トランプ大統領によるベネズエラ軍事作戦、真の狙い(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏

 アメリカがベネズエラに手を出した本当の動機は「通貨の基盤」が揺るぎ始めていることにあります。具体的には、ドルの信用が失われつつあることへの危機感です。米国は政治、軍事力を背景に石油の取引はドルに限るという体制を確立してきました。そこから「オイルマネー」別名「ペトロダラー」が生まれたわけです。これこそが、アメリカを50年間に渡り世界を牛耳る経済大国の地位に保ってきたオイルマネー制度に他なりません。そしてベネズエラは、まさにこの制度を終わらせると脅したのです。

脱ドル化とBRICS加盟
ペトロダラー体制の揺らぎ

 ベネズエラは3,030億バレルの確認済み石油埋蔵量を誇り、これは世界最大規模です。サウジアラビアを上回り、世界の石油の20%を占めています。しかし、ベネズエラは原油をドルではなく人民元で積極的に販売しているのです。18年、ベネズエラは「脱ドル化」を宣言。人民元、ユーロ、ルーブルなど、ドル以外のあらゆる通貨で原油が取引できるようになり、今日に至っています。

 しかも、ベネズエラはBRICSへの加盟を申請し、SWIFTを完全に迂回する中国との直接決済チャネルを構築しました。そして、数十年にわたり、脱ドル化に必要な資金を賄うだけの原油を保有してきたのです。これこそ、米国のオイルマネー体制への挑戦と言っても過言ではありません。アメリカの金融システム全体がオイルマネーに基づいていることに鑑みれば、米国経済の土台が揺るがされる非常事態になります。

 思い起こせば、1974年、ヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官はサウジアラビアと協定を結びました。世界で販売されるすべての石油は米ドル建てで価格設定されなければならないというもの。その見返りに、アメリカは軍事的な保護を提供するという仕掛けです。

 この協定1つで、世界中でドルに対する人為的な需要が生み出されました。地球上のすべての国は石油を購入するためにドルを必要とするようになったからです。この制度のおかげで、アメリカは無制限に紙幣を刷ることができ、他の国々はドル紙幣の獲得に奔走するようになりました。アメリカの覇権にとって、オイルマネーは空母よりも重要と見なされたわけです。

フセインとカダフィの末路
ペトロダラー離脱は死刑宣告

 そして、オイルマネーに異議を唱える指導者には、悲劇的なパターンが訪れることになります。具体的には、2000年、サダム・フセイン大統領が、イラクは石油をドルではなくユーロで販売すると発表しました。すると、03年、米軍はイラクが大量破壊兵器を隠しているとの理由で軍事侵攻による政権交代を実現。イラクの石油は即座にドル建てに戻されることに。フセインは殺害されましたが、大量破壊兵器はそもそも存在しなかったため、発見されることはありませんでした。

 09年、リビアのカダフィ大佐は石油取引のために「ゴールド・ディナール」と呼ばれる金を基盤としたアフリカ通貨を提案しました。ヒラリー・クリントン国務長官から流出したメールは、これが米軍介入の主な理由であったことを裏付けています。メール曰く「この金は、リビアのゴールド・ディナールを基盤とした汎アフリカ通貨の創設を目的としていた。」11年、NATO軍がリビアを爆撃。カダフィ大佐は殺害されました。「我々は来て、見た。彼は死んだ!」クリントン国務長官はカメラの前で笑ったものです。

 そして今回はマドゥロ大統領が悲劇の主人公に祭り上げられたと思われます。サダムとカダフィを合わせた量の5倍もの石油を保有しているのですから。しかも、人民元建てで積極的に取引し、ドルの支配から逃れる決済システムを構築し、BRICS加盟を請願しているほどです。

 スティーブン・ミラー米国国土安全保障担当大統領補佐官は2週間前、衝撃的な発言を繰り出していました。曰く「ベネズエラの石油産業は、アメリカ人の汗と創意工夫、そして苦労によって築かれたものだ」。さらに「ベネズエラは横暴な手段で収用したわけで、アメリカの富と財産に対する史上最大の窃盗行為だった」とも語気を強めました。

 米国政府は「ベネズエラの石油は100年前にアメリカ企業が開発したため、アメリカのものだ」と主張しているのです。この論理によれば、歴史上国有化された資源はすべて「窃盗」だったことになります。

崩れゆくドル支配と戦争の連鎖
ペトロダラー防衛戦争の時代へ

 しかし、最も深刻な問題はオイルマネーがすでに衰退しつつあるという事実です。ロシアはウクライナとの間でルーブルと人民元で原油を販売しています。サウジアラビアは人民元取引を公然と議論。イランは長年、ドル以外の通貨で取引を行ってきました。

 中国はSWIFTに代わる独自の決済システムであるCIPSを構築し、185カ国4,800の銀行と提携しています。BRICS諸国は、ドルを完全に迂回する決済システムを積極的に開発しているのです。「エムブリッジ・プロジェクト」は、中央銀行が現地通貨で取引を即時決済することを可能にします。3,030億バレルの石油を保有するベネズエラがBRICS諸国に加われば、このプロセスは飛躍的に加速するはずです。これこそが今回の米軍による軍事作戦の真の狙いといえます。

 麻薬対策は言い逃れです。ベネズエラのコカイン生産量は、米国の1%にも満たないもの。マドゥロ大統領が「テロ組織」を運営しているという証拠もありません。そして、今後の展開は恐ろしい限りと言わざるを得ません。なぜなら、ロシア、中国、イランはすでに米軍による「武力侵略」と非難しているからです。

 中国はベネズエラの主要な石油顧客です。ベネズエラは数十億ドルもの損失を被っています。トランプ大統領は1月3日、FOXニュースの電話インタビューで、メキシコの麻薬カルテルが米軍の次の攻撃対象になる可能性を示唆。また、キューバへの攻撃も匂わせています。トランプ流の「関税戦争」ならぬ「ペトロダラー防衛戦争」が次々と勃発しかねません。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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