賛否のなかで始まり、決断で終わった1年──アビスパ福岡と金明輝監督の2025年
賛否を抱えた船出──覚悟の起用で始まった25年
25年シーズンのアビスパ福岡は、一定の緊張感とともにスタートした。金明輝監督の就任は、クラブにとって大きな決断であり、発表当初から賛否の声があったことは事実だ。
筆者が日ごろ接しているアビスパのサポーターの間でも、過去に指導現場での問題が報じられていた指揮官を迎えることに、不安や戸惑いを覚える声があったことも事実だ。だがその一方で、「クラブの判断を尊重したい」「引き受けた以上は結果で示してほしい」と、前向きに受け止めようとする声も聞かれた。クラブは、第三者委員会による調査やJリーグが実施した研修、更生プログラムを経ていることを踏まえたうえで、金監督を迎える判断を下していた。
金監督は就任会見で、「信頼を取り戻すために努力を重ねたい」「謙虚な姿勢で職務に取り組む」と述べ、新シーズンに臨んだ。シーズンを通して、アビスパ福岡は安定した戦いを続けられたわけではなかった。結果が出ない時期もありながら、チームはシーズンを戦い抜き、最終的にJ1残留をはたす。苦しい時間を重ねながらも、J1での戦いを継続するかたちでシーズンを終えている。
クラブは26年シーズンに向け、比較的早い段階で金監督の続投を発表した。現場では、言葉遣いやコミュニケーションの面で変化が見られるという声もあり、継続的な取り組みに一定の手応えを感じていた関係者もいたという。シーズンを通じて積み重ねたものを、次につなげていこうとする見方があったのも事実だ。
しかし、新シーズンの始動を目前に控えた年明け、状況は大きく動いた。Jリーグからの連絡を受け、クラブ内で事実確認を進めた結果、金監督の言動について、複数のコンプライアンスに抵触する行為が確認された。クラブは第三者である弁護士を交え、年末年始にかけて調査を実施。過去の経緯も含めて慎重に検討を重ねた結果、「同様の事案が繰り返された」と判断し、契約を解除する決断に至った。
線を引いたクラブ、揺れる感情
1月5日の記者会見で、クラブ側は今回の判断について説明を行った。そのなかで、「この問題は監督1人の責任に帰するものではない」としたうえで、クラブとして事態を重く受け止め、一定の線を引く必要があると判断したことが説明された。再発を防ぐ観点からも、組織としての意思を明確に示したかたちだ。
一方で、金監督本人については、「改善しようとする姿勢は見られた」「言葉の表現や伝え方に変化があった」との説明もあった。ただ、受け手がどのように感じるかという点まで含めた認識については、結果として十分だったとは言い切れない状況だったとされている。
クラブ関係者によると、契約解除を伝えた際、金監督は「後悔している」と話していたという。ただし、その言葉の詳細や、どこまでの思いが込められていたのかについては、公の場で多くは語られていない。
今回の判断を受け、アビスパのサポーターからはさまざまな反応が聞かれた。金監督が、就任にあたって注目を集めるなかで指揮を執り、結果としてJ1残留をはたしたことを評価する声もある。その一方で、そうした経緯があったからこそ、「同様のコンプライアンスの問題が再び起きてしまったことは残念だ」と受け止める声も少なくない。変化や再起に期待する空気があったなかでの出来事だっただけに、落胆の声が聞かれるのも事実だ。それは、失望というよりも、期待が寄せられていたからこそ生まれた反応だったと受け止められている。
節目の年に突きつけられた問いと、次の一歩
この1年は、勝敗や順位だけで整理できるものではなかった。シーズンを通して積み重ねられた時間と、その先で下された判断。それぞれが重なり合い、25年という1年をかたちづくっている。今回の出来事は、コンプライアンスというテーマに対し、クラブがどのように向き合い、最終的に判断を下すのかを示したものでもあった。状況を整理し、線を引くという選択を行ったこと自体が、クラブとしての姿勢を示す結果となった。
また、25年はアビスパ福岡にとって創立30周年という節目の年でもあった。その節目の年が、さまざまな意見が交錯するなかで進んだことは、クラブの歩みの一部として刻まれる。クラブがJ1に居続けることは、成績だけで測れるものではない。福岡という街に根を張り、安心して応援できる環境を守り続けられるかどうか。その積み重ねが、クラブの価値をかたちづくっていく。博多の森をネイビーに染めてきたサポーターの声は、長年積み重ねられてきた時間の表れでもある。喜びも悔しさも共有しながら歩んできたからこそ、クラブに寄せられる思いは深い。
1月14日、アビスパ福岡の結城耕造代表取締役社長が今回の責任を取って31日付で取締役を退任することが発表された。フロントと現場の両輪を入れ替えて、体制の再構築を図ろうとするクラブの覚悟のほどがうかがえる。
26年。リーグの環境も大きく変化するなかで、アビスパ福岡も自らを変革しながら新たなシーズンを迎える。サポーターの声がスタジアムに響く日常を守るために、クラブは今回の経験を踏まえて、次の一歩をどのように踏み出そうとしているか。サポーターたちはときには厳しくも温かい眼差しで見守っている。
【森田みき】








