参政・神谷氏との論戦で見える高市首相のジェンダー問題に対する本音

 臨時国会は17日午後、58日間の会期を終えて閉会した。10月に高市早苗首相が選出されて2カ月が経過したが内閣支持率は7割と依然高い水準を維持している。一方、自民党と日本維新の会が提出した議員定数削減法案は継続審議となり、台湾有事をめぐる首相の答弁に反発した中国との関係悪化、疲弊する国民経済など内外の課題は大きい。そうしたなか、高市首相の政治信条にかかわる新たな問題が浮上してきた。

参政党の家族観は伝統保守

 高市首相が保守的な政治信条をもつことは知られるが、政府の立場として表面上、自身の思想を出していないように見える。しかし国会開会中、首相の思想の片鱗がうかがわれる国会論戦や政府の動きがあった。国会や政府の動きを紹介しつつ、述べたい。

 NHKの中継も行われた16日の参議院予算委員会。参政党の神谷宗幣代表から「ジェンダー主流化とは一体何なのか」との問いが行われ、政府参考人である内閣府男女共同参画局長が答弁した。

 「あらゆる分野でジェンダー平等を達成するためすべての政策・施策・事業においてジェンダーの視点をもつことで、1997年の国連経済社会理事会合意結論においてすべての分野で法律プログラムを含め計画された行動が女性と男性におよぼす諸影響を評価する過程」「女性と男性が等しく便益を受け不平等が永続しないよう女性および男性の関心や経験を政治・経済分野における政策の実施の不可欠の要素とするための戦略である」。

 神谷氏は局長答弁を受け「男女平等にはわが党も異存はない」と述べたうえで「困るのはジェンダーフリーである」と指摘。国土交通省が掲げる女性用トイレの利用環境の改善やジェンダー主流化の取り組みの推進は「女性が安心して利用できる環境整備なのか」「トイレや更衣室の出口を共有にした性別の区別を曖昧にしたりするものではないのか」と質した。

 金子恭 国土交通大臣は「閣議決定を受け、関係省庁で混雑改善に向け、混雑具合や空き具合を『見える化』といった好事例の普及啓発を行うためのものである」と答弁した。閣僚席にいた片山さつき財務大臣も金子大臣の答弁に頷く場面がみられた。

 続けて神谷氏は「性的指向や性自認の多様性を理由とした不当な差別やいじめがあってはならないという点は、政府の方針とまったく一致している」と述べたうえで2023年に成立したLGBT理解増進法に対して「十分な審議もないまま成立してしまった。一貫して反対しており廃案とすべきものではないか」「とはいえ法がある以上、政府は基本計画を策定してジェンダーフリー関連が行き過ぎないように歯止めをかける責務があるのではないか」と指摘した。

 岸田政権時に成立したLGBT理解増進法に対して保守層の批判は依然として根強い。性的少数者に対する差別をなくし、理解を広めることが法の趣旨であるが、与党(当時は自民・公明)と一部野党(維新・国民)の修正協議によって「すべての国民が安心して生活できるよう、留意する」との条文が入った。性的マイノリティの当事者から反発の声が挙がったが、伝統的家族観を重視する保守派に配慮がなされた。

 神谷氏と金子国交相のやり取りで頷く姿を見せた片山財務大臣は「すべての女性の安心安全と女子スポーツの公平性などを守る議員連盟」の共同代表を務め、「公衆浴場やトイレを利用する男女の別を客観的基準がない性自認で行うとするのは問題」であり「一方的に偏ったイデオロギーによる法制化は危険である」と理解増進法に慎重な姿勢であった。

 神谷氏は地方の男女共同参画条例などの事例を挙げて「無意識の思い込みという概念は、本人が自覚し得ない内心の状態まで行政が踏み込む余地を生じかねない。私自身は『男らしく、女らしく』という価値観をもっているが、人生観であり内心の自由だ。こうした価値観を行政に改めろと努力義務を課されるなら、大きな問題ではないか」と主張を展開。高市首相に「性差を認めていくことはダメなのか」と答弁を求めた。

 高市首相は「私自身の考えをここでいうと、政府の見解になるので、ものすごく申し上げにくいことをご理解いただきたい。世代的には、女の子だからこうしなさいよと言われながら育ってきた」と述べた。

 高市首相が「世代的に『女の子だから~』と言われて育ってきた」と述べたのは、心情的、思想的に価値観を同じくする自身の支持基盤である岩盤保守層への配慮が滲んでいるだろう。

連合などの反発で見通せない閣議決定

 国会答弁は議事録として記録され、政府の政策・施策にかかわるものであるだけに慎重であったが、会期末、野党やリベラル派が反発した動きがあった。12日に首相官邸で開かれた政府の男女共同参画会議が紛糾した。今後5年間の方針を定める第6次男女共同参画基本計画に関する答申案が示されたが、芳野友子連合会長が旧姓使用の法制化検討などに猛反発し、答申は中止となり、今後の扱いは議長である木原稔官房長官に一任された。

 基本計画の原案には「旧氏使用に法的効力を与える制度の創設の検討」との盛り込まれており、連合や野党などが求める選択的夫婦別姓の文言は明記されなかった。

 自民党と日本維新の会の連立合意書に通称使用の法案を来年の通常国会に提出することが明記されている。高市首相自身、選択的夫婦別姓に反対し、独自の通称使用に関する法案を作成し公表してきた経緯がある。

 高市氏は、保守派言論誌『正論』(産業経済新聞社・2010年5月号)が特集した「民主党よどこまで日本を壊したいのか」との企画のなかで「何度でも言おう!夫婦別姓は誰もしあわせにしない」とのタイトルで当時の民主党政権が推進した選択的夫婦別姓への反対論を寄稿した。

 私案の「婚姻前の通称使用に関する法律案」概要を紹介したうえで「慎重審議を促す為には、政府案と同じ法務委員会に付託される内容の対案を提出することが不可欠だと考え、私案を準備した」とその意図を述べている。

 保守層の絶大な支持を受けた安倍晋三元首相が銃撃事件で死去して以降、約3年にわたりリベラルな岸田文雄・石破茂両首相の政権が続いた。両政権でも夫婦別姓法案は進まなかったものの、国会に法案が提出され、石破首相は「先延ばししていい問題ではない」と答弁し、党議拘束を外すことも検討したという。自民党内にも野田聖子議員をはじめ夫婦別姓賛成派議員は少なくない。しかし、国会議員を巻き込んで保守団体「日本会議」などの反対運動が展開され、保守層への配慮や党の分裂を恐れた自民党執行部によって見送られた。

 公明党が連立を離脱した背景にも夫婦別姓論議が進まなかったこともあるだろう。同党は別姓に賛成の立場である。政府は、年内に基本計画の閣議決定を行う予定だが、強引に進めれば、収拾がつかなくなることになる。

【近藤将勝】

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