春日市の春日原駅前で容積率緩和(前)

容積率緩和&財政支援
建替え促進“春日版ビッグバン”

 福岡県春日市が2025年9月、新たに「かすが都心エリア建替え促進プロジェクト」を発表した。

 同プロジェクトは、連続立体交差事業や駅周辺整備事業を契機として生まれ変わる西鉄春日原駅周辺において、官民協働のまちづくり施策(容積緩和と財政支援)により、魅力ある駅前空間の形成と生活に豊かさを与える都市機能の集積を推進し、多様な世帯が居心地良く暮らしやすいまちなみの形成を目指していくというもの。まちづくりの方向性としては、「多様なライフスタイルを支えるまち」「誰もが歩きたくなる居心地の良い駅周辺」「将来にわたって選ばれ続けるまち」の3つを掲げている。

「かすが都心エリア建替え促進プロジェクト」地区計画および財政支援の対象区域
「かすが都心エリア建替え促進プロジェクト」
地区計画および財政支援の対象区域

 対象エリアは西鉄春日原駅周辺の約7.6haで、用途地域は商業地域(容積率400%/建ぺい率80%)。同エリアでは、連続立体交差事業や周辺整備事業により市街地の更新が進む一方で、小規模な画地に低層階の建築物や低利用で老朽化した建築物も多数立地しているなど、土地利用や都市基盤上の課題も多く存在していた。そのため、第2次春日市都市計画マスタープランや春日市立地適正化計画に定める方針の実現と土地利用や都市基盤上の課題の解決に向けて、より高度で都市的な土地利用を推進するとともに、西鉄春日原駅周辺らしい多様性や混在を生かしつつ、居心地が良く歩きたくなる中心拠点の形成を目指すため、高度利用型地区計画を導入することとなり、今回のプロジェクトの開始に至った。

 同プロジェクトでは、エリア内で要件を満たす建替えを行う場合に、容積率緩和と財政支援という2つの支援策を受けられる。まず容積率緩和に関する要件は、①「壁面後退(1階部分は1m以上、2階以上は0.5m以上)したうえで、1階部分の2分の1以上を店舗等の賑わいに資する用途として利用することで容積率を100%緩和」、②「壁面後退(0.5m以上)したうえで、道路沿いに幅5m・奥行3mの滞留空間(利用要件あり)を整備することで容積率を100%緩和」の2つで、①と②の両方を満たせば容積率200%緩和となる。

 財政支援では、「敷地統合タイプ」「建替えタイプ」「面整備タイプ」の3つのタイプに大別。まず敷地統合タイプは、あらかじめ所有する300m2未満の土地に、隣接する土地を取得し、2筆以上の土地の合算面積が300m2以上となる敷地として一体化し建替えなどを行う場合に、申請後36カ月以内に完了する事業であれば、対象となる土地に係る固定資産税・都市計画税に相当する額を最大36カ月分補助する。建替えタイプは、あらかじめ所有する300m2以上の土地で建替えなどを行う場合に、申請後24カ月以内に完了する事業であれば、対象となる土地に係る固定資産税・都市計画税に相当する額を最大24カ月分補助する。そして面整備タイプは、都市計画法第12条に掲げる市街地開発事業(土地区画整理事業や市街地再開発事業)を施工し、300m2以上の敷地で建替えなどを行う場合、申請後36カ月以内に完了する事業であれば、対象となる土地に係る固定資産税・都市計画税に相当する額を最大36カ月分補助するというものだ。なお、3つのタイプいずれも、補助額の上限は設定されていない。

 容積率緩和と財政支援という2つのインセンティブによって建替えを促進しようという点では、福岡市が進める「天神ビッグバン」と非常によく似ており、同プロジェクトはまさに“春日版ビッグバン”といえるものだ。ただし、天神ビッグバンとは違い、同プロジェクトは期限付きの市の事業として行われているものではなく、地区計画の変更によるものという点が異なる。そのため、天神ビッグバンのように竣工期限などが設けられているわけではなく、極端な話、今後改めて地区計画が変更されるまで、同エリアで要件を満たす建替えであれば、永続的にインセンティブが付与されることになる。

 「今のところまだ具体的な個別の案件が動いているわけではありませんが、皆さん関心はあるようで、プロジェクト発表後、事業者さまからの問い合わせなどはかなりいただいております」(春日市都市計画課)。

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 市の玄関口といえる西鉄春日原駅周辺で、再開発プロジェクトを始動させた春日市。春日市については、本誌vol.33(21年2月末発刊)でも取り上げたことがあるが、今回、改めてエリア特性や開発動向などを見ていきたい。

