米・イスラエルとイラン戦争(20日目)―「真珠湾」奇襲作戦と高市首相の訪米―(前)
日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎理事長)より、(有)エナジー・ジオポリティクス代表・澁谷祐氏による「米・イスラエルとイラン戦争(20日目)―『真珠湾』奇襲作戦と高市首相の訪米―」と題する記事を提供していただいたので共有する。
はじめに
19 日(現地時間)、トランプ米大統領は、ホワイトハウスの大統領執務室で訪米中の高市首相との和やかな会談を行った。その途中で、米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦について、同盟国に事前通告しなかったと語り、これが奇襲作戦だったことを明らかにした。これを高市氏に向かって「パールハーバー(真珠湾)」と呼び、記者団は一瞬静まり返った。
さて、対イラン奇襲作戦は 20 日目を迎えた。イランは無差別攻撃の復讐心に燃えて、近隣の親米国を狙ってドローンなど非対称作戦で応酬する構えを崩していない。イラン・リスクのため原油価格はバレルあたり110ドル超の記録的な高値に達した。そのなかで日米首脳会談は5,500億ドルの対米戦略投資の第 2 弾について最終検討した。それとの関係で石油の日米共同備蓄論がスクープされたところ、批判も多い。
本稿の最後のパートに、「新・コラムニスト」として、シナリオ・プランニングの第一人者である「油滴山人」氏が登場する。現代エネルギー世界を知る上でまたとない機会である。
トランプ氏
「真珠湾攻撃を事前に知らせてくれたら」
前掲の通りトランプ氏はイラン奇襲作戦について次の通り記者団に語った。
「誰にも知らせなかった。奇襲にしたかったからだ。日本ほど奇襲に詳しい国があるだろうか?」と述べると、高市氏の方を向き、「日本はなぜ真珠湾攻撃(パールハーバー)を知らせてくれなかったのか?」と軽口をたたいた。
(筆者もテレビモニター画面を見ていたが、通訳を介して話していた高市氏は何も言わず、椅子の上で身じろぎ、ため息をこらえているようだった)
さて、首脳会談における無礼で不謹慎とも思われるトランプ氏のいつもの口調だろうか。他国の首脳との会談ではどうだったか、を調べた。
実はこれと同じ光景は昨年、トランプ氏がドイツのメルツ首相と会談した際にもあった。AFP通信によれば、第二次大戦の際、連合国が勝利につなげたノルマンディー上陸作戦について、「あの日はドイツにとって楽しい日ではなかったのでは?」と問いかけた。これに対しメルツ氏は、「長期的には、これはわが国をナチスの独裁から解放した出来事だ。ドイツは米国に恩義を感じている」ときまじめに答えたという。
日独首脳を前にトランプ氏はジョークではなくディールを求めているのだろうか。つまり、昨年の「12 日間戦争」といま展開中の米軍の「壮大な怒り」作戦もいずれも奇襲だった。AI を駆使し徹底した秘密作戦と交渉の停滞のスキを突き、首脳陣の斬首作戦でイランを圧倒して、大成功した。トランプ氏は「これのどこが悪い。なぜ?」という真っ向からの主張だから参る。おそらく、「これから停戦までの対イラン作戦は事前に同盟国に知らせたくない」ということだろう。
トランプ氏の呼びかけで、ホルムズ海峡の護衛艦隊の募集に積極的に手を挙げた国は見当たらないのは当然か。しかし、ある情報専門家は、「敗戦国だった日独トップを相手にしたトランプ氏の一見軽妙な発言だったが、急所を突いている。だが、これでは凡人の NATO 各国首脳のプラスの反応を期待するのもまちがいだ」と語る。
IMO、安全航行回廊の設置を決議
イラン戦争の「出口戦略」を示さずに、停戦を急ぐ勝手なトランプ氏の行動に世界は振り回されているが、ホルムズ海峡の安全航行を守る最大機関が IMO(国際海事機関)である。
19 日、国連組織の1つである国際海事機関(IMO)事務総長アルセニオ・ドミンゲス氏は、ホルムズ海峡の閉鎖と船舶・船員に対する脅迫や攻撃を強く非難し、安全航行の枠組みと人道回廊設置に向けた交渉に直ちに着手するよう声明した。
