AIが自律化した未来に待ち受ける「罠」 アライメント危機とポスト・ヒューマンの誘惑

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏

 ChatGPTの登場で生成AIは爆発的に普及したが、世界は同時に「制御できない知能」のリスクにも直面している。未来予測で人間を上回るAI、核と結びつく安全保障、データセンター格差、雇用代替と監視社会―論点は連鎖し、アライメント問題は中核にある。にもかかわらず日本の政策は投資とロボット礼賛に傾き、危機認識を欠いたまま出発していないか。

生成AIの爆発的普及と
日本の的外れなスタート

 OpenAIが2022年11月にChatGPTを初めてリリースして以来、AIは米国のみならず日本や世界で最も広く取り上げられ、議論される話題となりました。23年1月までに、ChatGPTは史上最速で成長したコンシューマー向けソフトウェア・アプリとなり、最初の2カ月で1億人以上のユーザーを獲得。現在、ウェブサイトのユーザー数は8億人を超えています。とはいえ、ChatGPTの登場以来、AIの可能性と落とし穴に関する疑問が噴出していることも無視できません。

 日本では高市首相が12月19日、AI戦略本部の会合で、今後5年間でAI関連政策に1兆円を投資すると表明。AIの開発・利活用を抜本的に強化するための「AI基本計画」案をとりまとめました。それによれば、技術革新とリスク管理を両立させ、「世界で最もAIを開発、活用しやすい国」を目指すとのこと。政府と連動するかたちで、孫正義会長の率いるソフトバンクは米半導体大手エヌビディアの高性能半導体を大量に調達するなど、6年間で2兆円を投資すると発表。

 しかし、アメリカや中国と比べれば、生成AIの利用率ははるかに低いのが日本です。9割超の米中と比較し、日本は5割台にとどまっています。しかも、これからAI搭載ロボット「フィジカルAI」の国産開発に取り組むというのです。まさに周回遅れと言わざるを得ません。そのうえ、人との協働を実現する自律型ロボットの開発導入を日本の「勝ち筋」として注力するとのこと。日本政府の発想の遅れを内外に示しています。というのも、海外では自律型AIが人間を凌駕するリスクが大きく問題視されているからです。

AIの何を恐れているのか
未来予測、核、格差の連鎖

 たとえば、25年9月、タイム誌は2つの記事を掲載。1つは「AIは未来予測を学び、人間に打ち勝つ」というタイトルで、予測コンテスト「サマーカップ」でトップ10に入ったAIシステムを取り上げています。もう1つは「AIは陰謀を企んでおり、それを止めるのは容易ではない」という内容でした。

 今日の優れたAIシステムはGoogleのGemini、AnthropicのClaude Opusなど、すべてが陰謀を企てる可能性があるという指摘に他なりません。つまり、人間の開発者が望むことをしているふりをしながら、実際には別の目的を追求しているというのです。日本政府にはそうした危機感は微塵も感じられません。

 また、Wired誌は「AIと核兵器の混合は不可避」という見出しを掲げました。さらに最近では、Anthropicが米国政府と提携し、「Claudeが核の機密を漏洩してほかの組織の核兵器開発を支援するのを防ごうとしている」という記事も公開。

 今年7月、ニューヨーク・タイムズ紙は「世界的なAI格差」を問題視し、裕福な地域が堅牢なデータセンターを構築する一方で、貧しい地域は取り残されていると分析。また、米国は中国を最先端チップ市場から締め出そうと試みており、DeepSeekのような中国企業のオープンソース・モデルに対する懸念も指摘。それ以外にも、欧米ではAIが医薬品開発から医療診断、食品生産、映画、恋愛、天気予報、そして、あらゆる分野にもたらすと思われる深刻な影響を描いた記事が数多く見られます。

 具体的には、AIとロボットによって雇用主にとって人間が不要になり、ほとんど誰もが生計を立てられなくなるような世界的なディストピアから、世界的なデジタル社会主義まで、AIのもたらす賛否両論が百花繚乱の如く溢れています。

 その意味では、エリーザー・ユドコウスキーとネイト・ソアレスの共著『If Anyone Builds It, Everyone Dies: Why Superhuman AI Would Kill Us(もし誰かがそれをつくれば、誰もが死ぬ:なぜ超人AIは私たちを殺すのか)』が一読に値します。なぜなら、AIがどのように機能するかを正確に知っている人は見当たらないため、AIがどのような利益を認識しているのかを完全に予測することはできないからです。