住みやすさに定評のある人口密度で九州最大の市

 福岡市の南東に隣接し、福岡都市圏の一角に位置する春日市。市の面積は1,415haで、これは市としては福岡県内どころか、九州内で最も小さいものだ。一方で、小さな市域ながらもJR、西鉄、新幹線と3本の鉄道路線が通り、春日駅(JR)、春日原駅(西鉄)、博多南駅(新幹線/ただし駅出口は那珂川市方面)とそれぞれの駅があるほか、西鉄バスが市内の各エリアを結び、さらに市内公共施設を結ぶコミュニティバス「やよい」が7路線あるなど、交通利便性に優れている。また、市内に大きな河川や山はなく、高低差約150mと平坦な地形が多いことで自然災害の影響を受けにくいという地理的な特性があり、福岡市と隣接して交通利便性に優れている立地から、昭和40年代ごろからベッドタウンとしての開発が進行。現在は市全域の約97%に当たる1,379haが市街化区域であり、その多くは住居地域となっている。そのため、小さな市域ながら市の人口は11万1,753人・5万1,829世帯(25年11月末現在)で県内5位。人口密度は九州の自治体で最大であり、首都圏と近畿圏を除くと名古屋市を上回り、1位となっている(首都圏・近畿圏を含めた全体では36位)。

 春日市にこれだけ人口が集まる理由の1つとしては、同市が住みよいまちとして高い評価を受けていることが挙げられる。大東建託(株)による居住満足度調査「いい部屋ネット 街の住みここちランキング2025<福岡県版>」では、1位の福岡市中央区、2位の福岡市西区に次いで、春日市は3位にランクイン。同<九州・沖縄版>でも、8位にランクインしている。ここでは、春日市の居住者コメントとして「とりあえず生活する範囲では歩けば何でもある」「JR、そして近くに西鉄もあるので交通の便が良い。買い物には困らないし、公園などの自然もあり家族で住むにはとてもちょうど良い」「多少道路が渋滞する時間帯もあるが、許容範囲」「医療機関も多く大きな公園もあり、子どもから老人まで利便良く住むことができる」──などが紹介されている。

 春日市は先に挙げた交通利便性の高さだけでなく、市内2つの総合公園をはじめ、防災機能を備えた総合スポーツセンターや、4館の児童センター、救急指定病院である「福岡徳洲会病院」、筑紫地区で唯一の療育訓練施設「くれよんクラブ」など、公共インフラや子育て・教育、福祉・医療などの機能が高いレベルで備わっており、これらが市民生活における総合的な満足度を生み出す要因となっている。九州最小の市域に、これだけ交通インフラおよび生活利便施設などが集約されている様は、まさに国土交通省が進めている集約型の都市構造「コンパクトシティ」を地で行くまちだといえるだろう。

西鉄春日原駅が高架化完了
ロピアは立て続けに2店開業

 冒頭、西鉄春日原駅周辺で進められている「かすが都心エリア建替え促進プロジェクト」について触れたが、その西鉄春日原駅では、近年高架化が完了したばかりだ。

 もともと西鉄春日原駅の周辺は、春日市の玄関口として、近隣の商業施設の集積とともに発展してきたエリアだ。だが、鉄道線路による市街地の分断のほか、踏切遮断による慢性化した交通渋滞や駐輪場不足などの問題により、駅周辺の中心市街地としての総合的な発展が阻害されていた。

 そうしたなか、11年4月に鉄道高架橋建設工事が着工した「西鉄天神大牟田線連続立体交差事業」は、西鉄天神大牟田線の雑餉隈駅から下大利駅の約5.2km区間を連続的に立体交差化する事業で、福岡県と福岡市が事業主体として進めてきたもの。春日市および大野城市の区間の高架化は県が担当し、春日原駅~下大利駅間の約3.3kmの線路の高架化とともに、春日原駅、白木原駅、下大利駅の3駅も高架化。踏切除去による渋滞解消や公共交通の利便性の向上とともに、各駅周辺の整備や高架下の空間活用などによる新たな賑わい創出などの効果を期待していた。22年8月に高架切替が完了し、24年11月末には新たな春日原駅舎が完成。現在、駅舎の1・2階部分に入る駅直結型商業施設「レイリア春日原」が26年1月の開業に向けて、テナント等の内装工事が進められている。

 立体交差事業に合わせて、春日市では「西鉄春日原駅周辺整備事業」を進行。これは、駅周辺の円滑な交通体系の確立と交通結節点機能の向上を図り、賑わいを形成する空間の基盤づくりに向けて、西鉄春日原駅へのアクセス道路、東西駅前広場および側道を整備していくもので、事業期間は26年度までとなっている。

 もう1つ近年、春日市内で注目を集めたのが、“食のテーマパーク”を謳う食品スーパー「ロピア」の相次ぐ進出だ。

 23年6月の「ロピア 博多ヨドバシ店」(福岡市博多区)開業によって九州初進出をはたしたロピアは、以降も福岡県内各所での出店攻勢を強めている。春日市内では、24年10月に星見ヶ丘6丁目に「ロピア 福岡白水店」が、同12月には惣利6丁目のナフコ春日店隣接の「ロピア 春日ナフコ店」が相次いで開業。福岡県内7店舗(25年12月現在)のうち、2店舗が春日市内に立地していることになる。豊富な品ぞろえと高品質な商品をリーズナブルな価格で提供することを武器にしたロピアは、既存の食品スーパーと比較してより広域からの集客を可能としており、店舗周辺道路の混雑を招く弊害はあるものの、春日市内の賑わい創出に一役買っている。

 そのロピアは春日市とタッグを組むかたちで、25年10月から春日市のふるさと納税の返礼品に参入。冷凍ピザや精肉などのロピアの人気商品が登録された。ロピアのふるさと納税での出品は、全国初の事例となる。

ロピア

(つづく)

【坂田憲治】

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