福岡大学名誉教授 大嶋仁
アメリカのワシントンD.C.に30年以上在住し、国際情勢を分析する伊藤貫という人がいる。YouTubeを通じて、国際政治学や経済学などに関する発言を続けている。軽妙な話術、説明の明快さ、教養の幅広さが魅力だ。
その伊藤が、ある時こんなことを言った。「本物の政治家には必ずや宗教的価値観がある。これがあればこそ、彼らは偉大なのだ」と。彼にとって、宗教的信条のない政治家は本物ではないことになる。
私もこの考えに賛成だ。政治家はなにより国を守り、民の心身を健やかに保つことを目的とせねばならない。そのような目的は、心底に何らかの宗教がなくては達成できない。
だが、宗教は政治から切り離されるべきではないのか?
これについて、先述の伊藤はこういう。「国家を超えた宗教をもてばこそ、政治家は国家を守れる」と。
逆説とも聞こえるこの言葉だが、私には納得がゆく。政治家が国家を超えた普遍的価値観をもっていなければ、他国の政治家を説き伏せることなどできない。
では、そのような普遍的価値観はどういう宗教に見つかるのか?
伊藤はブッダやイエス・キリストの名を挙げている。人類の心を揺さぶる力をもち、時間と空間を超えて伝わる宗教を、彼は政治の根本に求めているようだ。なるほど、国家主義や民族主義などの偏狭な精神では戦争しか生まない。日本で近代になって生まれた国家神道や天皇崇拝など、とうてい宗教とは呼べない。
日本人の宗教は神道と仏教のペアで成り立ってきたからこそ、日本人を救ってきた。このペアを壊して国家神道を制度化した明治政府は、私にとって「日本の敵」である。日本に神道しかなかったとしたら、日本人は「人」にはなれなかったろう。道端の地蔵菩薩像に見守られてきたからこそ、日本人は人であり得たのだ。
宗教心をもたない政治家は、民に同情心を抱き得ない権力志向者に過ぎない。聖徳太子の例を見よ。国家を超えた理念をもたなければ、国内政治も外交もできるはずがない。
さて、以上のことをいうのも、今や自民党と連立政権を組むことを拒否した公明党がクローズアップされているからだ。石破茂が自民党総裁のときは連立を組んでいたのに、どうして高市早苗が総裁になった途端に離脱表明をしたのか?
評論家はこれについていろいろいうが、「宗教的価値観のあるかないか」が原因だと私は思う。石破には根底にキリスト教があった。彼は「議員になろうが大臣になろうが、人間は神さまの前には塵芥のような存在です」といえる人だった。高市にはそういうものはなく、あるのは靖国神社参拝と神道政治連盟との結びつきだけなのだ。このような政治家は人類社会を見る視点が欠ける。仏教思想を基盤とする公明党にとって、協力できない相手なのである。
周知のように、公明党の母体は創価学会であり、創価学会は仏教思想を基盤とした新興宗教である。「公明党は創価学会ではない」と公明党員はいうが、この政党の根底に宗教があることは否定できないことだ。では、公明党は政教分離の原則を破っているのか?
これについては、政治評論家の佐藤優の発言が説得力をもつ。彼は同志社の神学部を出たキリスト教徒であるが、以下のように言っている。
「政教分離とは国家が特定の宗教にのみ肩入れしてはならないという意味であって、ある個人なり団体なりが、己の宗教的心情を政治において実現したいと思うことは、何ら問題がないどころか、極めて重要なことです」と。佐藤はこうした観点から公明党に期待しているようだ。
私自身はというと、政治団体としての公明党には期待できるものがあると思っている。ただし、創価学会については心から信頼しているわけではない。今はともあれ、この団体の過去には危険なものがあった。
創価学会の宗旨を見ると「日蓮の仏法を現代に展開する」とあり、「個人の人間的な成長を追求し、その経験を通じて自分と周りの人々の幸福を実現し、最終的には世界の平和へと貢献することを目指す」となっている。
信徒には「日々の生活のなかで南無妙法蓮華経を唱える」一方で、社会活動に積極的に取り組むことを要求しているのである。
これ自体、すばらしいことのように思えるが、私はこの団体がその勢力を暴力的に拡大する様子を見た1人である。身内にはこの団体の強引な勧誘の仕方に怒っている者もあった。
おまけに大学生のころ、藤原弘達というジャーナリストが創価学会と公明党を批判する書を刊行しようとしたとき、それを創価学会と公明党が妨害するという事件があった。つまり、創価学会は言論の自由を踏みにじろうとしたのである。
しかし、この悪きイメージは消えた。その次第については、次稿に回すことにする。
(つづく)

				
				
				
				
				
				
				
				
				
				
							
							
							
        
                          
                          
                          
                          
                          
									






