐突に城山ホテルの会議室に呼び出されました。出席者は城山観光の東会長と矢野社長、創業家社外取締役、私を含むモリナガの当時の役員、そして鹿児島銀行の行員2名でした。その場で、「肥後銀行経由でモリナガに売却の話がきている」「相手はデルパラ」「まだ決まったわけではないが、秘密保持契約にサインしてくれ」と言われました。他のモリナガや城山観光の役員にも秘密保持契約を強いています。

Q:社内の意思決定プロセスはどうでしたか?
A:24年7月16日午後4時に臨時取締役が開催されました。それに先立つ午後2時に、城山観光の臨時取締役会が開催されています。モリナガ売却に関する基本合意に関する決議を取るためです。従前の取締役会はモリナガが先でその後城山観光という流れでしたが、あのときは逆でした。「議決の判断は是々非々で」と言われましたが、すでに親会社で決議された後でしたから、何を言っても覆らない。完全に茶番でした。

Q:反対したのですか?
A:私1人が反対しました。「モリナガの役員という立場で言わせていただければ、自社に何のメリットもない。この話は終わりにしてください。」と意見しましたが、会長は「入り口の段階で反対するのはいかがなものか。大口株主でありメインバンクの鹿児島銀行の提案なので基本合意を決議して検討すべきだ」と主張しました。モリナガの株主は城山観光だけなのにそういう話をされるので、会長は完全に銀行の意向に従っていると感じました。

Q:その後正式に売却決定となったのですね。
A:先方との面談や視察などがあったようですが、議決に反対した私には声が掛かりませんでした。11月22日に城山観光から売却の最終合意の承認決議の申請が来ました。前回同様反対したのは私だけでした。秘密保持契約はまだ生きているので「契約締結までは対外的に言わないでくれ」とも言われました。その後の詳細なスケジュールが決定しており出来レースの印象を強く受けました。

Q:売却の過程で役員構成にも変化があったのでしょうか?
A:はい。今にして思えば、売却に反対しそうな創業家出身の役員や生え抜きの幹部は徐々に外されていった印象です。銀行主導ですべてを決めていた印象でした。

Q:鹿児島銀行との関係についてどうお考えですか?
A:当時の頭取のときは頭取自身やほかの行員から「モリナガがあるから城山観光は回る」と言われました。次の頭取のときはとくに印象はありませんが、その次の頭取になってから、完全にそういった話はきかれなくなりました。

Q:売却価格についての認識を教えてください。
A:私はそもそも売却自体に反対でしたが、売却するにしても28億円という金額は明らかに安すぎました。売却後に業界の人から、「草牟田の店舗だけでも20億円で買ったのに」と言われたこともあります。他にもっと条件の良い買い手がいたとも聞いています。いまにして思えばデルパラへの売却ありきで物事が進んでいたとしか思えません。

Q:売却後のモリナガに対しては、どのような思いがありますか?
A:私は名門・城山観光グループの一員として誇りをもって働いてきました。その看板があったからこそ、地域の信用も得られた。でも、デルパラに売られ、後輩たちが選挙違反に巻き込まれ、前科までつけられた。残念でなりません。

Q:モリナガ側から買収先の調査などはできなかったのですか?
A:一度、「デルパラって業界であまり聞きませんが、私が調査をしましょうか?」とさりげなく提案しました。でも、「もう動かないでくれ。守秘義務があるから風評が立ったら困る」と止められました。

Q:銀行とのやり取りで印象的な言葉はありましたか?
A:コロナ前インバウンドが活況なころ、好立地の不採算店で新たな事業展開を模索すべく「今カプセルホテルなど視察しています」と上司に店舗活用を提案したところ、「今は銀行がOKを出さないから、動くな」と言われました。

Q:現在の心境をお聞かせください。
A:売却の意思決定を創業家が決めるならともかく、なぜ銀行主導で決まるのか。いまだに納得がいきません。

【まとめ】

 代表権をもっていた元専務の証言は、「買収」の背後に、ガバナンスの欠如した“支配構造”が横たわっていた可能性を示唆する。

 売却は誰が主導し、誰の利益のために行われたのか──。売却先や売却金額の決定プロセスなど役員の責任を含めて今後の徹底検証が求められる。

【鹿島譲二】

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