『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏
毒を失った週刊誌に明日はない。SNSにお株を奪われた既存メディアの可能性と、高市早苗政権のこれからについて考察する。(文中敬称略)
保守誌の“寝返り”か──新潮・文春の地金と論調変化
週刊誌の論調にも変化が出てきている。新潮、文春はもともと保守色が強い。新潮の中国嫌いは病膏肓といっては失礼だが、筋金入りである。当初、高市首相の習近平に銃を向けるかのような発言に喝采を送った。
だが、新潮の論調も変わってきた。
12月18日号のトップで「高市首相に地元宗教法人から3,000万円の違法献金疑惑」があると報じている。
政治資金規制法で、政治資金団体への寄付は、企業の規模に応じて年間の上限が決まっている。資本金が10億円未満の場合、年間の寄付額は計750万円を超えてはならない。
しかし、奈良県選挙管理委員会が11月28日に発表した収支報告書によれば、高市早苗首相(64)が代表を務める「自民党奈良県第二選挙区支部」が、昨年8月26日に東京・銀座の「鳥羽珈琲」から1,000万円の寄付を受けているが、同社の資本金は1億円で、上限を超えている。
支部側は、「事務的なミス」だとして、250万円を返金し、その後、寄付金が750万円に訂正されたという。
総理までがこの体たらくでは、このような“ザル法”で政治とカネの問題はいつまでたっても解消しはしない。
しかし、これだけでは済まないと新潮はいう。
ここへきて、別の献金主に注目が集まっているが、その献金主は、人の出入りがほとんどない“謎の宗教法人”だというのである。
「その宗教法人は『神奈我良(かむながら)』と言い、所在地は高市首相の地元である奈良県の奈良市。先の収支報告書には、昨年12月13日、同法人が自民党奈良県第二選挙区支部に3,000万円の寄付をしたことが明記されている。宗教法人が政党に3,000万円の寄付を行う場合は、前年にかかった経費が6,000万円以上でなければならない。そう規正法には定められているのだが……。
『神奈我良』のホームページによると、神社名は『大和皇(やまとすめら)神殿』といい、天照大神や素盞嗚尊などを祭っているとある。さらに法人の目的としては、
〈古事記・日本書紀・万葉集を所依の教典として、この教義をひろめ、儀式行事を行い、修養者を教化育成すること〉
などと謳われている」(新潮)
それはJR奈良駅からほど近い住宅街にあるそうだ。2階建ての民家のようで、入り口には注連縄、祭壇、賽銭箱が置かれている。
詰めていた高齢女性に聞くと、
「私はすぐ近くに住んでいて、日中は神社のお留守番を頼まれています。だいたい毎日、お昼から夕方まで入り口を開けてあります。無給ですが、事務をしているわけではありません。何も仕事はないのです」
とのことで、
「人の出入りはほとんどありません。信者さんも氏子さんもいませんし、行事もないので、お金は入ってきません。太鼓をたたく人もいませんし、神殿の電気をつけても仕方ないから、普段は暗くしています。トイレットペーパーなどの備品は、私が自腹を切っています。施設でかかっているお金といったら、電気などの光熱費や水道代くらいですかね」(同)
ちなみに2階は物置になっているそうだ。女性が「留守番」を引き受けてから3年ほどたっており、その間、こうした状況が続いてきたという。
こんな“貧相”な神社が高市に3,000万円寄付? なぜだ!
そんな「神奈我良」の代表委員は川井徳子(67)という女性で、奈良県内で手広く事業を展開する「ノブレスグループ」の代表でもあるそうだ。
父親は運送会社を経営する傍ら、右翼活動をしていたという。
「今回は『神奈我良』からの3,000万円とは別に、個人で1,000万円、合計で4,000万円を寄付している。これは昨年の同支部の収入の2割超にあたる大金です」(全国紙デスク)
宗教ジャーナリストの小川寛大は、「1年間で6,000万円もの経費を使う宗教法人など、現実にはほとんどありません」という。
「実際に、『大和皇神殿』の入り口の記帳台に置かれた芳名帳を見ると、今年度に記帳した来場者の数はわずか21人。うち、川井氏の身内やグループ企業の幹部らも複数含まれていたのだから、神社としての活動実態にはますます疑問符を付けざるを得ない」(新潮)
新潮が川井に聞くと、
「政治資金規正法に定められた要件を満たしており、前年における年間経費は寄付額の2倍以上であることを確認しております」
と答え、高市側は、「法人寄附のお申し出をいただいた際に、寄附要件の打ち合わせをさせていただき、年間経費の件も確認済であり、何ら違法性はございません」とするのだが、本当に違法性はないのだろうか?
