【鮫島タイムス別館(44)】高市早苗「1月解散」の深層 麻生支配からの自立と選挙戦略

支持率絶頂での電撃解散という判断
高市早苗首相が電撃表明した1月解散。これはズバリ「支持率が高いうち解散」だ。内閣支持率は60〜70%の高水準をキープしている。「今なら勝てる」というわけだ。
高市首相はもともと通常国会末の6月解散を想定していた。昨年末の臨時国会で国民民主党や公明党が補正予算に賛成し、通常国会を乗り切る自信を深めていた。キングメーカーの麻生太郎副総裁も、麻生氏と気脈を通じている国民民主党も、6月の解散総選挙が終わった後、今年下半期に連立入りを想定して連携を強化していた。高市首相もその流れに乗っていたのである。
ところが一転、1月解散に踏み切ったのは、なぜか。韓国で旧統一教会の内部報告書がスクープされ、高市首相の名前が32回も登場。週刊文春をはじめ日本メディアも追及を始め、通常国会の予算審議で高市首相が矢面に立つのは避けられない情勢になった。通常国会を乗り切る自信を失ったに違いない。
ここで支持率が下がれば、6月解散に踏み切れなくなる。そうなると、自民党内ではいつまでも麻生氏に頭が上がらず、国会では国民民主党に譲歩を重ねなければならない。支持率が高い今のうちに先手必勝の解散総選挙を断行し、そこで圧勝して政権基盤を固め、麻生氏からの自立を図った──というのが真相であろう。麻生氏に反対されることを恐れ、事前に一切の相談をすることなく、読売新聞に1月解散をスクープさせたのだ。
麻生支配からの自立を賭けた先手必勝
高市首相は、自民党執行部を牛耳る麻生氏との党内闘争に勝ち、官邸主導の政治体制を確立するため、「支持率が高いうちの1月解散」に踏み切ったといっていい。
高市首相は勝敗ラインを「自民と維新の与党で過半数(233議席)」とし、「進退をかける」と宣言した。ただ、今でも自民と維新、維新を離党した3人でギリギリ過半数を確保している。「与党で過半数」は、ほぼ現状維持だ。これでは抜き打ち解散に激怒した麻生氏をはじめ、自民党内は収まらない。
高市首相が堂々と勝利宣言するには、少なくとも自民党の単独過半数は必要だ。さらに官邸主導の政治体制を確立するには、250〜260議席の地滑り的勝利が不可欠であろう。
想定外の新党結成がもたらした波紋
高市首相の誤算は、突然の1月解散にあわてた立憲民主党と公明党が、一気に新党「中道改革連合」を結成したことである。
立憲も公明も支持率低迷にあえいでいた。どちらも支持層が高齢化し、若者・現役世代にそっぽをむかれていた。若い世代に人気の国民民主党や参政党の勢いに、完全に押されていたのである。
このまま総選挙に突入すれば両党とも大惨敗が免れない状況だった。崖っぷちに追い込まれ、手をつないでルビコン川を渡るしかなかったのだ。高市首相の決断が、両党の背中を押し、新党結成を誘発したといっていい。
連立を離脱した公明党が単独で総選挙を戦うのなら、26年間の自公選挙協力で培ってきた全国各地の信頼関係は崩れず、一定の票を得られると自民党は安心していた。ところが、新党結成となると、さすがに公明票の多くが自民を離れ、相手候補に流れてしまうとあわて始めた。実際、マスコミ各社は公明票が自民から中道に流れると、30〜50の選挙区で逆転現象が生じるという試算を報じ始めた。
国民民主の大量擁立という逆転の方程式
麻生氏率いる自民党執行部の対抗策は、国民民主党との連携強化だった。国民の玉木雄一郎代表や榛葉賀津也幹事長は抜き打ち解散を断行した高市首相には不信感を強めつつも、麻生氏との信頼関係は維持している。国民民主党は立憲と「お互いに現職には対抗馬をぶつけない」ことで合意していたが、玉木代表は立憲が公明と新党結成をしたことを機に、全面的にリセットを宣言。全国各地の立憲現職の選挙区に容赦なく対抗馬をぶつけ始めた。
国民民主は全国289選挙区のうち102選挙区に候補者を擁立。全国各地で「自民VS中道」の一騎打ちは崩れ、政権批判票は割れ、自民候補を利するケースが続出するだろう。東京はとくにすさまじい。30選挙区のうち27選挙区に立てたのだ。
国民民主の大量擁立作戦は、おそらく麻生氏と綿密にすり合わせたものであろう。国民民主は比例票の上積みを狙うとともに、小選挙区で中道の得票を減らし、間接的に自民をサポートする。その先に、総選挙後の国民民主の連立入りを見据えているのは間違いない。
中道が新党効果で新たに得る票と、国民民主の大量擁立で失う票。このどちらが多いかが選挙戦の行方を大きく左右する。
公明票の実態と選挙結果の分岐点
私は、公明票が小選挙区の中道候補(立憲系の候補)にすべて乗ることはあり得ないとみている。これまで自民党を応援してきた創価学会員たちには立憲へのアレルギーがけっこう強い。急転直下の解散総選挙で、いきなり立憲への投票を促されても、投票意欲はわかない。まして選挙活動が鈍るのは当然だ。公明候補が小選挙区から完全撤退し、比例名簿で上位優遇されるのも、学会員たちの選挙運動の熱意を下げるだろう。
理由はそればかりではない。公明票は創価学会員の票だけではない。公明党が与党だから獲得してきた票もかなりあるのだ。
まずは、自民党とのバーター票。小選挙区で自民候補を応援する代わりに比例では公明に投票してもらった票だ。そして業界票。公明党は国土交通大臣のポストを独占してきた。ゼネコン業界は公明党の大応援団になっていたのだ。このバーター票と業界票は、公明党が野党に転じて立憲と組んだ瞬間に消える票である。これらは今回、自民党へ戻る。
私は、新党合併の効果よりも、国民民主の大量擁立作戦による政権批判票の分散効果が大きく、小選挙区では自民が中道をかわすケースが続出するのではないかと現時点ではみている。
もちろん選挙は投票箱が開くまでわからない。中道が立憲と公明のイメージを刷新し、世代を超えた期待感を短期決戦で集めることができるのか。ここが最大のポイントだ。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝ら幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約18万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)、『政治家の収支』(SB新書、24年)。
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