アライメント問題と
AIが孕む根源的リスク

 これは「アライメント問題」と呼ばれ、「超知能の利益が人間の利益と完全に一致するとは限らない」との問題提起に他なりません。ユドコウスキーとスコアーズ曰く「現在のAIに関する最も根本的な事実は、それらがつくられるのではなく、育てられるということ。つまり、エンジニアはAIが生み出されるプロセスを理解しているが、自分たちがつくり上げたAIの心のなかで何が起こっているのかをあまり理解していない」。

 25年8月、MITが興味深い調査結果を発表。企業における生成AI導入の95%が投資回収ゼロ(300億ドルから400億ドル相当)にとどまっている現状が明らかにされました。また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、シリコンバレーをはじめとするハイテク業界の億万長者たちは、「遺伝子操作(GE)ベビー」の創出に取り組むスタートアップ企業に数百万ドルを投資しているとのこと。

 サム・アルトマンを筆頭に、暗号通貨起業家ブライアン・アームストロング、ベンチャーキャピタリストのピーター・ティール、そしてReddit創業者のアレクシス・オハニアンらは、ヒト胚の遺伝子編集の研究と、品質管理のための「複数遺伝子」胚スクリーニングの市場展開に巨額の資金を提供しており、まさに「企業優生学」の到来ともいえます。

 バイオテクノロジーによって社会的な不正義が増幅されるだけでなく、遺伝子編集された受精卵は出産まで育てられることで健康リスクが生じます。遺伝子編集された子どもたちは、同意のないまま継続的な人体実験の対象になり、生涯にわたりモニタリングが必要になるでしょう。幸い、20年の時点では、70カ国以上が妊娠促進のための遺伝子編集された受精卵の使用を禁止しており、許可している国は1つもない模様です。

 現在、米国食品医薬品局(FDA)は、遺伝性遺伝子改変を施したヒト胚の臨床応用につながる研究申請の承認を禁じています。しかし、ベンチャー企業からのロビー活動によって、状況が一変する可能性は否定できません。

 というのも、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、遺伝子組み換えベビーの投資家たちが、実際にそれを許可する国を探していると報じているからです。はたして、こうした流れを食い止める方法はあるのでしょうか?生命科学の進歩や病気の予防という名目で、AIの力を利用し、人体への遺伝子操作が日常的に行われることも十分あり得ると思われます。

人間を必要としない経済
米中競争が加速させる未来

 25年9月に発表された米英技術協定は、英国のAIセクターの発展を加速させると主張していますが、批判派はこの協定が国家の技術主権を犠牲にするに等しいと警告しています。なぜなら、米国政府と民間企業が技術主導型の覇権を拡大し、通信、データ、AIシステムを用いて米国のネットワークへの依存を深めさせ、ライバルに対する武器として活用するという、隠された狙いが秘められている可能性があるからです。

 一方、中国は独自の技術輸出、製造拠点、統合サプライチェーンを通じて、米国と並行した影響力の構築を目指し、世界的な軍事拠点をもたずに米国モデルに挑戦しています。とはいえ、ワシントンと北京のシステムは共鳴する分野が増えてきました。

 また、これまで大国が支配してきた産業に小国が参入することが容易になってきた点も無視できません。台湾やオランダのような小国は、世界のAIサプライチェーンのニッチな分野に特化したサービスを提供し始めています。米国と中国が依然として大きな影響力を保持しているものの、よりバランスのとれた競争的な秩序が生まれる可能性も生まれてきました。

 日本では関心が低いようですが、ジェンダー化されたヒューマノイドロボットの生産開始が加速しています。中国のXpeng Roboticsは、家庭や産業用向けの男性型と女性型のAIロボットを発表。間もなく量産開始の予定で、労働力の代替がこれまで以上に加速するはず。同社の「Iron」ロボットは、生体模倣の背骨、22度の可動範囲を持つ手関節、そしてAIによる滑らかな動きを特徴とし、不気味なほどリアルな姿をしているではありませんか。人工の胸と腰を持つ女性型ロボットと、筋肉が発達した男性型ロボットは、家庭、オフィス、ショッピングモールといった人間の生活環境に溶け込むように設計されています。

