ニデックの創業者永守氏の経営問題:犯罪性と今後の見通し(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 会計不正に続き、1,000件超の品質不正疑惑が浮上したニデックは、業績面でも深刻な打撃を受ける可能性がある。車載事業の売上減少、顧客への補償、契約損失、品質認証の取り消しリスクなどを合わせれば、追加損失は最大1,000億円規模に膨らみかねない。6月の株主総会では、永守重信氏の影響力を断ち切る「脱・永守」改革の本気度と、「物言う株主」オアシスの責任追及要求が正面から問われることになる。

品質不正が業績に与える
深刻な打撃

 業績への具体的なマイナス影響の試算は以下の通りです。まずは、車載事業の売上高・営業利益への打撃ですが、ニデックの車載事業(売上高1兆円弱)において、不正による売上訂正や顧客への仕様是正処置が必要となることで、約500億〜1,000億円規模の売上高影響が出る模様です。これにより、会社全体の通期営業利益見通し(約2,800億円)の約20%に相当する「500億〜600億円」の利益が押し下げられる計算になります。

 次に、リコールおよび顧客(自動車メーカー等)への補償金ですが、数百億円規模に達するものと懸念されています。現時点で「安全性に直ちに影響する問題は見つかっていない」とされているものの、自動車メーカーや家電大手が「契約違反」として部品の交換やライン停止にともなう補償を求めてきた場合、過去の製造業の事例から数億〜数百億円規模の補償金が発生しかねません。

 加えて、すでに計上された「巨額の契約損失・トラブル和解金」(約560億円)もあります。品質軽視の経営風土はすでに数字に表れており、子会社のニデックモビリティが無理な受注による開発頓挫で「契約損失引当金」364億円を計上したほか、欧州自動車大手ステランティスとの合弁事業を巡るサプライヤーとのトラブル和解金として194億円の債務の計上を余儀なくされている模様です。

 さらには、是正処置・国際認証の取り消しリスクが数十億円も発生します。自動車業界の厳格な国際品質規格である「IATF16949」の認証取り消しや一時停止になれば、新規の受注が完全にストップします。再認証や工場の管理体制のやり直し、および8月までに全容を解明する臨時の「品質調査委員会」の運営費用だけで、さらに数十億〜100億円規模の追加コストがかかるはずです。

 オアシスはニデックの技術力を評価しつつも、「1,607億円の会計不正」と「1,000件超の品質不正」という二重の闇を生み出した永守氏の責任を法廷で追及せよと迫っており、業績面でも「最大1,000億円規模の追加の損失・コスト」がニデックの財務を直撃する見通しです。

株主総会で問われる
「脱・永守」の本気度

 26年6月18日に開催されるニデックの定期株主総会は、会社側が提案する「取締役刷新案」と、オアシスが求める「永守氏への法的責任追及および独自取締役の選任」が激突する委任状争奪戦の場となります。

 注目点の第1は国内外の機関投資家の動向です。ニデックの株主構成は、約3割を海外の機関投資家が占めています。議決権行使助言会社大手のISSやグラスルイスは、「1,600億円規模の会計不正」と「1,000件超の品質不正」を長年見過ごした現経営陣の責任を極めて重く受け止めているわけです。助言会社がオアシス側の提案(旧経営陣への損害賠償請求の義務付けなど)に賛成を推奨した場合、海外投資家が一斉にオアシスに同調し、会社側の想定を超える「株主反乱」が起きる可能性が非常に高いと予測されています。

 第2は会社側(岸田社長)の防衛策と「10人の社外取締役」の在り方です。ニデック側はオアシスからの「ガバナンス機能不全」という批判をかわすため、取締役の過半数を社外取締役(13人中10人)に差し替える「大刷新案」を自ら提示しました。岸田光哉社長は「すでに自浄作用は働いており、外部ファンドによる急進的な介入は不要である」とほかの大株主(国内の信託銀行や生保など)に支持を訴え、オアシス案の否決に向けた多数派工作を必死に進めていますが、その成り行きは予断を許しません。

 オアシスは、かつてフジテックを落とした時とまったく同じ「外堀を埋めて内側からカリスマを追い詰める」という必勝の方程式をニデックに適用しています。6月18日の株主総会は、岸田現社長が提示する「脱・永守」の改革案が株主に信頼されるか、あるいはオアシス主導の「強硬な膿出し」が支持されるか、ニデックの命運を決める歴史的な一日となるでしょう。

12%強の議決権がもつ防衛力と限界

 永守重信氏の個人資産管理会社である「 エスエヌ興産 」は、永守氏個人の保有分と合わせてニデック全体の約12%(親族など含めると13%強)の議決権を握る筆頭株主です。この「12%強」という数字は、株主総会におけるプロキシファイト(委任状争奪戦)で以下のような極めて重い意味(防衛力と限界)をもちます。

 なぜなら、単独での否決(防衛)は不可能で、一般議案の可決ラインは50%超となるからです。オアシスが提案する「取締役の選任」や「旧経営陣への損害賠償請求」といった株主提案は、出席株主の議決権の「過半数」で可決されます。永守家がもつ12%強の議決権はたしかに巨大ですが、単独でオアシス側の提案を否決することは物理的に不可能です。

 そのため、「国内の安定株主(生保・信託銀行)」を味方に引き込めるかが焦点となります。永守氏とニデック経営陣が防衛を成功させるには、12%の身内票をベースに、日本の機関投資家(信託銀行、生命保険会社、地方銀行など)をどれだけ味方(会社提案賛成・オアシス提案反対)につけられるかにかかってくるわけです。

 しかし、1,607億円の会計不正と1,000件超の品質不正という凄惨なガバナンス不全が露呈したため、これまで「物言わぬ株主」だった国内の金融機関も、自らの受託者責任をはたすために会社側への反対票やオアシス側への賛成票を投じるリスクが高まっており、ニデックにとっては厳しい状況が想定されます。

オアシスが狙う
ワンマン企業への波状攻撃

 別件ですが、エンタメ・メディアセクターのKADOKAWAのトップ解任劇もあり得る話です。オアシスは、「KADOKAWA」の株主総会において、夏野剛CEOの再任に対し「反対票」を投じるようほかの株主へ呼びかけるキャンペーンを展開中です。度重なるサイバー攻撃への対応遅れや、経営トップのガバナンス意識の低さを問題視しており、ワンマン色・身内意識の強い日本のエンタメ業界もターゲットにしようと目論んでいます。

 いずれにせよ、永守氏の資産管理会社だけではオアシスの「フジテック流の方程式(外堀を埋めてカリスマを退任・提訴に追い込む手法)」を止めることはできません。そして市場では「ニデックの次はカナデビアやKADOKAWAか」といったように、日本の古いガバナンスに甘んじてきたワンマン・老舗企業セクター全体へのオアシスの「ドミノ式・波状攻撃」が本格化することが視野に入ってきました。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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