具体的には、ホルムズ海峡の東側に停泊している貴国の旗を掲げるすべての船舶に対し、海峡の西側を航行して不必要な危険を冒さないよう要求する内容である。ドミンゲス事務総長は、ロンドンにおける IMO 臨時理事会で、国際法に従って商船および商業船舶が航行の権利と自由を行使することは尊重されなければならないことを強調した。国際法が嫌いなトランプ氏の耳に届いたかどうか疑わしい。
日米戦略投資と
サプライチェーン構築修正か
本誌冒頭の日米首脳会談において発表された日米間の共同投資(資料参照)について、第 2 陣プロジェクトの眼玉は、先進的な小型モジュール炉(SMR)の米国における画期的な商業化である。次世代の大規模な安定電源をもたらし、米国国民の電力価格を安定させるとともに、世界的な技術競争における日米のリーダーシップを強化すると期待されると米国側は強調する。
また、2つの天然ガス発電施設は、急速に増大する電力需要を満たす上で極めて重要な役割をはたすとともに、(第 1 陣で合意した)米国産原油の輸出インフラ・プロジェクトも「経済安全保障上」重要な戦略分野においてサプライチェーンを構築するうえでの日米間の協力を強化する。
なお、筆者は、「米国産原油の輸出インフラ」案件がここ(第 2 陣)にわざわざ取り上げられたことに質的な変化を感じた(下線部分を参照)。
資料:ファクトシート:日米間の投資に関する共同案件(エネルギー)(経産省 HP より)
第 2 陣プロジェクト(3 月 19 日)
・GE ベルノバ日立によるテネシー州およびアラバマ州における小型モジュール炉(SMR)の建設(推定額:最大 400 億ドル)
・ペンシルベニア州における天然ガス発電施設の建設(推定額:最大 170 億ドル)
・テキサス州における天然ガス発電施設の建設(推定額:最大 160 億ドル)
<参考>
第 1 陣プロジェクト(2 月 17 日)(一部既報)
・工業用の人工ダイヤ製造プロジェクト(推定額:約6億ドル)
・米国産原油の輸出インフラ・プロジェクト(推定額:約 21 億ドル)
・天然ガス発電プロジェクト(推定額:約 333 億ドル)
(第一陣プロジェクトについて詳細は、本誌第 21 号=2 月 17 日を参照)
アラスカ原油の備蓄か
LNG の優先確保か
イラン情勢の急変のため、高市首相は 3 月 11 日に、過去最大となる 45 日分(約 8,000 万バレル)の国内石油備蓄の放出を決定した。その発表は日米首脳会談の開催(19 日)を間近に控えていたので注目を集めた。
日米合意によって、日本で放出した後の空きタンクを日米共同利用して、米国産の原油を搬入すれば、Win-Winになるというアイデアだ。ほぼ同時のタイミングで、アラスカ産原油の増産に向けた協力について両国が合意する方向で調整している、と各メディアが報じた。
そこで早合点して、共同備蓄用に使用する原油はアラスカ産にちがいないとの観測が強まった。それを上書きするかのように、第 1 陣のプロジェクトで決まった予算額を利用できるという皮算用である。
しかし、改めて 19 日の日米首脳会談後の文書を読むと、日米の石油共同備蓄について文言を探したが、結局見つからなかった。おそらくイラン情勢の急展開のなかでかすんでしまったのかもしれないが、真実は分からない。
ところで、いま緊急性に鑑みて、いま日米間(とくに日本)に必要な選択肢は石油より LNG(液化天然ガス)ではないか(本誌 2 月 17 日号)。日本の本当の脆弱性は、原油ではなく LNG にある。原油の備蓄は 254 日分あるが、LNG の在庫は約 3 週間分しかない。ホルムズ海峡封鎖が長期化した場合、先に破綻するのは LNG・電力系統であるだろう。その点を強調するのがエネルギー専門家の大場紀章氏である。一読をお薦めする。(「日米首脳会談で注目されるアラスカ原油で『脱中東』は可能か」、出典:Yahoo!ニュース)
(つづく)