神戸学院大学の上脇博之教授は、先の「鳥羽珈琲」と高市を政治資金規正法違反で奈良地検に告発している。その上脇教授がこういう。
「そもそも宗教法人は税制上の優遇措置を受けています。今回は、3,000万円の寄付が本当に違法であるのか、それを説明するためにも、前年における年間経費について、客観的な資料を示すべきだと思います」
高市早苗は、「疑惑×5」くらいの違法献金の疑いがあるのではないか。そのために、政治とカネの問題に決着をつけられないのではないか。
そう思うしかない。
“サナエノミクス”批判と利上げ後の暗転
高市政権が打ち出している「積極財政」は、途方もない巨額なものになったが、それで国民の暮らしはよくなるのか、かえって苦しくなるのではないかと疑問を投げかけているのは文春。
日本経済新聞ネット版(12月11日 19時16分更新)から引用する。
《2025年度補正予算案が11日、衆院を通過した。自民党と日本維新の会の与党に加え、国民民主党や公明党などが賛成し衆院本会議で可決された。12日から参院で審議を始める。17日に会期末を迎える今国会で成立する見通しだ。
補正予算の一般会計総額は18兆3,034億円に上る。24年度補正予算案と比べ31%増加し、新型コロナウイルス禍後で最大の規模となった。
補正予算案は物価高対策を盛り込んだ総合経済対策の裏付けとなる。26年1〜3月の電気・ガス料金を支援する費用を計上した。自治体向けの支援金も拡充し、おこめ券などの配布を促す。高市早苗政権が掲げる「危機管理投資」や防衛費も含む。
予算案は16日の参院本会議で成立する見通しだ。与党は衆院で過半数に達したものの、参院では下回る。国民民主と公明党との協力を得て過半数を確保する。》
成立はしたが、アベノミクスの生みの親である浜田宏一は、「サナエノミクス」では日本は不況になってしまうと、文春で大批判している。
伝説的な経済学者はアメリカからリモートで取材に応じたそうだ。アベノミクスの功の部分を縷々述べた後、その当時と今は日本の状況が変わってしまったという。
少し長いが浜田の言葉を引用してみたい。
「現在の為替は、百五十円台/ドルを推移している。極端な円安が続き、生活必需品やエネルギーの価格を押し上げ、庶民の生活を圧迫しています。円安が輸出を促進する場合もあるが、深刻な人手不足が続く日本ではそうはいきません。国内でつくられた財やサービスが海外に買い叩かれ、国内への供給は減る。供給が減るとさらに物価が上がり、悪循環に陥っているのです。インフレ局面では株価は一時上昇しますから、企業家や投資家は喜ぶでしょうが、庶民の賃上げは追いつかない。三%のインフレが三年続けば約十%ですが、そのスピードで賃金が上昇するとは思えませんよね。ツケは庶民に回ってくる。安倍さんの時代とは状況が真逆です。今必要なのは、これ以上の日本の安売りではない。インフレ・円安局面への経済対策です。」
金利については、今の日銀はサボっているように思えるともいう。
「私はかつて、大規模な金融緩和を安倍氏に提言した立場です。しかし、今の日本に必要な政策は真逆。金融の引き締め、つまり市場に出回るお金の量を減らし、金利を引き上げる金融政策です。為替を是正するのは外為市場に介入できる財務省の仕事だと思われがちですが、実際に為替レートに最大の影響力をもつのは日銀。貨幣そのものの供給量を調整できるわけですから。物価の番人である日銀がまず、責任をもって直ちに利上げに踏み切らないといけません。今の日銀はそれをサボっているように見える。」
サナエノミクスで財政出動路線を明確にし、予算の64%を国債発行で賄うといっていることに対しては、
「率直に申し上げて、行き過ぎている、というのが私の見方です。もちろん財政赤字は常に悪というわけではなく、企業が成長のために借金をしてでも投資を行うのと同様、国家も長期的な利益のために赤字を活用すべき局面もあります。防衛費なども、残念ながら国際情勢に照らし増額が避けられない部分がある。しかしながら、人手不足などの供給制限がある現在のような状況で財政赤字を濫用し、大規模な財政出動をすることは、今、日本経済の最大の問題であるインフレをさらに助長する。とんでもないことです。」
──どういうことでしょう。
「たとえば、補正予算に盛り込まれたガソリン減税は望ましいやり方ではない。そもそも、インフレ下では必然的に税収が増えますが、『自動安定化装置』が働き、景気の過熱を緩やかにしていく。税収が増えるなかで歳出を固定したり制御したりすれば、自動的に一定程度、インフレ抑制になる。しかし、そこで減税に踏み切ればどうなるでしょうか。ましてや個別のガソリン減税だとどうか。もちろん対症療法的にガソリンは一時安くなりますが、ガソリン利用者の負担だけが軽くなれば、結果的に車の利用も増えてガソリンの消費が加速し、かえってインフレを強めかねない。すると国民全体の負担は増える。まったくの筋違いの政策です。」
自治体が自由に使える地方への交付金や子ども1人あたりに2万円の給付などについても、
「まさに交付金は、物価高対策にはなりません。むしろ、物価高促進策と言っていい。交付金をその地域の振興に使うというなら分かります。しかし、物価高対策として各地で減税やクーポン給付などを実施し、“家計の助け”のために使えというなら、まさにバラマキです。政府が借金してまで市場のお金の量を増やし、そのお金が使われれば、インフレはますます加速します。2万円給付も同様です。配って物価が下がることはない。」
──サナエノミクスが金融を引き締めず、さらに積極財政に向かうのであれば、日本はどうなりますか。
「物価が上がってもその分賃金を上げてもらえないのだから、労働者はどんどん損をする。今のままの積極財政ではさらなる家計の圧迫を引き起こすでしょう。日本は不況になり、国家の基盤が揺らぐ。金融を引き締め、しっかりと緊縮財政に向かわなければ、“高市不況”がやってくる可能性があるということです。」
日本銀行が12月19日、政策金利を0.75%に引き上げた。30年ぶりの高水準にはなったが、浜田のいう通り、かえって円安は進んだ。
日本の舵取りを高市早苗なんかに任せるんじゃなかったと、国民が悲嘆に暮れる日が来ないことを祈りたいが……。
(了)
<プロフィール>
元木昌彦(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。








