BIM/CIM活用で省人化 民間も含めて事例共有へ

 国土交通省は、建設現場の省力化を進めている。そのためのツールの1つがBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)で、「i-Constructionモデル事務所」として指定されている地方整備局の工事事務所で導入されている。有識者で構成される「BIM/CIM推進委員会幹事会」は、工事事務所の取り組みについて2025年11月から12月にかけて計3回にわたって報告を受けた。同省は、公共工事に加えて民間工事の事例も集めており、ウェブ上で多様な省人化の工事事例を共有できるようにする。

BIM/CIMによる取り組みと方向性(出所=国土交通省資料から抜粋)
BIM/CIMによる取り組みと方向性
(出所=国土交通省資料から抜粋)

3Dモデルを活用

 国土交通省が進めている「i-Construction 2.0」では、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、生産性を1.5倍に向上することを目指している。そのために、「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」を3本の柱に、建設現場のオートメーション化を図る。これにより、建設現場で働く1人ひとりが生み出す価値を向上し、少ない人数で、安全で快適な環境で働く生産性の高い建設現場の実現を目指すとしている。

 BIM/CIMは、建設事業で取り扱う情報をデジタル化し、関係者間で情報を共有。調査・測量・設計・施工・維持管理などの建設事業の各段階に携わる受発注者のデータ活用・共有を容易にし、建設事業全体における一連の建設生産・管理システムの効率化を図るとしている。情報共有手段としては、3Dモデルや2D図面、点群データ、GISデータなどを使用する。

 同省は生産性向上に向けて先行的に進めるのは、3Dモデルと2D図面の連動、属性情報を活用し積算・設計変更に関する仕事を効率化、属性情報を活用するためにBIM/CIM取扱要領を作成することとしている。

全国14カ所の事務所報告

 今回の幹事会では、全国14カ所の工事事務所の先進的な取り組みについて、現状と課題の報告を行った。このうち熊本河川国道事務所は、河川、ダム、道路におけるBIM/CIMの活用体制と情報供給体制について報告した。具体的な取り組みとして、白川の固定堰(3堰)の改築事業を取り上げた。関連する工事を含めた統合モデルを作成し、工事間の施工干渉などの課題の見える化や事業工程の見える化を実施。河道変化や施設の安全性の見える化したモデルとした。熊本河川国道事務所は、今後の取り組みについて、「今回は河道変化や施設の安全性を見える化したモデルの話を取り上げたが、平時や災害時に活用できるよう、また将来的には整備計画や基本方針の検討にも活用できるよう、挑戦的な検討を進めていきたい」とした。

 岡山国道事務所の報告では、3D道路管理情報システムを開発し、維持管理にBIM/CIMを活用した事例を紹介。維持管理段階では、点検や修繕などにより3Dモデルの修正が必要になる。施工段階で作成した3Dモデルが維持管理では使いづらいため、設計・施工段階で維持管理を考慮した3Dモデルの作成が必要だとした。

 今回の報告で共通する課題としては、モデル事務所として限られた場所で実施していることから、職員が2~3年ごとに異動があるため、新たに配属してきた職員の教育やスキルの継承、BIM/CIMに関するスキルを異動先で役立てることが難しいなどといった人事面が挙げられた。

 BIM/CIM推進委員会の委員長である東京都市大学総合研究所の矢吹信喜特任教授は、今回の報告を受けて「維持管理にBIM/CIMを使っていくのかは長年の課題だったが、実際に使われるようになって(新たな)課題も出るようになった。属性データを3Dモデルにすべて入れるのは大変で、欧米でも標準化されたデータを使うのが一般的だ。そのときに用語がまちまちだと属性検索で出てこないので、日本でも用語・分類体系の検討を始めるべき」と総括した。

民間事例をウェブ公募

 国交省が行った「BIM/CIM適用業務・工事の見積分析」(25年11月)によれば、BIM/CIMにかかる直接的な人件費は、500万円以下が全体の9割を占めた。3Dモデルの作成にかかる費用は、業務では平均で約138万円、工事では平均で約128万円となっている。3Dモデルの活用費用については、内容によって異なるが平均で約15~47万円程度だった。

 同省では、これまでの業務・工事成果の横展開を図ることを目的に「BIM/CIM事例集」を公開している。キーワード検索のほか、工種、年度などで絞り込むことがウェブ上で可能。BIM/CIMの活用方法や効果を1枚のPDFファイルで出力でき、省人化にどの程度寄与したのかを定量的に記載している。

 また、これまでは国の直轄事業の事例だけだったが、地方自治体や民間企業、大学などからも事例の募集を始めた。「BIM/CIM事例集事例提出サイト」から、BIM/CIMを適用した調査、設計、施工、維持管理などの実施状況について、必要項目が記入された定形のエクセルデータを事例がわかる資料とともに提出。活用効果の定量的評価が整理された事例を募集している。内容によっては、同省が個別にヒアリングも実施するという。

「BIMCIM事例集事例提出サイト」で民間事例を公募
BIMCIM事例集事例提出サイト」で民間事例を公募

<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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