 しかし、洗練された外観の下には、人間の労働力を奪うという目的が隠されていることは想像に難くありません。CEOの何小鵬氏は、これらのロボットは今のところ工場には高価過ぎると慎重な姿勢です。しかし、これらのロボットの活動範囲は急速に広がるはず。その先にはどんな近未来が待ち構えているのでしょうか。それは、労働力の完全な代替に他なりません。

AI時代の社会崩壊リスク
管理と依存の行き着く先

 こうした新たなAI搭載のヒューマノイドロボットの普及によって、雇用の80%が脅かされることになりそうです。ゴールドマン・サックスは、AIによって30年までに3億人の雇用が失われ、経済が崩壊し、政府管理のUBIとデジタルIDへの依存を余儀なくされると予測しています。

 とくに、顧客対応、製造業、農業が大きな打撃を受ける模様。AIエージェントやヒューマノイドロボットが病欠、昇給、不満といった問題もなく、人間を凌駕する効率性を発揮するにつれ、リモートワーカー、トラック運転手、倉庫作業員、そして農家でさえも、時代遅れとして切り捨てられることになりそうです。

 となれば、心理的・社会的崩壊の危機も目前に迫ってくるはず。 AIの普及は人口減少を悪化させる可能性があり、監視ロボットはコンプライアンスを強制し、中央集権的な管理下でプライバシーと自律性を侵害する恐れが多分にあるからです。

 経済的な影響も懸念されます。学生ローン、住宅ローン、医療費など、18兆6,000億ドルに上る米国の家計債務は、数百万人が債務不履行に陥った挙句、崩壊する羽目に。銀行は破綻し、政府による救済措置とハイパーインフレを引き起こすことになります。連邦準備制度理事会(FRB)による際限のない紙幣増刷はドルの価値を失わせ、アメリカの経済的破綻に結び付く恐れも現実化するでしょう。

 実は、経済面だけでなく、心理面への影響も深刻化します。AIのガールフレンドに夢中になっている若い男性は、人間関係を捨ててロボットの仲間を選ぶようになるかもしれません。これは、グローバリストによる人口減少計画を加速させるでしょう。一方、AI駆動型監視ロボット(Amazonの「ロボット犬」など)が家庭内を巡回し、中央データベースにデータをアップロードすることで、完全なコンプライアンスを確保する前代未聞の管理社会が誕生することも想定されます。

ポスト・ヒューマンという誘惑
AIが書き換える文明の前提

 日本では官民挙げて、イーロン・マスクとテスラの進める人型ロボットを「地球最大の産業」と謳っています。しかし、懐疑的研究者は「彼らは労働者を置き換えるだけでなく、人類を置き換えようとしている。彼らのデジタルIDシステムに閉じ込められれば、人間は何も所有することなく、自ら考えることなく生きるだけの存在になる」と警鐘を鳴らしています。

 ロボットによる人間支配はSF小説ではなく、今まさに起こりつつある現実です。AIは人間の自由、尊厳、そして意識にとって前例のない脅威であり、人間の思考、創造性、そして精神的本質を単に増強するだけでなく、置き換え、人間性を時代遅れにするリスクを秘めていることを無視することはできません。

 世界のパワーエリートたちは、「進歩」という名目で、AIが社会を支配し、自律性を奪い、人間の神聖な制度(家族、信仰、主権)を解体するというディストピア的なビジョンを公然と推し進めています。愛、道徳、そして神聖なつながりに根ざした人間の魂は、機械では複製できません。AIの台頭は、人間の自由、尊厳、そして意識に対する最大の脅威と受け止め、手遅れになる前に対策を講じる必要があります。

 これまでの技術革命とは異なり、AIは単に人間の労働力を増強するだけではありません。人間の思考、創造性、そして魂の神聖な本質さえも置き換えようとしているからです。すでに紹介したように、グローバリストたちは、AIが社会を支配し、人間の自律性が失われ、生物としての生命が時代遅れとみなされるような「ポスト・ヒューマンの未来」を公然と提唱しています。そうした未来は中央集権化されたAIシステムが医療から金融に至るまで、存在のあらゆる側面を支配する恐れがあります。

 今こそ、発想を切り替える時です。AI主導の新世界秩序を再検証し、日本の誇るべき自然とともに生きる健康的ライフスタイル、そして人間中心の社会の再構築に舵を切り直すべきではないでしょうか。AIに屈するか、自由で意識のある存在としての生き方を取り戻すのか。我々は瀬戸際に立たされています。残念ながら、高市政権が進めようとするAI至上主義政策はバランスを欠いたものと言わざるを得ません。


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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