政治経済学者 植草一秀
日本国民の多くがメディア報道に流される。本来は国民自身が本物と偽物を見分ける力を持たなければならない。しかし、情報が不足している面で汲むべき事情はある。メディアが国民が知るべき情報を丁寧に伝えるべきだが、メディアが歪んでいるのだ。
メディアは、国民に正確な情報を伝えることより、メディア資金源、あるいはメディア支配者の意向に沿う事実を歪めた情報を流す。その結果、国民は正しい情報を入手できず、メディアの誘導にそのまま乗ってしまう。
高市内閣が発足した瞬間、政権の最優先課題は「政治とカネ」問題への対応だった。高市新体制が「企業団体献金全面禁止」を提示して当然だった。だが、高市首相は問題への対応を放棄。ゼロ回答を示した。本来ならメディアが集中攻撃するべきところ。だが、メディアは一切攻撃しなかった。メディアが適正に批判していれば高市内閣は出発点で高支持率を得ることはなかったはず。メディア全面支援で高支持率が「創作」された。
米国によるイラン軍事侵攻が実行されて高市氏は訪米した。高市氏が言うべきことは「国際法違反、国連憲章違反のイラン軍事侵攻をやめろ」だった。当たり前のことだ。ところが、高市氏が放った言葉は「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドしかいない」。正気の沙汰ではない。
これで日本とイランとの対立は鮮明になった。ホルムズ海峡が封鎖されて日本に甚大な影響が広がる。日本が消費する原油の9割がホルムズ海峡を通過して運ばれる。この経路が断たれれば日本は存立できなくなる。これが本当の「存立危機事態」。
原因はどこにあるか。米国が国際法違反、国連憲章違反の軍事侵攻を行ったことにある。国際社会は連携して国際法違反、国連憲章違反の米国に軍事行動をやめるように圧力をかける必要がある。実際に欧州諸国は米国に対して厳しい指摘を示している。
イランの対応はどうか。イランは国際海事機関(IMO)に提出した声明の中で、「非敵対船舶」については関係当局と連携して安全保障規則を順守すれば、エネルギー輸送の要衝ホルムズ海峡を通過できると述べた。
高市首相が日本国民の利益を最優先に考えるなら、国際法違反、国連憲章違反の米国を非難しつつ、イランと交渉して日本船舶のホルムズ海峡通過の許可をイラン政府に求めるべきだ。あたりまえのこと。高市首相の行動は真逆。イラン軍事侵攻を指揮した米国のトランプ大統領に対して「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」と絶賛した。
イランが発した声明は「非敵対船舶は、イランに対する侵略行為に関与も支援もしておらず、かつ宣言された安全保障規則を完全に順守することを条件として、関係当局と連携してホルムズ海峡の安全な通過を享受できる」とし、「侵略当事者、すなわち米国とイスラエル政権、およびその他の侵略参加者に属する船舶、資産は、無害通航または非敵対通航の対象とはならない」とした。
日本がイランへの軍事侵攻を指揮したトランプ大統領を絶賛すれば、日本船舶は通過許可を得られない。その結果、甚大な悪影響が日本国民に降りかかる。その全責任は高市首相にあると言って間違いない。
米国に媚を売り、国際法違反、国連憲章違反の米国を絶賛する。イランは日本に対して対話の機会を提供するが日本が行動しない。日本政府は中国に対して「中国との様々な対話についてオープンであり、扉を閉ざすようなことはしていない」と日本に非があることをわきまえない物言いを示す。この物言いを使うなら、高市氏がイランへの軍事侵攻を指揮したトランプ大統領を絶賛しているにもかかわらず、イランが日本に対して様々な対話にオープンで扉を閉ざしていないことに感謝するべきだ。そして、日本の国益、国民の利益を最優先に考えてイランと対話すべきだ。
イランは米国の国際法違反、国連憲章違反の行為について、日本も適正に明言すべきだと求めるだろう。それに正面から答えられないから、せっかくイランが対話の扉を開いているのに対応できないのではないか。
資源は日本のアキレス腱。原油調達を断たれれば日本国民の生活は成り立たない。医療関係の物資が欠乏すれば命の問題に直結する。
中国は一帯一路で物量の大動脈を形成してきた。この効果がいま発揮されている。同時にイランは中国籍船舶の通過を認めている。日中友好が維持されていれば、中国も日本にとって大きな力を与えてくれている局面だ。
ユーラシア大陸の原油大国は実はロシアである。ロシアは原油立国。日本がロシアと適正な関係を維持していれば、ロシアが日本に対するエネルギー供給の役割を果たしてくれているだろう。
ウクライナでの戦乱拡大の元凶は米国だ。米国がロシアの軍事行動を誘発した。ウクライナで戦乱拡大の経緯を精密に分析もせず、米国にただ隷従してロシアだけを非難し続けてきた。その結果として日ロ関係が最悪の状況に転落した。米国にひれ伏し、米国にただ隷従するだけの日本外交がいま、日本国民が苦しみにあえぐ元凶になっている。
11月7日の高市発言は明らかな暴言。「過ちて改むるに憚るなかれ」。鳩山元総理が孔子の言葉を引用して高市首相に適切なアドバイスを提供した。ところが、高市首相はせっかくの助言に耳を傾けない。これでは国のトップは務まらない。
外交の要諦は「是を是とし、非を非とすること」。間違った発言をしたなら謙虚に誤りを認めて謝罪する必要がある。間違っているのに間違ってないと言い通そうとすることが問題を深刻化させる原因になる。
これは高市首相の性格から来るものなのか。女子高生の間で流行っているとされる「サナエ過ぎ」という言葉。
その意味は
「服でマウントを取る」
「作り笑顔がキモイ」
「アドリブでコケる」
「そんなことよりが口癖」
「絶対撤回しない」
「絶対謝らない」
「人のせいにする」
「最後は開き直る」
だという。
本当かどうか知らないが、内容は的確だと感じられる。なかでも
「絶対撤回しない」
「絶対謝らない」
はダメだ。
国家と国民が蒙る被害が甚大になる。台湾有事発言を撤回し、米国の国際法違反、国連憲章違反を冷静に指摘して米国に軍事侵攻をやめることを強く求めるべきだ。高市首相が拒絶するなら日本国民は高市首相を退陣に追い込む必要がある。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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