【異色の芸術家・中島氏(30)】アトリエメモランダム「黎明」

 福岡市在住の異色の芸術家、劇団エーテル主宰の中島淳一氏。本人による作品紹介を共有する。

Dawn(黎明)
Dawn(黎明)

 意識の深層で、天と地、死と生が交わる霊的な光の音楽。水面のようでありながら、同時に天空のようでもある。夢と現、可視と不可視の境界が融け合う創世記の時空への回帰。ゴーギャンが夢見た楽園以前の原初の地平への旅。水彩の層は、天界のエーテルが物質界へと沈みこみ、同時に人間の魂が天上へと帰還する経路を示す。神秘学の巨星ルドルフ・シュタイナーがいう、Dämmerbewusstsein(黎明意識)である。すなわち、夜と昼、無意識と意識の中間に存在する霊的覚醒の門。その門を通り抜けると広がる風景。

 青は宇宙の叡智、緑は生命の息吹、金は霊的太陽。それらが一点で交差する場所に、人間の内なる神殿がある。ここに描かれた光は、自然の模写ではなく、Imaginatio(想像力)という霊的器官によって感得された光である。ゴーギャンの言葉が暗示するように、真の画家とは神に問いかける預言者である。その預言は理性の言葉ではなく、色彩と沈黙の震えによって発せられる。芸術とは、文明の麻痺状態に抗う野生の祈りである。『黎明』は、「我々はどこからきたのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」というゴーギャンの問いに対する静かな回答である。それは、終わりなき問いの果てに見いだされた光の沈黙である。

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