国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
米軍やイスラエル軍の激しい攻撃にもかかわらず、イランの石油輸出はホルムズ海峡を通過し続けており、ブルームバーグの調査によると、3月には1日あたり推定1億3,900万ドルの収益を上げたとのこと。それによれば、この日次収益は、イラン産軽質原油による2月の平均日次収益1億1,500万ドルから約2,500万ドルも増加している模様です。イランの石油輸送の堅調さは、戦略的に重要なこの海峡を通過できない他の湾岸産油国の状況とは対照的といえます。海事情報会社Windwardは3月26日、「イラン産原油の輸出量は安定している」と発表したばかりです。
戦時下でも増えるイランの石油収入
イラン産軽質原油と国際指標であるブレント原油とのディスカウント幅は大幅に縮小しています。危機前のディスカウント幅は1バレルあたり10ドル以上でしたが、今週の価格は1バレルあたり約2.10ドルです。この価格差の縮小と世界的な価格上昇が相まって、テヘランが各出荷から得る1バレルあたりの収益は増加傾向にあります。要は、イランはホルムズ海峡を支障なく航行できる数少ない湾岸産油国の1つであり、この物流上の優位性により、イランは輸出量を維持できており、対照的に競合他社は深刻な制約に直面しているわけです。
しかし、トランプ大統領にとっては、想定外の事態といえそうです。地域紛争による広範な供給ショックは、国際的な指標価格を1バレルあたり100ドル以上に押し上げ、1バレルあたりの収益を増加させています。ブレント原油は3月26日早朝に1バレルあたり105ドルで取引されていました。
堅調な取引量と価格上昇が相まって、イランは戦争開始以来、数百万ドルもの追加石油収入を得ていることになります。市場アナリストによると、イラン産原油の主要市場は中国の独立系精製業者とのこと。中国以外にも既存の顧客は、広範な供給混乱にもかかわらず、イラン産原油の購入を継続していることは間違いなさそうです。イラン産原油の販売に対する米国の制裁免除措置は、価格割引の縮小に寄与したと見られますが、中国の独立系精製業者以外に顧客基盤を大きく拡大するには至っていません。
ホルムズ海峡をめぐる
現実とトランプ政権の誤算
ベッセント米財務長官は3月19日、トランプ政権が現在海上タンカーに積載されているイラン産原油に対する制裁解除を検討していることを明らかにしました。現在進行中の危機のため、他の湾岸諸国からの原油供給は依然としてホルムズ海峡を通過できない状況にあります。
世界の石油生産量の5分の1が通過するホルムズ海峡の航行量は、イラン紛争勃発以来、大幅に減少しています。しかしながら、TankerTracker.comなどのデータによると、イラン自身は1日あたり110~150万バレルの石油をホルムズ海峡経由で輸送しているようです。堅調な輸送量、高騰する世界価格、そして割引率の低下が相まって、イランの1日あたりの石油収入は大幅に増加しているというわけで、トランプ大統領にとっては「不都合な真実」にほかなりません。
今後は新興国の時代になるでしょう。26年以降、世界経済と政治の牽引役として台頭するのはインドやアセアン諸国と思われます。では、これら新興国が日本に期待するものは何でしょうか?
新興国が日本に期待する
役割と米国再生の条件
グローバルサウスを中心とした新興国は、日本に対して「バランスの取れたパートナー」としての役割を期待しています。具体的には、次のようなものです。
技術提供と人材育成:日本の高度な科学技術、とくに脱炭素やインフラ整備における知見を、対等な立場で共有することを求めています。
「法の支配」と「仲介役」の維持:米中対立や中東戦争において、どちらかの陣営に偏りすぎず、国際法に基づいた公正なルールづくりを主導する「第三の選択肢」としての日本を頼りにしているわけです。
経済安全保障の協力:特定の国(米国や中国)に生殺与奪の権を握られないよう、日本が提唱するサプライチェーンの強靭化への参画を望んでいます。
高市政権は、これらの期待に応えることで「戦略的不可欠性」を確保し、多極化する世界での日本の発言力を守ろうとしていますが、はたして、どこまで成功するでしょうか?
最後に、最大の同盟国の米国の未来はどうなるのでしょうか? 26年現在、米国は深刻な政治的分断と国際的影響力の減退に直面していますが、ポスト・トランプ時代に向けた「復活の種」は着実に蒔かれています。米国の再生可能性とその希望の源泉は、どこに見いだせるでしょうか。
米国史上、極端な政治的偏りはしばしば強力な「揺り戻し」を引き起こしてきました。来る11月の中間選挙では、トランプ政権の強硬な政策に対する国民の反動から、民主党が下院で過半数を奪還する可能性が極めて高いと予測されています。
また、米国の復活を支える最大の物理的基盤は、依然として世界一のエネルギー生産能力にあります。エネルギー・ドミナンスと呼ばれていますが、 現在、米国はシェールオイル・ガスの増産により、世界最大のエネルギー輸出国としての地位を固めています。とはいえ、国内の製油所が老朽化し、ガソリンを製造する工場の能力不足が弱点となっています。中東情勢が不安定化するなか、米国産LNG(液化天然ガス)は欧州やアジアにとって不可欠な生命線となっており、これがポスト・トランプ時代の外交交渉における強力なカードとなります。
政治の混乱とは裏腹に、米国の民間セクターは依然として世界の最先端を走っています。なかでも、AIと量子技術の独占は圧倒的です。OpenAI、NVIDIA、Microsoftといった企業が主導するAI革命は、米国の生産性を劇的に向上させるエンジンです。この点が、「ポスト・トランプ時代」を控える米国の最強の武器といえるでしょう。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








